30 エレオノーラの秘密を知りまして
皇太子妃候補 メイヴィス・モルゲンシュテルン
皇太子 アルフレート・フローリアス(ローゼンタール)
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
子爵令息 クロード・ヘイスティングス
伯爵令息 セドリック・リヴェンデル
伯爵令嬢 ルシエラ・リヴェンデル
廃皇太子 マルテロ
エレオノーラと掴みかかって喧嘩をした。
髪も乱れていたので、アルフレートは私を王族の控え室へと連れていってくれる。
待ち構えていた侍女たちに髪を整えてもらって、お茶を淹れてもらえた。
柔らかい光の差し込む控え室で、温かな香りの紅茶がゆっくりと湯気を立てている。
少し落ち着いた。
色々な意味で。
エレオノーラには腹が立ったけど、アルフレートと2人になれたのはよかった。
共有しておかなければいけない話がある。
「アルフレート様、お話があります」
私がそう言うと、アルフレートは何かを感じたのか人払いをしてくれた。
侍従たちが静かに退室し、扉が閉まると室内は一気に静寂に包まれる。
「どうしたの?エレオノーラになにかヒドイことをされた?」
アルフレートが心配してくれて悪い気はしない。
でも、そうではないと伝えて、アルフレートの隣に座りなおした。
椅子の位置を少しずらして距離を近づけると、アルフレートが少し、顔を赤らめた気がする。
そういう話でもないから、ちょっと戸惑ったけど。
大切な話だから気持ちを切り替えた。
「先ほど、エレオノーラ様と話したのですが、モブという言葉を使ったんです」
私がそう言うと「モブって?」とアルフレートが首を傾げた。
現世に来たことがあるアルフレートでも、モブを知らなかったかと説明した。
「なるほど…つまり、エレオノーラは、異世界…メルヴィス嬢からすると『現世』の言葉を使ったってことか」
「ええ。以前からもしかしてと思ったことがあったのですが。エレオノーラは、たぶん、転生してきた、転生者です」
言葉にすると確信が強まっていくようで、胸の奥がざわついた。
私の言葉に、アルフレートは少し驚いた顔をした。
そうして「異世界転生って、そんなに頻繁にあることなのか?」とアルフレートが首を傾げていた。
私もそう思う。
こんなことが立て続けに起こるなんて、常識では考えにくい。
でも、その答えが今の時点ではしっくりくる。
「転生者だったとして。転生者は権力やお金を欲しがるものなのかな?」
私の話を聞いたアルフレートに尋ねられた。
権力やお金。
私に暴言を吐いたエレオノーラもそう言っていたけど。
アルフレートにもそんなことを言いやがったんだろうか。
許せん。
「まあ…無いよりはあったほうがいいでしょうが。その…誰かを殺してまでっていうのは、考え方が極端かもしれません」
殺すという言葉を使うかどうするか悩んで、アルフレートの様子を見ながらそう伝えた。
アルフレートが「そうか」と言って腕を組む。
何かを思い出しているんだろうか。
「でも、エレオノーラが転生者だとして、ゲームをプレイしたことがあるなら…腑に落ちるところはあるよ」
アルフレートがそう言って私を見る。
「やけに俺のことをよく知ってると思ったことがあったし。それで好意を持ったんだけど。そのうえ、やけに、王城についても詳しいなと思っていたんだ」
その言葉には、今までの違和感を言語化するような確かさがあった。
好感度を上げる会話とか、好感度を上げるプレゼントとか。
私も知っているから、ちょっと後ろめたい気持ちになった。
王城についても、王城を探索して証拠を集める、というストーリーもあったから、それで知ってるんだろう。
もちろん、私もよく知ってる。
アルフレートが私を抱きしめる。
突然の動作に思考が止まり、体温が一気に伝わってくる。
「エレオノーラがメルヴィス嬢の言うとおり、ゲームをプレイしたことがある転生者だとしたら気をつけないといけないね」
抱きしめられたままそう言われた。
頭の上からアルフレートの声が聞こえてくる。
距離が近い分、その響きが直接心に落ちてくるようだった。
「気をつける、と言っても、結婚式までは皇太子妃教育がありますから。心配はないと思います」
ひとりになることはないから、大丈夫だと思う。
「直接、何かをしてくることはないかもしれないけど。俺の『設定』を知ってるなら、敵対している貴族とかも知ってるだろうからね。それに、これから起こる『イベント』も知ってるってことだよね」
アルフレートの口から、ゲーム用語が出てくると変な感じがする。
でも、その通りだろう。
その知識が武器にもなり、同時に脅威にもなる。
設定やイベントを利用して、私を皇太子妃候補から引きづり下ろす計画を立てられる可能性もある。
想像しただけで、背筋がわずかに冷えた。
「そうですよね。だから、エレオノーラの裏をかくためにも、私も転生者であることや、アルフレート様がタイムリープしていることは知られないようにしたほうがいいと思うんです」
そう伝えると、同意してもらえた。
それから2人で、思い出せるかぎりのイベントや設定について話をした。
ちらっとアルフレートを見る。
いつも通り素敵な推しなのだけれど。
少し、考えていることがあった。




