27 推しにからかわれまして
皇太子妃候補 メイヴィス・モルゲンシュテルン
皇太子 アルフレート・フローリアス(ローゼンタール)
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
子爵令息 クロード・ヘイスティングス
伯爵令息 セドリック・リヴェンデル
伯爵令嬢 ルシエラ・リヴェンデル
廃皇太子 マルテロ
「…ああ、じゃあ、ドレスは青だね」
私があたふたしているのをクスッと笑ってみていたアルフレートがそう言った。
設定資料のことを思い出したみたいだ。
たしかに、アルフレートなら青。
「…いえ、赤にしませんか?なんか、ゲームの設定どおりになるのは嫌です」
私がそう言うと、アルフレートが少し驚いた顔をした。
それから、ゆっくり微笑んで「うん、そうしよう」と言ってくれた。
これは、私たちがストーリーを変えるという、決意の狼煙だ。
そんなこんなで。
本日はアルフレートが言っていた夜会のためのドレスを作るため、デザイナーが来ている。
廊下には布の運ばれる音や、控室で交わされる短い会話が響いていた。
一応、皇太子妃候補ということで、一流のデザイナーを呼んでもらえた。
広い部屋には布見本や色見本が整然と並び、華やかな空気が漂っている。
そしてひとり、その空気に押されている。
「アルフレート殿下と並ぶことを考えると、やっぱり青でしょうか?」
デザイナーがそう言ったけど。
「いえ、アルフレート殿下と、赤でそろえることにしたんです」
そう伝えると、目を丸くされた。
最後まで青を勧められたけど、アルフレートと決めてしまったからと、赤のドレスでお願いした。
生地を指で軽く撫でると、絹の滑らかさが指先に残る。
たしか、銀恋に赤色がイメージカラーのキャラクターはいなかったはずだ。
あえていうなら、王様?
イメージカラーというわけじゃないけど、赤と金のイメージ。
重厚で権威的な配色が頭の中に残っている。
そういえば、この…と言っていいかわからないけど。
この銀恋、白銀のティアラというタイトルだけど。
白銀のティアラが出てくるのは結婚式のときにちょろっとだけ、なんだよね。
何かの謎解きに関係してるのかなって思ったけど、ゲーム内の謎解きには一切関係がなかった。
肩透かしのような設定に、当時少し拍子抜けした感覚まで思い出す。
響きがいいからつけられただけだったんだろう。
そうこうしているうちに、王家主催の夜会の日となった。
馬車の音や侍従の足音が慌ただしくなり、王城全体の空気が変わっていく。
王家主催の夜会だから、当然、王や王妃も出席している。
やっぱり、赤と金ってかんじだ。
装飾や衣装が光を受けてきらめき、視界が少し眩しい。
赤いドレスの私は、全然、そんなつもりはなかったけれど、王族っぽくなった。
背筋を自然と伸ばしながら、皇太子妃教育で習った姿勢を体現している。
えらい。
ちゃんと、体に染みついてるぞ。
ちらっと辺りをみてみると、エレオノーラやセドリック、クロードも出席していた。
エレオノーラは緑色のドレスを着ている。
照明の下で布が静かに揺れ、視線を引く色彩だった。
緑色といえば、セドリックのイメージカラーだけど、何か関係があるんだろうか?
頭の中でまた断片的な記憶が浮かんでは消える。
エレオノーラを見ていたら、ふと、目が合った。
一瞬、空気が凍るような緊張が走る。
キッと睨まれる。
悪いけど、私は怯むつもりはない。
視線を逸らさず、静かに受け止める。
睨まれたから、睨み返した。
少し、胸を張る。
今は私のほうが立場は上。
「メイヴィス、ファーストダンスをお願いしても?」
アルフレートに声を掛けられて、少し気分が緩んだ。
気がつかないうちに気を張っていたんだろう。
「エレオノーラ嬢が来ていたね」
アルフレートが私をエスコートしながらそう言った。
ゆっくりと会場の中央へ導かれていく。
「ええ。緑色のドレスでしたから、セドリックと一緒に来たのかもしれませんね」
舞踏会に何度も参加したからか、蝶が舞うようにとはいかないけど、それなりに踊れるようになってきた。
音楽に合わせて身体が自然に動くようになっている。
だから、周りの人からも、それなりの評価がいただけているようだ。
「さすが皇太子妃候補ですわ」というような声も聞こえる。
肩の力がほんの少し抜ける。
「ドレス、赤にしてよかったね」
アルフレートが耳元でそう囁いた。
息が触れる距離の声に、心臓が跳ねる。
「え…、ああ。そう、ですね」
何がよかったのかはわからないけど。
「メルヴィスに、とてもよく似合っている」
そう言って、額にキスしてくれた。
一瞬、周囲の音が遠のいたように感じる。
どうしてこのタイミングなのか。
どうしてキスなのか。
頭がパニックになって、うっかり足がもつれた。
それを、アルフレートが支えてくれる。
強い腕がしっかりと背中を支え、倒れないように引き寄せられる。
結果としてだけど、すごく密着してしまった。
「あら…仲がよろしくて…」
フロアの真ん中で、みんなの視線が集中して顔が熱くなる。
「ア、アルフレート様っ…も、もう、大丈夫です」
なぜかずっと抱きしめてくれているアルフレートに声をかけた。
視線が集まる中で抱きしめられるように支えられて、落ち着かない。
「そう?もうちょっとこのままでいたいんだけど」
アルフレートがそう言って、クスっと笑った。
その笑みが妙に近くて、さらに心拍数が上がる。
推しにからかわれてる…




