25 セドリックと挨拶をしまして
皇太子妃候補 メイヴィス・モルゲンシュテルン
皇太子 アルフレート・フローリアス(ローゼンタール)
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
子爵令息 クロード・ヘイスティングス
伯爵令息 セドリック・リヴェンデル
伯爵令嬢 ルシエラ・リヴェンデル
廃皇太子 マルテロ
それから、アルフレートは皇太子教育、私は皇太子妃教育で忙しくなった。
王城の朝は早い。
私は今、皇太子妃候補であって、皇太子妃ではないので、使用人の方たちと同じように起きる。
窓の外がまだ薄い青に沈んでいる時間から、使用人たちの足音や食器の触れ合う音が静かに響いていた。
アルフレートとあまり話せていないけど、数か月後には結婚式。
結婚式前に、婚約を解消しないといけない。
そのためには、その前にエレオノーラへの復讐を完了しなくてはいけない。
ただ、最近になって思った。
もしかして。
もう復讐、完了してない?
エレオノーラは現状、皇太子妃にはなれない。
アルフレートは、どうしたいと思ってるんだろう。
ヴァランティーヌ家の没落とか?
今の時点で、エレオノーラ本人を何かで断罪するのは無理だ。
たとえ、エレオノーラと関係を持っている誰かを探せたとしても。
婚約者がいないエレオノーラは、誰と関係を持とうが悪くない。
ただ、不安なのは。
自分が皇太子妃になれないとわかって、誰かを殺そうとするかもしれないこと。
今のところターゲットになっているのは私だけど。
アルフレートの記憶によれば、エレオノーラは王や王妃も手にかけてる。
何をするのかわからない怖さはある。
アルフレートがどうしたいのか、エレオノーラが何を考えているのか。
全くわからないけど、今は推しを応援するしかない。
そのためにも、エレオノーラについて調べなくてはいけないだろう。
私の毒殺を手助けしたのがクロードなら、エレオノーラと関係を持っているのはクロードの可能性もあるけど。
ただ、なんとなく。
プライドの高いエレオノーラが、自分より爵位が低いクロードと関係を持たない気がした。
エレオノーラと関係したかもしれない男性リストを見る。
これは、私が独自に作成した、それなりの年齢の男性の一覧図だ。
それを見る限り、プライドの高いエレオノーラが選ぶとしたら。
伯爵令息であるセドリックのほうが可能性はあるんじゃないだろうかと思った。
「一応、引き続き、調べてみますか」
私はまだ、セドリックに会ったことがない、と思う。
記憶の中を探っても、はっきりとした接点は浮かばない。
アルフレートも調べてくれているだろうけど、私も何かお役に立ちたい。
机の上に置かれた招待状の束を見ながら、別の可能性を探る。
どうにかしてセドリックに会える方法はないだろうかと考えていたのだ。
そんなとき、なんとリヴェンデル家のご令嬢からお茶会に誘われた。
封蝋の紋章を見た瞬間、思わず息をのむ。
願ったり叶ったり。
考えるより先に、手が動いて返事を書いていた。
こうして、皇太子妃候補としてリヴェンデル家のお茶会に参加した。
一応、アルフレートには伝えたけど、忙しいようで当日は一緒に行けないと返事があった。
そんなのは当然だから気にしないでと伝えたけど。
護衛を連れていけだの、毒見を連れていけだのと、クドクド言われてしまった。
エレオノーラと関係があるか、まだわからないのに。
馬車が邸宅に近づくにつれて、庭園の手入れの行き届いた緑が視界いっぱいに広がっていく。
邸宅につくと、とても歓迎してもらえた。
リヴェンデル家のご令嬢は控えめで、主催者なのに、全然、前に出てこない。
違和感。
このお茶会、リヴェンデル家のご令嬢が開きたいと言って開催されたのだろうか?
飾られた花々や整えられたテーブルクロスは私の好みのものを選んでくれている。
建前として、皇太子妃候補を歓迎している雰囲気は出ているんだけど。
お茶会を開催するとして。
控えめなご令嬢が、わざわざ面識がない私を呼ぶ必要性を感じない。
アルフレートはこのお茶会に、護衛を3人もつけてくれた。
さらに1人の毒見役。
過保護とも言える体制に、少しだけ苦笑してしまう。
アルフレートが気遣ってくれるのはありがたいけど、なんか、権力を笠に着てますって感じが恥ずかしい。
参加したものの、残念ながら親しく私と話してくれるご令嬢はいなかった。
ただ、わざわざ足を運んだので、リヴェンデル家のご令嬢と話はしたい。
だから隙を見て話しかけてみた。
「あ…皇太子妃候補様。は、初めまして。あの、ルシエラ・リヴェンデルです」
声は少し震えていて、両手を軽く握りしめているのが見えた。
挨拶をされて、私からも挨拶をする。
「あの、本日は、お兄様はお出かけなんですか?」
不躾かとは思ったけど、ストレートに聞いてみた。
「え?兄?…あ、兄は、後程、顔を出すと申しておりました」
ルシエラの視線が一瞬泳ぎ、すぐに戻る。
やっぱり、違和感がある。
ついでだと思って、セドリックのことをそれとなく聞いてみる。
だが残念なことに、これといった収穫はなかった。
お茶会での飲食は控えて、おしゃべりを楽しむ。
カップに口をつけるふりだけをしながら、周囲の会話を観察する。
しばらくすると、見覚えのある人がやってきた。
扉が開いた瞬間、空気が少しだけ変わる。
「これは皇太子妃候補様。本日は妹のお茶会にご参加いただき、ありがとうございます」
落ち着いた声とともに、丁寧な所作で頭を下げる。
この人がセドリックかと、まじまじと見る。
まじまじと見て、どこか見覚えのある人だなと首を傾げた。
「…どうかされましたか、皇太子妃候補様?」
視線に気づいたのか、柔らかく問いかけられる。
セドリックも首を傾げている。
「あ…いえ。どこかでお会いした気がしたんですが。気のせいですね」
曖昧に笑って誤魔化す。
会っていないはずなのに、どうして見たことがあると思ったのか。
ルシエラとも似ていないし…誰かと勘違いしてるんだろうか。
「いえ。舞踏会でお見掛けしています。一時期、アルフレート殿下と…あのころは伯爵令息でしたが。お二人でよく参加されていたでしょう」
そう言われて舞踏会で会ったのかと納得した。
「申し訳ないわ。以前お会いした時のことを失念していたようです」
軽く頭を下げると、空気が少し和らぐ。
セドリックは「いえいえ」と言って笑って許してくれた。
意外と、いい人なのかもしれない。
が、ちょっと私から仕掛けてみることにした。
「今日はエレオノーラ・ヴァランティーヌ伯爵令嬢とはご一緒ではないんですね」
会話の流れを変えるように、わざとその名を出す。
セドリックは少し不思議そうな顔をした。
「エレオノーラ嬢とは知り合いですが。常に一緒にいるほどの仲ではありませんよ?」
そう返された。
嘘をついているようには見えないのだけど、本当のことを言っているようにも見えない。
なんだろう。
思い出せそうで思い出せない感じが気持ち悪い。
そもそも、何を思い出そうとしてるんだろう。
首を傾げながらリヴェンデル家を後にした。




