24 アルフレートの記憶を聞きまして
皇太子妃候補 メイヴィス・モルゲンシュテルン
皇太子 アルフレート・フローリアス(ローゼンタール)
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
子爵令息 クロード・ヘイスティングス
伯爵令息 セドリック・リヴェンデル
伯爵令嬢 ルシエラ・リヴェンデル
廃皇太子 マルテロ
私よりアルフレートのほうが動揺しているように見える。
でも、他のご令嬢がなんともないなら、お茶会のお茶に毒が入っていたとは言い切れないのに。
「メルヴィスは違うって言うけど、おそらく、クロードから薬を手に入れたに違いないんだ」
アルフレートがそう言った。
眉間にシワを寄せている。
そんなアルフレートもかっこいいけれども。
ちょっと考えが飛躍している気もする。
ヘイスティングス家は薬学に長けた家門だけど。
それよりも、私のこと、呼び捨てになっているのが気になる。
そして、まだ抱きしめられているのも気になっている。
「あの…アルフレート様。ご心配いただいて恐縮なのですが…もう、大丈夫です」
そう言っているのに、アルフレートがはなれてくれない。
むしろ腕の力が少し強くなった気がした。
推しに抱きしめられているという興奮で、また意識を失いそうだ。
「心配したんだ。本当に、もう、目を覚まさないんじゃないかと思って…」
アルフレートがそう言ってさらに強く私を抱きしめる。
声が震えていて、いつもの余裕がどこにもない。
本当にキャパオーバーになってしまう。
「あ、アルフレート様っ…ほ、ほんとうに、だ、大丈夫ですからっ」
そう言って、アルフレートの体を押した。
アルフレートと目が合う。
綺麗な瞳。
ゆっくりとアルフレートの顔が近づいてきた。
キスしてもらえる…そう思って目を閉じた。
でも、いつまで経ってもキスはしてもらえない。
ゆっくりと目を開けると、アルフレートが「ごめん」と言った。
顔が熱くなる。胸の奥が一気に跳ね上がるのがわかる。
たぶん、耳まで真っ赤になった。
自分でもわかるくらい熱い。
キスしてもらえないだけじゃなく、謝られてしまった。
期待していた自分が恥ずかしい。
アルフレートは私にご褒美的なキスをしようとしたのかもしれない。
でも、好きでもない私とキスをするのが無理だったのか。
恥ずかしい…
「い、いえ…私のほうこそ、すみません。ご心配をおかけしました」
なんにしても、アルフレートに気を遣わせてしまった。
視線を落としながら、シーツをぎゅっと握る。
「メイヴィスが命を狙われていることは確かだから、これからは護衛と毒見役をつけてね」
そう言って、アルフレートは私を見た。
先ほどまでの動揺を押し込めるように、落ち着こうとしているような話し方だった。
何か、変だ。
「あの…そこまで心配いただくのは何か理由があるんですか?」
思い切って聞いてみた。
たしかに毒を盛られたのは驚きだけど、失敗したんだし。
そこまで心配する必要はない気もする。
「俺が前世で死んだ理由だけど…毒を盛られたんだ」
アルフレートの言葉に息を飲んだ。
どうして死んだのかというのは、デリケートな内容だから。
本人が話すまで聞かないほうがいいかなと、詳しくは聞いていなかった。
エレオノーラに妊娠について聞きにいって殺されたと聞いていたから。
てっきり、ばっさり切られたのかなって思いこんでいた。
「毒殺…」
思わず声に出して、口を押える。
「なかなか言い出せなくてごめん。その…話すと、あのときの苦しみを思い出して」
アルフレートが眉間にシワを寄せる。
推しに、こんな顔をさせるなんて。
私のばかばか。
「い、いえ。言いたくないことは言わなくっていいんです!」
なぜか胸を張ってしまった。
空気を変えたくて、必死だったんだと思う。
「ありがとう。でも、そのときのこと、話すね」
アルフレートは苦しそうに微笑んで、死んだときのことを話してくれた。
窓の外の光が揺れて、彼の横顔に影を落とす。
エレオノーラと妊娠について話し合うというときに、お茶を出されて飲んだそうだ。
それに毒が盛られていて、倒れたらしい。
ただ、恐ろしかったのはその後だとアルフレートは語ってくれた。
「すぐに死ぬ毒じゃなくてね。最初は手足が動かなくなって、呂律が回らなくなったんだ。それから、おそらく、毎日、少しずつ毒を飲まされた」
アルフレートの顔色が悪くなる。
指先がわずかに震えているのが見えた。
どうしてすぐに殺さなかったのか。
それは、エレオノーラの子どもに、確実に王位を継がせるためだったのだろうとアルフレートは推測していた。
「俺が倒れてすぐ、王と王妃が亡くなったと聞いた。それから、エレオノーラがあやしいと言った臣下も死んだそうだ。俺にはどうすることもできないだろうって…エレオノーラが俺に教えてくれたよ」
アルフレートが爪を噛む。
そうとう、悔しかったんだろう。
なにもできないから、アルフレートの背中を撫でた。
それから、エレオノーラは男の子を出産したらしい。
姿は見ていないそうだけど。
アルフレートは、自分が死んだらその子を皇太子にするという書面にサインさせられ。
そうして、その子が成人するまで、エレオノーラが後見人となるという書面にもサインさせられた。
「それで、俺はお役御免。ようやく、苦しみから解放されたんだ」
明るい声を出そうとしているんだろうけど。
喉の奥で何かを押し殺すような響きが混ざっている。
声が震えているのは、怖かったのか、悔しいのか。
その気持ちはわからないけど、苦しかったことだけは伝わった。
思わず、アルフレートを抱きしめてしまった。
今度は私の方から、しっかりと。
「ごめんなさい…知らなくて、ごめんなさい」
心からそう思った。
胸の奥が締めつけられる。
もっと早く、この苦しみを聞いてあげるべきだったのに。




