23 お茶会に参加しまして
皇太子妃候補 メイヴィス・モルゲンシュテルン
皇太子 アルフレート・フローリアス(ローゼンタール)
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
子爵令息 クロード・ヘイスティングス
伯爵令息 セドリック・リヴェンデル
伯爵令嬢 ルシエラ・リヴェンデル
廃皇太子 マルテロ
馬車に揺られながら、窓の外の街並みを眺める。
面倒なことが起こるだろうなと思った理由は。
お茶会の主催者が、エレオノーラだから。
アルフレートには行かないほうがいいと言われたけど。そういうわけにもいかないじゃん…。
「これは、皇太子妃候補様。本日はお招きに応じてくださり、心より感謝申し上げます」
庭園に整えられた白いテーブルの前で、エレオノーラは『候補』というところを強調して挨拶してきた。微笑みは完璧だが、チラッと本音を隠している『仮面』が見える。
「こちらこそ、お招きにあずかり光栄に存じます。お会いできるのを楽しみにしておりました」
社交辞令とは、まさにこのこと。
口角だけを丁寧に上げながら答える。
「できれば会いたくなかった」が本音だよん。
久しぶりに会ったエレオノーラには、いつの間にか取り巻きができていた。
扇子を揃えた令嬢たちが左右に控え、私を値踏みしている。
ビジュアルだけ見れば、悪役令嬢っぽい。
私の愛したヒロインが、どんどん変わっていくのがちょっと悲しかった。
取り巻きの令嬢が私を見ながらニヤニヤしている。
扇子越しに小声で囁き合い、わざと聞こえるように笑う。
一応、私、皇太子妃候補なんですけどね。
「皇太子妃候補様、誠におめでとうございます。殿下は『今この瞬間に最も美しい花』を愛でる情熱をお持ちなのですね。あなた様が選ばれたのも納得ですわ」
「花には必ず季節がございますものね。今は珍しく美しくともてはやしているのでしょうが、次の季節になればより鮮やかで殿下の瞳を奪う『真にふさわしい大輪』が咲き誇るものですわ」
取り巻きの令嬢がそう言って、エレオノーラを見る。
これは「THE ご令嬢言葉」である。
上の文章を訳すと、アルフレートは私のことなどすぐに飽きて、エレオノーラを皇太子妃にするだろう、ということかな。
わかりやすく、ストレートに言ってほしい。
「お言葉、痛み入りますわ。ですがご安心を。殿下がお選びになったのは、ただ手折って飾るだけの切り花ではなく、この地の土深く根を張り、決して枯れることのない大樹」
そう伝えて、エレオノーラを見る。
風が吹き、テーブルクロスがわずかに揺れた。
「殿下は数多ある凡庸な花々の中から、私を見つけてくださいました。次の季節に何が咲こうとも、殿下の隣に並ぶのは私だけ…なんて。惚気すぎましたね」
そう言って上品に笑ってみた。
訳すまでもないけど、上のご令嬢言葉を訳すとしたら。
アルフレートが選ぶとしたら、永遠に愛する人。
そんな彼が私を見つけてくれたのだから、ずっと私を愛してくれるはずです。
と言ったところか。
エレオノーラが私を冷ややかな目で見る。
でも、すぐに明るい表情に変わった。
「本当に噂通り、仲がよろしいのですね。…さあ、お茶が冷めてしまいます。おすすめのお茶をご用意いたしましたの」
エレオノーラがそう言って、私を案内した。
白いティーカップが並び、湯気が静かに立ち上る。
それからは、これといって絡まれることなく、無駄な話が続く。
「そういえば、皇太子妃候補様は、アルミニウム?とやらの商品を販売されているんですよね」
ふいに話題を振られて驚く。
カップを持つ手が一瞬止まる。
「え?…ああ、はい。ふふ…そうですね。どんどん採れる材料ですので、然るべき形に変え、国益に資するよう役立てる予定なんです」
そう言って適当に誤魔化した。
「国の利益についても考えるなんて、素晴らしいですわ」
そう言って褒められてしまった。
褒められるのは悪くない気分だ。
それに、エレオノーラがおすすめと言っていたお茶も美味しい。
香りがやけに柔らかく、喉をすっと通る。
なんだかんだ、雰囲気よくお茶会を終えることができた。
「では、皆さま、私はこれで」
そう挨拶をして帰ろうとして、少し咳き込む。
喉がヒリヒリする。
何か変なものでも口に入ったかなと口を押さえた手を見ると血がついていた。
なぜ、血がついたのかしら。
そう思ったら、頭がクラっとして、意識を失った。
「ん…」
薄く差し込む光に目を細めながら、ゆっくりと身じろぎする。
頭の奥が鈍く脈打つように痛み、思考が水の中に沈んでいるように重い。
ベッドの感触を確かめるように体を横にし、シーツを握りしめた。
頭痛に耐えていたら、少しずつ意識がはっきりとしてきた。
天井の装飾やカーテンの色が視界に入り、ここが見慣れた場所であることをようやく理解する。
たしか、エレオノーラ主催のお茶会に出席して。
そこで、胸の奥が急に苦しくなって。
血を見て、倒れた。
それを思い出して、目を覚ます。
指先がわずかに震え、喉が乾いているのを自覚した瞬間。
「っ!メイヴィス!…目が覚めた?い、医者、医者をっ!」
慌ただしい足音とともに、誰かが立ち上がる気配がする。
見上げると、アルフレートが私の手を握っていてくれた。
いつもより顔色が悪く、目の下にはうっすらと影が落ちている。
「あら…アルフレート様…ここは、私の部屋ですか?」
まだ少し頭が痛い。
視界の端が揺れるような感覚をこらえながら、ゆっくりと瞬きをする。
「私の部屋って…そうだよ」
そう言って、アルフレートが私を抱きしめてくれた。
布越しに伝わる体温がやけに近くて、心臓が落ち着かない。
たかが貧血で、こんなに心配されて申し訳ない。
そう思っていたのだけれど、アルフレートから話を聞いたところ、毒を飲まされたらしい。
「あきらかに、君を狙ったものだ。他のご令嬢は平気だったし」
アルフレートがそう言った。
握られた手に力がこもる。
「ま、待ってください。他のご令嬢って。お茶会のお茶に、毒が入っていたんですか?」
「そうとしか、考えられないじゃないか!」
アルフレートが珍しく怒っている。
声が少し掠れているようだ。
毒…まさか、私。
殺されかけた?




