19 婚約することになりまして
伯爵令嬢 メイヴィス・モルゲンシュテルン
伯爵令息 アルフレート・ローゼンタール
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
いよいよ婚約について、話を詰めるときがきた。
少し、この国の結婚と婚約について補足しておこうと思う。
この国は、一夫一婦制。
1人の夫に1人の妻、という婚姻制度だ。
そして、1度愛し合うと決めた2人は、生涯を添い遂げるという、乙女チックな考え方がある。
だから、婚約すると、結婚と同様に書類を提出する決まりとなっていた。
婚約の時点で役所のような機関に正式に記録されるため、軽い話では済まない。
そうして、結婚の日とか、どちらの家に住むとか、そういう内容が記載される婚約証明書というのが発行されるのだ。
婚約証明書が発行されると、婚約期間中も不貞行為が認定される。
さらに、結婚と同様、婚約を解消するのも大事になっちゃう。
結婚する前から法的拘束力を持つ関係になるという、ちょっと重たい国なのである。
逆に考えると、1度婚約してしまえば、よほどのことがないかぎり、生涯を共にする関係になれる。
よほどのことってどんなことかって?
それは例えば、相手が死んでしまう、とかだ。
そんなわけで、アルフレートは焦っているようだった。
なぜなら、エレオノーラは我が国でも名家のヴァランティーヌ家のご令嬢だからだ。
皇太子妃としては申し分のない身分。
実際に、前回はアルフレートからエレオノーラと婚約したいと申し出て婚約が成立している。
だが、今回はアルフレートから申し出ることはない。
エレオノーラはそれがわからないほど、お花畑な頭ではないと思う。
むしろ鋭いからこそ、次の手を打ってくる可能性のほうが高い。
だとしたら、おそらく、エレオノーラはヴァランティーヌ家の力を使ってくる。
アルフレートは王の子とされているが、今はまだローゼンタール家に籍がある。
とすると。
ヴァランティーヌ家との繋がりは、ローゼンタール家としても欲しいだろう。
家同士で話がついてしまうと、そこからの婚約解消は難しくなる。
エレオノーラと婚約させられる前に、私と婚約してしまいたいのだろう。
推しとこんなカタチで婚約することになるとは思わなかったけど。
婚約証明書は発行せず、発行したことにすることにした。
「あくまでも、フリですから」
私がそう言って押し切った。
フリであっても、両親の承諾は得ないといけない。
カタチばかりの書面を作成する。
モルゲンシュテルン家は全く問題ない。
誰一人として異論を唱えなかった。
というか、アルフレートと一緒に話に行ったから、何も言えなかったが正しいだろう。
同じ伯爵家でも、ローゼンタール家のほうがずっと名家だから。
むしろ「わざわざお越しいただいて」と恐縮していた。
ローゼンタール家のほうは、まあ、あまりいい顔はされなかったけれど。
伯爵夫人とは以前お会いしていたから「仕方ないですね」と言われてしまった。
ローゼンタール伯爵は納得いかないと最初は怒ったけど。
伯爵夫人とアルフレートが説得してくれたらしい。
ここまでを、秘密裏におこなう。
誰にも悟られないよう、慎重に手続きを進めた。
書類の受け渡しも人目を避けて行われ、関係者以外には一切知らせない。
まるで国家機密でも扱っているかのような厳重さだった。
ある意味、国家機密ではあるけど。
その後、王と王妃に『事後報告』で伝えた。
王城の一室。
高い窓から差し込む陽光の中で報告を受けた2人は、しばらく言葉を失っていた。
王は目を見開き、王妃も扇子を持つ手を止めている。
たぶん、従者や侍女も、耳を疑ったんだろう。
遠慮のない視線が降り注がれた。
「まあ、そうね。メイヴィス嬢は、アルミニウムを発見したご令嬢でもあるから」
王妃が、わけのわからないことを言った。
私はそんなもの、発見していないけど?
思わず瞬きを繰り返す。
そんな偉業を成し遂げた覚えはなかった。
それは、我が推し、アルフレートの偉業だ。
「あ、俺が、そういうことにしておいたんだ」
アルフレートにそう言われて驚く。
隣に立つ彼は、悪びれる様子もなくさらりと言ってのけた。
私の推しは、策士でもあったのか。
その整った横顔を見上げながら、私は内心で大きく動揺する。
まさか、証拠集めのために適当に口にした商品が完成して。
しかも予想以上の人気商品になり、街でも噂になるほど広まって。
発見者だからと婚約者にすんなりなれるなんて。
本来なら越えなければならないはずの高い壁を、気づけばあっさり通り抜けてしまっている。
なにか、チートな力が働いている気がする。
順調すぎて、不安になった。
ここまであまりにもスムーズに話が進んできたから、うっかり忘れそうになっていたけど。
王と王妃に報告をしたらから、次はいよいよ、国民への発表となる。
私とアルフレートが婚約するとわかったら、エレオノーラは何をしてくるかわからない。
十分に気をつけないと。




