17 3人のお茶会の話を聞きまして
伯爵令嬢 メイヴィス・モルゲンシュテルン
伯爵令息 アルフレート・ローゼンタール
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
伯爵 ディミトリ・オルブライト
アルフレートが皇太子候補になって、ローゼンタール伯爵夫人と王妃と3人でお茶をしたらしい。
王城の奥にある離宮の一室で開かれたお茶会だったと聞く。
季節の花が飾られ、香り高い紅茶が用意された、いかにも王族らしい優雅な席だったそうだ。
らしい、というのは聞いた話だから。
さすがに、私はその場にいることができなかった。
お付き合いをしているならどうぞ、と言っていただけたんだけど。
「殴り合いのけんかになる可能性もあるから」とアルフレートが真剣に言うから遠慮させていただいた。
あのアルフレートが本気の顔でそう言うのだから、冗談ではないのだろう。
アルフレートはずいぶんと緊張して行ったらしい。
茶会の前日はほとんど眠れなかったそうだ。
現世でいうなら、妻と不倫相手が会おうって話だ。
ところが。
王妃とローゼンタール伯爵夫人は始終、穏やかだったそうだ。
予想していたような険悪な空気は一切なく、むしろ落ち着いた雰囲気で紅茶を楽しんでいたらしい。
「王帝陛下とは10代で知り合いまして。何も知らない小娘が、うっかり恋心をいだいたのです」
ローゼンタール伯爵夫人がそう、王妃に話したそうだ。
紅茶のカップを静かに持ち上げながら、穏やかな口調で昔話をしたらしい。
王が結婚するとわかって、うっかり関係を持ってしまったこと。
妊娠がわかる前に、ローゼンタール伯爵と結婚したこと。
妊娠がわかって、すぐにローゼンタール伯爵にそれを伝えたこと。
それでも、伯爵は我が子として育ててくれると言ってくれたこと。
長年胸の内にしまっていた出来事を、夫人は一つひとつ丁寧に語ったそうだ。
その横顔に後ろめたさはなく、ただ過去を振り返る落ち着きだけがあったという。
アルフレートも知らなかったことを聞けてよかったと言っていた。
「いまでは、すっかり、主人一筋になりました。王妃には申し訳ありませんが、王への気持ちは、幼い小娘が恋を愛だと勘違いしていただけだと、今ははっきりとわかるのです」
ローゼンタール伯爵夫人がそう王妃に伝えると、王妃は面白そうに笑ったそうだ。
「そうですか。女性は1つや2つ、秘密があったほうがいいと言われますが。伯爵にお話になっていたのね」
王妃はそう言って、少し遠い目をする。
窓の外へ視線を向けるようにして、しばらく何かを思い出していたそうだ。
「私は、言わなかったけど」
そう、付け足したとか。
ローゼンタール伯爵夫人は何も反応しなかったそうだが、その場にいたアルフレートには十分すぎる破壊力だったらしい。
その言葉を聞いて、アルフレートは心底、肝が冷えたと言った。
手に持っていたティーカップを落とさなかっただけ褒めてほしいと、真顔で語っていた。
つまり…
そこまで考えて、やめておいた。
廃太子が実は誰の子かなんて、考えても仕方がない。
私も女性だけど。
女性とは、とても怖い生き物なのかもしれない。
窓の外では風に揺れた木々がさらさらと葉を鳴らしていた。
私は紅茶の入ったカップを両手で包み込みながら、世の中には知らない方が幸せな秘密というものが確かに存在するのだろうな、としみじみ思った。




