98話:エースピッチャー
「皆さんこんにちは。11月22日金曜日の11時半となりました。本日の前場が終了しました。前引けの日経平均は……」
:こん
:こんにちは
:こんちゃ
:何で前場?ww
:いや、間違ってはないけど
:フードファイターは株式投資家だった?
:デイトレ……なんかするよりもモンスター倒してる方が稼げるだろうから、やってないか
「いや、いつも11時半から始めてるけど、何かこのチャンネルの挨拶が欲しいなって思って。それで11時半に何かあるかなって調べたら、日本の株式市場の前半が11時半までって分かって。それで投資系の配信番組を見て考えたんだけど、なんか違うよな。投資は自分と武器防具にするだけで十分だし。
なんかいい挨拶案あったらコメントしておいてくれ」
:挨拶あるといいよな
:一体感が出るもん
:似合わない事はしない方がいいww
:無理しても続かないぞ
:自分と武器防具への投資をしてるだけ偉い
:投資しないと死ぬかもしれない環境だもんな
:もっといい武器防具にする予定あるの?
:挨拶案か
:視聴者に丸投げすなww
:11時半は固定なのなら、昼前っぽい挨拶がいいよな
:フードファイターなら、普通に『いただきます』とか?
:昼休み、昼ごはん、早弁あたりが絡むといいか?
:『おはこんばんちわ』みたいにくっつけるか
:『いただきます』と『こんにちわ』を足して『いただきちわ』ってダサいなw
:配信開始してすぐに弁当食べ始めるなら、シンプルに『いただきます』でいいんじゃない?
早速挨拶案が書き込まれてるな。多いのは『いただきます』か。まぁ自然で、変に頑張ってる感も無くていいかも。
「じゃあ早速、いつものように弁当を食べていきます。いただきます」
:いただきます
:どうぞ召し上がれ
:俺も昼飯食べよ
:配信に合わせて準備しておいた
:コンビニで買ってきた
:見てると食べたくなるんだよな
:今日のメニューはなんですか?
「今日もドラフトホースだが……1つ目はローストホースだな。じゃあ残り2つが野菜入りのはずで……何だろ。細切りの肉とピーマン、パプリカ、この色だしオイスターソース炒めかな」
:ローストホース美味しそうだよな
:数枚食べたい
:ちょっと食べたい
:全部は無理だから一口ください
:全部=1kgか……
:チンジャオロースっぽい
:オイスターソース炒めってチンジャオロースか
:豚肉じゃないからオイスターソース炒めなのかな?
:米が欲しくなる
:よくご飯無しでその量食べられるな
:酒が欲しい
「ってか、視聴者のみんなも、毎回よく見に来るよな。最近変わり映えしないのに」
:昼飯のお供になってる
:変わり映えしなくても、見逃した時に何かあったら後悔しそう
:ドラフトホースを余裕で倒している配信は何度見てもいい
:普通はこんな短時間でドラフトホースを倒せないんだよな
:変わり映えしないって言ってるけど、毎日ご飯変わってる
:しれっと18層じゃなくて19層に移動してるよな?
:ドラフトホースが最初より大きくなってるぞ
:あ、やっぱり大きくなってるよな?
:18層と19層って適正レベルが5違うはずなのに、全く差を感じさせないって事は、やっぱりフードファイターの強さはトリプル以上なのか
気づいている人もいるみたいだな。
「コメントの通り、すぐに19層に場所を移してるよ。まぁどっちも稼ぎは同じで、1階層分遠いから18層の方がいいんだけど、戦闘訓練のためには19層の方がいいからな」
:稼ぎ同じなのか
:重くて持ちきれてないもんな
:1人で持ちきるのは無理
:あと3人くらい欲しい
:戦闘訓練か
:レベル以外で強くなる必要はあるよな
:弱すぎると剣術の勘が鈍るもんな
:どっちでも三角跳びして衝突させて後ろから斬りつけてるんだが、勘が鈍るのか?
「迫力とか緊張感とかそういう点で19層の方がいいからな」
:なるほど
:緊張感を持って戦うのは大事
:作業になっちゃダメだな
:なぁ、それなら後ろに森が見えるんじゃない?
:確かに
:なんで真上からのカメラアングル?
:周りの地面しか見えない
:地面が緑じゃないぞ?
:渓谷の近くなら白っぽいよな
:茶色っぽい?
:確かに
:いや、まさかな……
:早すぎるって……
:でも想定レベル120だぞ?
ちょいちょい勘のいい人がいるな。
「『君たちのような勘のいい視聴者は嫌いだよ』……いやぁー、一度言ってみたかったんだよな。別に嫌いにはならないし、食い終われば分かるからな」
:はい?
:ん?
:何か勘のいいコメントがあったの?
:えっ、マジで?
:もしかして、19層じゃない?
:19層じゃないとしたら……
ちょっとコメント欄がざわついているけど関係無い。
よし、食い終わった。
「ごちそうさまでした。じゃあ行くか」
タッパーをカバンにしまって、立ち上がって軽く身体をほぐす。
そして俺が動き出すと、その後ろをドローンが追いかけてくるようにしているので、この階層の様子が配信に映し出される。
:やっぱりーー!!
:森でも渓谷でも無いやん!
:岩山?
:奥羽ダンジョンの岩山って……
:あそこしかないだろ!
:なぁ、あの山の上に岩が浮かんでいるように見えるのは俺だけ?
:奇遇だな、俺にも浮かんでいる岩が見える
:これが20層からの岩山エリアか
:初めて見た
:映像なんて一般に出回ってないだろ
:協会は配信OKしたの?
:映して大丈夫なやつ?
:というか、20層のモンスター倒せるのか?
:19層より適正レベル+15だよな……
:想定120レベルのフードファイターなら大丈夫だとは思うけど
そこら辺の質問には答えない。その方がハラハラして楽しんでくれるだろう。
俺は岩山に向かって歩いていく。しっかりと障害物になりそうな岩に隠れながら、周りを確認する事を忘れない。
:これが20層……
:岩ばっかりで木が無い
:木は無いけど、岩のせいで視界はそれほど良くないな
:隠れやすい場所とも言えるけど
:えっと、ここにいるモンスターは……
:なんか見た事ありそうなモンスターだな
:でも20層にいるんだろ?
そう。20層のモンスターはどこかで見た事のあるモンスターだ。
馬型はデブリシューター。10層のストライクホースの強化版、上位種って感じだ。
それなら熊型はどうなるのか。
ドゴンッ!
いくつかの岩場を越えて、次へと向けて顔を出した所で素早く岩場に戻った。そして、直後に響く岩のぶつかる音。
いたな。
ドゴンッ!
:何の音!?
:何かぶつかった感じ!
:岩場に当たってるのか!
:結構な重さと威力がありそう
:一発ずつだな
:という事は熊か!
:エースピッチャーの登場だな
そこにいたのは20層の熊型モンスター、エースグリズリー。
こいつもデブリシューターと同じで遠距離型。そして10層にいるボルダーグラップラーの上位種のようなモンスターだ。
ドゴンッ!
こちらの存在を認識したエースグリズリーは、一定の間隔で俺の隠れている岩場へと攻撃をしてくる。
ここまでは協会にあった情報通り。敵を見つけると敵がいなくなるまでひたすらに岩を投げてくる。
その攻撃間隔は約3秒。浮かんでいる岩を掴んでは投げ、掴んでは投げ。
デブリシューターが後ろ足を浮かせてから蹴りつけるのとは違って、後ろ足2本で立ち上がって、まるで野球のピッチャーのように投げてくる。
一度の攻撃で一発しか飛んでこないが、その代わりに攻撃間隔は短い。そして。
ドゴンッ!
「俺が顔を出した場所ギリギリに的確に当ててるな」
攻撃の精度、つまりコントロールがとても良い。デブリシューターがショットガンなのに対して、エースグリズリーはスナイパーライフルって感じか。
そして、精度だけじゃなくて威力もデブリシューター以上だ。デブリシューターが約150kmなのに対して、エースグリズリーは約180kmらしい。エースピッチャーだな。
ドゴンッ!
だが、次の攻撃まで数秒の時間がある。つまり、着弾直後であれば顔を出した瞬間に攻撃を受ける事は無い。
着弾と同時に岩場を飛び出し、攻撃の発射地点にいるエースグリズリーへと駆けていく。悠斗の作った靴が今日も地面をガチッと確実に捉えてくれる。
奴の左側には岩が浮かんでおり、既に次の岩を掴んでいる。そこから右腕を後ろに引きながら、後ろへと体重をかけた。そして、前に重心を移動させながら腰・胸の順番に捻り、右腕を上から振り下ろした。
シュンッ!
振り下ろされた瞬間に腕から放たれた岩をしっかりと視界に捉えていたので、冷静に横へと跳んで避ける。スレスレというわけではないが、横を通り過ぎた岩は空を切る音を奏でながら後方へと飛んでいった。
:見えた?
:速っ!
:音しか聞こえなかった
:見えない
:見えたけど、怖いな
:見えてない視聴者多いな
:レベルが上がると動体視力とかも良くなるみたいだから、見えてるのは高レベル冒険者だけか?
速さに慣れたのか、それともAbsorbスキルで上がったステータスのおかげなのか。
俺にとっては、速いけど問題なく対処できるレベルのスピードでしかない。
そもそも、いつ放たれるのか分からない不意打ちではないのだ。敵の動きを見ていればタイミングは分かるから、その瞬間に集中すればいい。
シュンッ! シュンッ! シュンッ!
危なげなく攻撃を避けながら少しずつエースグリズリーへと近づいていく。これで向こうも下がって離れようとするなら厄介だが、弾丸の補充ができなくなるため、その場から動かない。
しかも、エースグリズリーと俺の直線上に浮かんでいる岩が挟まるような射角を意識して動いている。攻撃しようとして岩と被れば、エースグリズリーは攻撃を中断して俺を狙いやすい場所へと移動する。そのため、攻撃間隔が3秒以上になるタイミングもあるのだ。
:もう少し!
:もうすぐ間合いに入るぞ
:遠距離型のモンスターなら近づけば勝ちだな
:勝ったな
:ここからだ
:まだ油断できない
10層のボルダーグラップラーの上位種と言われているなら分かるだろう。
浮かんだ岩を中心にして、反対側へと位置取った俺は、そこから一気に踏み込み、間合いに入った。
それに対して、エースグリズリーは投球に使っていたのとは反対の腕、左腕を振り下ろしてきた。あの豪速球を投げる事ができるなら、必然的に腕を振り下ろしての攻撃の威力も強いものとなる。
ガギイィィィンンッ!!
迎え撃つために振り上げた剣と爪がぶつかり、甲高い金属音が辺りに鳴り響く。
その場をほとんど動かないため、敏捷性は低い。だが、その分を腕力に振っているのか、その攻撃を弾き返す事ができない。
:すごい威力!
:それを受け止めるのもすげー
:よく止められたな
:やっぱり適正レベルより全然強いな、フードファイター
:あれを受けようとするなって協会の情報にあるだろうが……
今の俺のステータスでも受け止めるのが精一杯だ。つまり、適正レベルの冒険者が受けるべきものではない。受けるとしても、両手盾で防御全振りするような形じゃないとダメとされている。
確かにパワーは脅威だ。だが、敏捷が低いという弱点があるのだから、そこをちゃんとつけばいい。
俺は剣にかかる圧力を受け流すように力を抜きながら、右足を軸に反時計回りに回転する。回転しながら右へと身体を傾け、素早いステップでエースグリズリーの右後ろへと一瞬で回り込んだ。
動きが遅いのだから、後ろに回り込めば一気に弱体化する。
回転のスピードを活かして、左後ろ足の膝裏を狙って一閃を放つ。
:力負けしたかと思った
:上手く流したぁ!
:相手の力を利用して回転!
:華麗なターン
:後ろを取った!
:いける!
ズジャッ
鈍い音を立てて、エースグリズリーの肉を斬り裂いた。
若干浅かったが、それで十分だ。返す刀で右後ろ足も斬り裂くと、エースグリズリーは二本足で立ち続ける事ができなくなり、前へと倒れ込む。前足を地面について這いつくばる体勢になれば、こいつの強みは一切発揮されない。
そのまま深く踏み込んで後ろ足を完全に切断してから、背中へと飛び乗って無防備となった首筋へと上から一気に刃を突き立て、横一文字に引き抜いた。
:攻撃入った!
:反対の足も!
:倒れるぞ!
:おぉ!
:あの太い足を切断できるのか……
:圧倒的
:結果を見れば危なげない戦いだったな
:フードファイターでも弾き返せなかった時は、一瞬ヒヤッとしたわ……
:推定レベル120は伊達じゃないな
:このまま21層、22層も行けるんじゃないか!
エースグリズリーを倒すと、コメント欄は歓喜と興奮の声で溢れかえった。
なんだろうな。本人が最初に倒した時よりも喜んでる気がする。
俺は毎回安全マージンをしっかりとって挑んでるつもりだから、初めて倒してもそこまでの喜びは無い。計画通り、予想通りって感じだ。
だが、視聴者からしたら俺の実力はまだ未知数だからドキドキするし、倒せれば喜べる。ある意味羨ましいな。
まぁ、だからといって無茶をするつもりはない。これからもしっかりとAbsorbスキルで強化して、安全に先へと進んでいくだけだ。
「じゃあ、解体しながら質問に答えていくか」




