90話:食事配信
翌日。配信4日目。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺い致します」
「肉の買取と、撮影ドローンの貸出をお願いします」
そう言って、ドラフトホースの肉を受付に置く。
「配信の時間が変わったけど、何かあったのかしら?」
どうやって俺が来たのを知ったのか、伊達さんが俺の後ろに現れた。
この人、忍か何かだったりしない?
「特に何かあったわけじゃないですよ。単に配信時間を長くした方がいいかなっていうのと、昼休みに見れる方がいいかなって思いまして」
「配信時間が長くなるの? 11時半スタートにすると?」
奥羽ダンジョンに到着して、一度18層に降りてドラフトホースを倒して肉を売る。そこから18層に戻ると11時ちょっとだから、11時半からの配信には間に合う。
「その時間なら昼食をとりながら質問返しをして、そこからモンスターを倒す形にできるから、昼食時間の分だけ長くなるんで。あと、それならモンスターを倒すのは12時過ぎになるから、視聴者が見やすいかなって」
「昼食ってダンジョンで食べるの?」
「まぁそうですね。さすがに今はロッカーに置いてますけど。ドローンを受け取ったら弁当を持って18層に戻ります」
俺の言葉を聞いて、伊達さんは何かを考えていた。
「まぁ大丈夫でしょ。気をつけてちょうだいね。こっちでも配信は確認するけど、そもそもモンスターとの戦闘で怪我をするのは、協会としても避けて欲しいからね」
「大丈夫ですよ。無理はしないようにしているんで」
「フォレストランナーの落下攻撃を受け止めるのも、無理はしていないと?」
伊達さんの目が鋭く光った。あっ、怒ってる?
「ギリギリにはならないようにしてますよ。大丈夫です」
大丈夫。あの時も自信はあったから。
「はぁー。君の事は協会の上層部も目をつけて期待してるんだから、無茶だけはしないでちょうだいね」
無茶しなかったら冒険者になんてならないと思うんだけどな。
「分かりました。あと、今日の配信はちゃんと見ておいて下さい。ちょっとした情報を公開しますから」
「……ねぇ、その情報、事前に教えてもらえない?」
「サプライズの方がいいですよ。まぁ悪い事ではないですし」
「せめて、どういう種類の情報なのかだけでも事前に教えてもらえる? マスコミから連絡が来た時にこっちで対応しないといけないんだから!」
マスコミか。俺が配信で伝えるんだから、そっちで聞いてくれないかな。
「いいですけど、マスコミには基本的に配信で質問するように返事してもらえますか? どこかのマスコミだけを優遇したくないので」
「分かった、そう答えておく。それで、どういう情報なの?」
まぁすぐに分かる事だし、伊達さんにこのタイミングで伝えても問題ないだろう。
「俺のスキルとレベルについてです。あとは、レベル上げのコツみたいなものですね」
「……内容によっては、帰ってきてから詳細を詳しく教えてもらうわよ?」
「まぁいいですよ。詳細なんて大した事じゃないでしょうし」
「……はぁー、分かった。君の配信、ここまででも結構ビックリ情報が多いんだけど、今日はもっとスゴイって事か」
伊達さんが疲れた様子を見せているけど、もっと疲れる事になるんだろうか。
ご愁傷さまです。まぁ、手数料は払っているんだから、そこはその金額分働いてもらわなきゃ。
「お待たせしました。ドラフトホースの肉140kgで308,000円となります。そこから税金、保険料、手数料を引いて、231,000円となります。振込先は冒険者カードで良いでしょうか?」
「はい、それでお願いします」
「かしこまりました。あと、こちら撮影ドローンです」
「ありがとうございます。じゃあ伊達さん、行ってきますね」
ドローンを胸に抱えて、一旦ロッカーに寄って弁当をカバンに入れてから、18層へと戻っていった。
「どうも皆さん、こんにちは。今日もたくさんいますね」
:こん
:こんにちは
:こんちゃ
:今日もサンキュー
:今日は何が見られるのか
:ワクワク
:ドキドキ
:ハラハラ
:チャンネル名決まった?
:チャンネル名のコメント、めっちゃ多かったな
:チャンネル名大喜利みたいになってたww
:チャンネル名以外のコメントも多かった
:コメント欄の量がヤバい
3日間と比べて、視聴者が多い。というか、毎回右肩上がりで増えている。そろそろ落ち着くかな。
コメントの量に圧倒されつつ、俺は配信に意識を戻す。
「時間の変更はチャンネルの投稿欄と、掲示板に書いた通りだけど、それにしても多いな。昼休み前倒しにしてる人もいるのか?」
:早い昼休みです
:9時半より11時半の方がありがたい
:前引け後に見れていいわ
:まぁ午前中ソワソワして、仕事に集中できなかったけどww
:配信に間に合わせるために、仕事頑張った!
仕事頑張って効率上がった人と、仕事に支障が出た人がいるな。まぁこの時間にするのは問題なさそうだな。
「じゃあ、飯食べながら質問返しとかしていくな。その前に、ここは18層の森の手前で、カメラは階段側を映さないようにしてるから、冒険者の方も気にせずに18層の階段を通ってもらって大丈夫ですよ」
他の冒険者の迷惑にはならないように、でもモンスターはこない場所じゃないと飯を落ち着いて食べられないからな。
:配慮してるのは分かるが、18層にそんなに冒険者は来ないだろ
:通ってもらって大丈夫→行っても普通の冒険者はモンスター倒せない
:しかも仙台入口を使ってないとそこは通らないからな
:仙台入口を使ってて、18層にいける冒険者ってどんだけいるの?
どれだけいるんだろうな。伊達さんに聞けば分かりそうだけど、まぁ俺には関係無いから無視だな。
とりあえず、カバンから弁当を取り出して、昼食タイムとしようか。
:何か出したぞ
:話からすれば、昼食だよな?
:弁当箱??
:タッパーだよな?
:デカすぎじゃない!?
:おっ、フードファイターが食べる所を見れるのか!
:野営している時以外でもこの量食ってるんだな
弁当は普通の弁当箱には入りきらないので、いつからか特大のタッパーを3つ持たされるようになった。タッパー1つに1kg分の肉が入っている計算だ。肉以外の野菜とかも入っているから、総重量は3kg以上ある。
今日もドラフトホースの肉を使った、スタミナ炒めとローストホースだ。個人的にはローストホースだけにして4kgくらい入れて欲しいんだが、栄養バランスを考えられていて、必ず野菜を使った料理が含まれている。肉だけで3kgは必ず入れてくれてるし、瀬奈のスキルの効果も乗っているから文句は言えない。もちろん美味しいんだし。
「それじゃあ、いただきます。あっ、口に食べ物を入れたまま喋るなって指摘は無しでよろしく。そうしないと無言配信になるからな」
:美味そう
:美味そう
:ローストビーフと野菜炒め?
:米が無い
:米食え、米
:どんだけの量が入ってるんだよ
:kg単位であるよな?
食べる順番にこだわりは無いから、とりあえず2つあるスタミナ炒めから手を付けるか。
スタミナ炒めの入ったタッパーを持ち、ガツガツと口に運んでいく。ジューシーな肉汁とニンニクの風味が口いっぱいに広がる。
「じゃあ、食べながら質問返し。その前に、昨日募集したチャンネル名だけど」
そういいながら、箸を左手に持ち、右手でスマホを操作する。
「色々とコメントで候補をもらって、色々と見た感じ、『ダンジョン』って単語は入れた方が分かりやすそうだったんだよな。他には、俺のキャラクターが伝わりやすい単語があるといいみたいに思った。
その結果、この名前になりました」
:『フードファイト・ダンジョン』です
チャンネル名を変更して、そのまま配信ページでコメントに書き込んだ。
:フードファイト・ダンジョン?
:ダンジョンって単語があるのは分かるけど、フードファイト?
:伊藤さんを表す伝わりやすい単語が『フードファイト』?
:まぁ今、スゴイ量を食べ進めているのを目の当たりにしてるけどさ
:おー! フードファイターだから、フードファイトって事なら分かりやすい!
:俺だぞ、フードファイターって提案したの!
:初回からちょくちょく見かける、フードファイターって何なの?
:伊藤さんの掲示板を見ると、坊主のフードファイターっ名乗ってるな
まぁ現段階では、フードファイトって名前にした理由は分からないよな。
「フードファイトの理由は、今日の配信を最後まで見れば分かると思うんで。ん、やっぱり美味いな」
その後も弁当を食べ続ける事、30分。
ようやく3つのタッパーを空にした。
:本当に食べきったぞ……
:3kg以上あるって言ってたよな?
:あのタッパーの大きさを調べたけど、確かにそれくらい入ってそうだった
:3kgも食べて、この後の戦闘大丈夫なの?
:お腹いっぱいで苦しいだろ
:動いたらお腹痛くなりそう
:見てるだけで、お腹いっぱいになった
:最初はダンジョン配信かと思ってたら飯テロ配信に変わった?
「ごちそうさまでした。食べ終わったし、ドラフトホースを倒しに行くか」
タッパーをカバンに仕舞って、軽く準備運動をしたら、モンスターの討伐へと動き出した。




