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フードファイト・ダンジョン ~最高の食材とまだ見ぬ絶景を求めて最下層を目指します~  作者: 祐祐
第6章:上級配信者

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88/115

88話:初配信

 九州ダンジョンから帰ってきて、早くも2週間が経過した。

 悠斗が作ってくれた武器防具の使い心地を確認したり、九州でどれだけ自分が強くなったのかを確認しているうちに、あっという間に過ぎてしまっていた。


 そして、11月の第1火曜日。

 ソロで仙台入口へとやってきた俺は、いつものように悠斗の作った防具を装着し、剣を左腰に下げた。

 着替え終えると、協会の受付へと向かう。


「いらっしゃいませ。ご用件をお伺い致します」


「撮影ドローンの貸出をお願いします」


 撮影自体はかおりんがいる時も行っている。ただ、いつもは撮影したものを協会に提出するだけだ。


「おっ、来たわね。いよいよ配信するんでしょ?」


 いつの間にか受付の職員さんの代わりに伊達さんが立っていた。


「やり方は教わりましたし、ちゃんとアプリが接続できれば大丈夫なはずです」


「まぁ分からなかったら聞きに来なさい。配信してくれるのは協会としてもありがたいから、できる限り協力するわ」


 伊達さんは不敵な笑みを浮かべながらそう言ったが、何を考えているんだろうか。

 ……まぁどうでもいいな。偉い大人の考える事なんて分からないし、俺には関係無い。俺の行動を制限されない限りは、協力していった方がいいだろうし。


「じゃあ、配信後にホームページへの記載お願いしますね」


「分かってるよ。配信後じゃなくて、配信開始したらって事にしてるから」


 戻ってきた職員さんからドローンを受け取ると、起動はさせずに腕で抱えながらダンジョンの入口へと向かった。






 14層に到着した俺は、いつもの掲示板に配信開始時刻を書き込んでから、ドローンを起動させた。そして、スマホと接続して、いつでも配信開始できるようにアプリの準備する。

 予定時間まであと5分。階段近くで配信を始めると他の冒険者が映ってしまうかもしれない。嫌がる人もいるだろうし、俺は正面の森へと進んでいく。


 ピピピッ、ピピピッ


 森の中を数分歩いた所でスマホのアラームが鳴り響いた。

 予定時間になったので、スマホを操作して、配信を開始する。


「見えてるのかな。あーっ、聞こえてますか?」



:始まった!

:これがフードファイターか

:見えてるし、聞こえてるぞー

:帯広で見た以来だけど、元気そうだな

:待ってた! 初配信おめ!



 協会が貸出しているドローンは高性能であり、指定した人の後ろをついて飛んでいくように設定できる。

 そして、配信中にコメントを自動で読み上げる機能もついている。そう説明はされたが、実際に体験するとびっくりした。普段は自分で読んだ方が早いから、読み上げ機能は使わないからな。


「大丈夫みたいですね。それにしても、初回から配信をリアルタイムで見る人がいて良かったです。あの掲示板に書き込んだだけだったので」


 コメントを聞いて、配信は問題ない事を確認できた。そうしてから、誰も見てなかったら確認できなかった事に今更ながら気づいた。瀬奈とかかおりんとか誰かにお願いしておくべきだったかも。



:あの掲示板?

:いろんな掲示板に書き込まれたよー

:自分で書き込んだわけじゃなかったのか

:本人が拡散希望したわけじゃないのかよ



 は? じゃあ俺の書き込んだのを、誰かが転載したのか?



:俺たちが転載しました(ドヤッ)

:拡散しました

:俺たちが見つけたフードファイターの初お披露目だからな!



 どうやら、あの掲示板の住人たちが拡散してくれたみたいだな。

 誰にも見られないのは寂しいし、できるだけ多くの人に見てもらいたいと伊達さんも言ってたからありがたいな。


「いつもの掲示板の人たち、ありがとうございます。

 さて、配信初回ですが、今日はこの奥羽ダンジョンの14層のモンスター2種類を倒していきたいと思います」



:14層の生配信は珍しいな

:本当にダンジョン14層の戦闘が見られるんだな

:14層以降は珍しいからな

:本当にこの冒険者は14層のモンスターを倒せるの?

:16層とか18層には行かないのか?



 あの掲示板に普段いない人も結構見ているみたいだな。


「16層と18層は明日以降にします。階層間の移動の際に他の冒険者の方が映ってしまうので、今日1日で全部やろうとすると途中で中断する事になりますので。それにあまりダラダラと長く配信してもなんで」



:まぁそれならしょうがないか

:他の冒険者への配慮もできてていい子だ

:明日以降も楽しみだな

:その前に今日の14層を楽しみにしてる

:他の冒険者がどうやって14層のフォレストランナーとラックマを倒すのか気になる

:協会の資料にある定石の倒し方以外にあるのかな?



 定石以外の倒し方も気になってるのか。それなら、1体目は普通に、2体目はあっちで倒すか。


「それじゃあ進んでいきます」


 そう言って、俺は森の中を奥へと進んでいく。



:これが奥羽ダンジョン14層かー

:めちゃくちゃ木が大きい……

:富士山の14層とは全然違うな



 富士山ダンジョンで活動している冒険者が見ているみたいだな。

 富士山なー。鳥肉を食べに行きたいけど、飛行モンスターは面倒って聞くからな。次の遠征は紀伊にして、富士山は最後にする予定だ。

 そういえば、遠征中は配信どうしようか。低層で配信してもつまらないだろう。まぁその頃にはスキルも公開してるだろうし、その時に考えればいいか。



 ガサガサッ、ミシッ、バキッ!


 コメントの読み上げ音声に紛れて、遠くから枝の折れる音が聞こえてきた。

 これはラックマだな。まだギリギリ聞こえるくらいだから距離はある。



:枝の折れる音がしなかった?

:奥羽ダンジョンの14層のモンスターは、木の上を移動してくるって事だから、そのモンスターの音?

:木の上を移動してくるモンスターって、常に有利な位置取りしてくるって事だよな……

:彼はどうやって対処するのかなー



「ラックマが近づいてきてます。というか、この音も配信で聞こえてるんですね。マイクも高性能か」


 このドローンって貸出だから値段は知らないけど、結構高価なんじゃない?

 わざと壊すつもりは無いし、俺の後ろを距離をとってついてきてるから、戦闘中にぶつかる事も無いだろうけど、壊さないようにしないとな。



:ラックマか

:リラッ●●?

:来る来る!

:モンスターが近づいてきてるのに、全然焦ってないな

:落ち着きすぎてて、視聴者の方が焦ってる



 焦る事は無い。ラックマなんて何体倒してきたか覚えてないくらいだからな。

 こちらから音のする方向へと近づいていくと、頭上に音が到達した。それに合わせて視線を真上に向けると、頭上から黒い影が落ちてきた。


 ズドォーーンッ!!


 素早く後ろに飛び退くと同時に攻撃を待ち構えた。



:落ちてきた!

:デカいな!

:直撃したら大怪我だろこれ……

:直撃したらマズイよな……

:急に落ちてきても、余裕で避けたよ



 そういや、ステータス強化もしたから、一度受け止めてみてもいいかもしれないな。

 とりあえずラックマじゃなくて、フォレストランナーから試してみるか?


 そんな考え事をしていると、土煙の中からラックマの腕が伸びてきた。

 俺はそれに対して剣を思い切りぶつける。


 ギイィンッ!


 2つの力がぶつかり合うが、均衡する事はなく、ラックマの腕を後ろへと弾き飛ばした。

 隙の出来たラックマへと素早く踏み込み、反対の腕を斬り落とす。そして、弾き飛ばした腕も落とすと、残りの攻撃手段である噛みつきをしてくるので、避けながら顔面へと剣を振り抜く。

 顔面を深く斬り裂かれ、そのまま前に滑りこんで倒れた。



:すげー

:戦闘が一瞬だったんだが??

:危なげなかったな

:冒険者はあの熊の攻撃を軽々と弾き返せるのか

:さすが、俺たちのフードファイターだな

:この人何者?

:この人、何層まで進んでるんだ?



 そういや、そこをちゃんと伝えてなかったな。


「進出階層は18層です。まだドラフトホースしか相手にしてないですけど」



:18層まで行ってるなら、そりゃ14層は余裕だよな

:これが深層一歩手前の冒険者か

:18層までしか進んでないのに、18層で配信しようとしてるって事か。大丈夫?



 まぁそれは配信を見れば分かるだろう。

 ラックマを持ち帰りたい所だが、そうすると配信を中断しないといけないから、ここは放置してフォレストランナーが多くいる方へと進み始めた。

 ラックマと戦う前のコメントであった定石以外の倒し方を見せるか、それとも落下攻撃を受け止めるか。


 うん、こっちからにするか。もしかしたらラックマが出てくるかもしれないし。

 俺はカバンからスパイクを取り出して、靴に取り付けた。これを使うのもこれで最後かもしれないな。しばらくはロッカーで埃を被る事になりそうだ。



:ん? 何をしてるんだ?

:靴に何か付けてるっぽいな

:フードファイター、次は何を見せてくれるんだろうな

:ワクワク



 手早くスパイクを装着すると、すぐ隣にあった木を登り始めた。



:はぁ!?

:登るの?

:木の上に行くのか!?

:枝の上って足場悪いだろ! そんな所で戦って大丈夫なのか!?

:驚いてる視聴者が多いけど、冒険者の常識じゃない事をやってるって事?

:そりゃそうだろ、枝から落ちたらどうする!

:怪我するって!

:あっという間に登り終えたな

:サルかよ

:冒険者辞めたら林業で即戦力として迎えられそう



 素早く登り終えた俺は、靴からスパイクを外してから、枝の上を飛び移っていく。

 さっきのコメントの感じだと、枝の上で戦う人は少ないみたいだな。

 ソロの場合はかおりんから離れないように、という事を考えないでいいので、ドンドン先へと進んでいく。


 おっ、いたいた。フォレストランナーだな。

 音が聞こえる前に視界の奥にフォレストランナーを確認した。俺はその場で止まり、木の幹に背を向けて剣を鞘ごと持って待ち構えた。


 ガサッ、ミシミシッ


 フォレストランナーの姿は配信でも映っているだろう。

 そのまま突進してきたフォレストランナーを、鞘に入ったままの剣の両端を持って受け止める。


 ガァァーーンッ


 遠征から帰ってきてからも何度か確認のために受け止めたが、やっぱり以前よりも余裕がある。

 そこからいつも通り、左下へと受け流し、剣を鞘から引き抜きながらフォレストランナーを斬り裂く。そして、木の上から地上へと蹴り落とす。



:受け止めた!

:あの足場でよく受け止めようとしたな!

:地上で避けるより対処しやすい、のか?

:斬り裂いた!

:そこで蹴り落とすのかよ!

:って、お前も落ちるのかよ!



 ソロだから俺もすぐに後を追って飛び降りる。

 ズシーン、と大きな音を立てながら落ちたフォレストランナーへと落下エネルギーを乗せた一振りを叩き込む。

 ズシュッ、という音と共に肉を斬る感触が両手に伝わってくる。念のため土煙の中から飛び出てフォレストランナーの様子を窺うが、フォレストランナーが立ち上がってくる事は無かった。



:いやいやおかしいだろ

:えっと、この倒し方は定石じゃないんですよね?

:あの高さから落ちても問題ない冒険者はいるだろうが、それをやろうとする冒険者はいない

:木の上担当と地上担当で分担すればやれる?

:タンクが木の上まで登って、彼みたいに飛び移って移動できれば?

:16層で戦う方が簡単な気がする……



 そうなのかな。俺は適正レベルかどうか分からないし、どちらかと言えばそれよりかなり強くなって安全マージンのある状態で戦ってるからな。

 フォレストランナーはそのまま放置して次のフォレストランナーを探しに行く。


 ここからは初めてやる事だが、まぁ大丈夫だろ。ドラフトホースを受け止めるのはまだ厳しいけど、フォレストランナーは5分の1くらいの軽さだからな。

 正直、これをやる意味は無い。でも気になったからやりたい。さっきの突進も余裕だったし、あそこからスピードが上がって、衝突力が2倍になっても大丈夫だと思う。



:2種類倒したけど、まだ続くのか?

:次は何をする気だ?

:フードファイターは普通じゃないとは思ってたけど、想像以上に普通じゃなかった

:またヤバいものが出てきそうで怖い

:この人に常識は無いのかもしれない



 ガサガサッ、ミシッ


 軽く走って森の中を進んでいくと、遠くから木のしなる音が聞こえた。折れてはいないから、フォレストランナーかな。

 そのまま走って近づくと、すぐに音の発生源が頭上へと到着した。


 ミシミシッ、バキッ!


 頭上を見上げると、すぐにフォレストランナーは俺を目がけて落下攻撃を繰り出した。

 鞘に入れたままの剣の両端を持って掲げて、前足の攻撃を受け止める。


 グガァァーーンッ


 これまでで一番の重さが、衝撃が身体中に響く。

 俺の足元の地面にはヒビが入り、歯を食いしばりながら全身の筋肉と骨が軋む。


「ゔゔぅ゙あぁぁー!」


 思わず叫びながら、剣を押し上げる。それによって後ろへと飛ばされたフォレストランナーは、上手く着地して、俺には近づかずに木の上へと登っていった。



:受け止めた!

:マジかよ……

:やべぇな

:地面割れてる……

:受け止めるって選択肢は普通ねぇだろ

:あの身体のどこにあれを受け止める力があるの?

:お前、レベルいくつだよ

:これがフードファイターの強さの秘密のスキルか!?



 ふぅー。何とか受け止められたな。衝撃で痛みはあるが、怪我はしてなさそうかな。後でちゃんと確認しよう。

 登っていくフォレストランナーを見送りながら、鞘から剣を抜き出した俺は、体勢を低くして、次の落下攻撃を待ち構えた。


 バキッ!


 再び落下攻撃を仕掛けてきたフォレストランナーを視界に捉え、落下地点のすぐ横へと鋭く踏み込んで移動した。

 そして下段に構えていた剣を振り上げて、フォレストランナーの腹から背へと斬り裂いた。

 まぁこの戦い方が定石……だったっけ?



:落下攻撃を避けてそのまま攻撃して倒した

:普通は避けて、木の上に逃げる所を倒すんだよな?

:そうそう、だからソロだとラックマよりも面倒なモンスターと言われてる

:受け止めたのはビックリしたけど、トドメの刺し方はとてもキレイだったな

:流れるような攻撃だった

:剣道の抜き胴みたいな感じだったな



 これも普通じゃなかったか。まぁ俺はこれで慣れてるからいいだろ。


「2種類とも倒したし、試したかった事もできたから今日はこれで終わりにします。明日は16層で配信予定です。時間は今日と同じ頃を予定してます。

 あと、アーカイブも基本的に残します。質問があればコメントしておいて下さい。答えられるものは明日の配信で答えますので。

 それでは、ご視聴ありがとうございました」



:おつー

:おつかれー

:初回配信ありがとう!

:明日も楽しみにしてるぞ

:試したかったって……生配信で試さないでもらっていいかな……

:フードファイターが世の中に知られたな

:あの掲示板の訪問者が増えるかもな



 配信を切ってから、倒したフォレストランナーの血抜きに取り掛かる。

 初配信は大きな問題もなく終了したし、変なコメントをしてくる奴もいなかった。まぁ変な奴がいたら、協会の方で対応してくれるって話だし、そっちは任せておこう。


 さて、フォレストランナーを売りに戻って昼食を食べてから、18層に向かうか。


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