87話:高校
九州ダンジョンから帰ってきた翌日。
久々に全く運動をせずに昼過ぎまで荷物の片付けをした俺は、指定された場所へとやってきた。
「ここが悠斗の高校か」
悠斗に依頼していた武器防具は、高校の鍛冶部の倉庫に置いてあるそうなので、放課後の時間に呼び出された。
「祐也ー!」
校門の前で待っていると、校舎の方から制服姿の悠斗が歩いてきた。
中学の制服姿しか見た事が無かったから、高校の制服を着ているのは違和感しかないな。
「先生には話を通してあるから、さっさと行くぞ」
そう行って進んでいく悠斗の後ろをついていく。
この時間は部活が無い生徒が下校する時間であり、制服を着ていない同年代の俺には、その生徒たちから好奇の眼差しが注がれた。
まぁこういうのにも慣れないとな。このまま順調に階層を進んでいって取材を受けたり、配信をするようになったら、もっと多くの人に見られるわけだし。
校舎の横を通り過ぎて、体育館の脇を歩いていくと、高校の敷地の隅に大きな煙突のついた小屋が現れた。
どう見ても普通の建物じゃない。あの煙突が鍛冶場には必要だから、こんな隅っこにあるんだろうな。
そんな小屋の隣にある倉庫の扉へと鍵を差し込み、中へと入っていく。
いろんな物があるな。剣、槍、斧、薙刀にハルバードまで。ハルバードとか誰が使うんだよ。それに鎧に兜、籠手、プロテクター。これは今の部員の作ったものなのかな。というか、これってどうするんだろう。
「なぁ悠斗。この武器とか防具ってどうするんだ?」
「ん? 就活の時に作品を持ってくるように言われる事が多いから、そのために保管してんだよ。卒業する時には持って帰ったり、協会に売ったりだな」
就活用か。でも、それなら魔導鋼を多めに用意してよかったかもな。魔導鋼の作品の方が評価が高くなりそうだし。
「おい祐也、こっち来い。ここにあるのがお前の剣とプロテクター、籠手、膝当て、脛当て、ヘッドギアだ」
悠斗の方へと振り向くと、そこには見慣れた質感の武器と防具が置かれていた。
魔導鋼の武器も、魔導鋼とジェラルミンの合金の防具も、この倉庫の中にあるのは悠斗が作ったものだけみたいだな。
「とりあえず着用してみてくれ。違和感があったらすぐに調整するから。剣も実際に振ってみてくれ」
「分かった。さすがに靴は無理だったか」
「靴はな……もう少し時間をもらえれば作れると思うけど、とりあえずはこいつらを優先させてもらったぞ」
「あぁ、問題ない。靴も頼むな」
悠斗に靴の製作も改めて依頼しつつ、俺は防具を順番に装着していく。
着けた感じは、今使っているものと変わらない。むしろ良い。俺の身体に合わせて作られた防具はこれだけ使いやすいのか。
「ちょっと走ってくるな」
「他の部の邪魔にならないようにしてくれよ」
「大丈夫だろ……一応、グラウンドの端を走るようにしておくか」
防具を身に着けた俺は、剣を腰に差して倉庫の外に出た。軽く屈伸をして、アキレス腱を伸ばして、足首を回す。
そして、強く地面を蹴りつけて、一気にトップスピードを出して走り始めた。
すぐにグラウンドへと出た俺は、グラウンドの端までスピードを緩める事なく走り、端で急ブレーキをかけて、180度反転して来た道を戻っていく。
激しく動いても、プロテクターのズレや擦れが一切ない。完璧じゃん。
鍛冶場の前で急ブレーキをかけて止まると、その場で剣を鞘に入れたまま構えて、素早くステップを踏む。
うん、問題無さそうだな。
続いて周囲を確認してから、鞘から剣を抜き出す。そして、鞘をそっと脇に置いてから、素振りを始めた。
まずは上段からの振り下ろし。続いて鋭く踏み込んでの面、胴、籠手からの胴。剣道部時代からのルーティーンを続けていく。
空気を斬り裂く刃の音が、何度も鋭く響き渡った。
「悠斗、剣も問題ないぞ。防具はピッタリだとここまで使いやすいんだな」
一通り動かしてみて問題ない事を確認した俺は、動きを止めて、鞘を拾い上げて剣を納める。
「……改めて見ると、マジでおかしいな」
「何かおかしい所があったか? 違和感は感じなかったんだがな……」
「武器と防具じゃなくて、お前自身の事だよ」
「俺?」
「そうだよ。おかしい速さで走るし、剣を振るのも早すぎる。振り始めたと思ったら振り終わってるし。ほら、人が集まってきただろ」
そう言われて周りを見ると、グラウンドや体育館の方から俺を見る人が多数いた。
「そんな事言われてもな。最前線で戦ってる冒険者なら、これくらい普通だろ」
「最前線で戦ってるような冒険者の動きを、普通の高校生が見る機会は無いんだよ」
言われてみればそうだな。
そう考えると、配信は多くの人に冒険者の事を理解してもらういい機会かもしれない。
「俺の動きについては分かったから、武器防具は問題ないか?」
「とりあえず脱いでくれ。一通り状態を確認するから。緩い場所がないか、もっと可動域を広げたい場所がないか、もっとここをこうして欲しいとか要望があれば言え」
「うーん……今のところは問題ないかな。何かあれば伝えるわ。あと、次の剣を作る時はもう少し長めにしてくれるか?」
「分かった。魔導鋼はまだまだたくさんあるから、靴を作り終えたら作るよ」
「頼んだ。あー、もっと楽に着脱できるといいけど、それで防御力が下がったら元も子もないか」
「そこは我慢してくれ」
着用する時よりも時間をかけて防具を外すと、外したものから順次、悠斗が状態を確認していく。
その眼差しは真剣であり、さっき俺の動きについて呆れていたのと同一人物とは思えなかった。
この情熱と集中力を持った悠斗が作ってチェックした武器防具なら問題ないだろ。
明々後日から奥羽ダンジョンに復帰するけど、武器防具の慣らし運転も兼ねて、15層くらいから始めた方がいいかな。
九州で上がったステータスについても確認したいし、今からダンジョンが楽しみで仕方ない。
……休みを2日に短縮しちゃダメかな……ダメだろうな、母さんと瀬奈から食事を止められかねない。
「よし、問題なさそうだな。じゃあ持って帰ってくれ。この箱に入れれば持てるだろ。何かあれば連絡しろよ。あと、これも」
「ん? 何だ、その小さな箱は?」
「瀬奈のオーダーの包丁3本だ。ついでに持っていってくれ」
「あー、そういえば一緒に受け取ってくれって言ってたな」
「祐也より先に受け取れないって頑固だったから諦めた」
変な所で律儀というか、何というか。
「分かった。あと、瀬奈とかおりんの分の作業費を振り込むから、チャットで振込先を送ってくれ」
「あぁ。ただ、値段はこっちで決めるからな」
「構わないけど、高すぎたら文句言うからな」
「逆だわ! 祐也に任せたら高額すぎる可能性が高いんだよ!」
「失礼な。それなりの金額にするつもりだったよ」
「魔導鋼を100kg送ってくる奴の金銭感覚は信用できねぇよ」
そんなに俺の金銭感覚おかしいか?
……瀬奈とかおりんの分は防具含めて半月くらいかかったと仮定。
1日何時間作業したのかは分からないけど、放課後と休日合わせて1週間で30時間、半月で60時間。
1時間あたり……少なくとも5,000円? プロレベルの技量があるはずだから、1万円くらいでもいいだろ。
60万円くらいまでなら許容範囲内かな。
その日に悠斗から送られてきた請求額は、5万円だった。
コンビニバイトの時給じゃねぇんだぞ!
という事で、悠斗に文句を言って値段交渉の結果、15万円で決着した。
初回だからこれで許したが、次からは職人価格として作業時間あたり少なくとも5,000円は受け取ってもらうと決めた。




