86話:【side悠斗】新人鍛冶師への道
祐也と香織ちゃんに手伝ってもらったレベル上げを終えた翌々日。
打ち上げの時に測った身体のサイズと、昨日ダンジョン協会の店で測らせてもらった剣と盾、そしてプロテクターのサイズを元にして、今日は設計図を作っていた。
特に防具は設計図無しで作れるほど、製作の経験は多くない。
メインの肩から胴体を守るプロテクター、腰から膝を守るプロテクター、兜、籠手、膝当て、脛当て、靴。
全身を作ろうとするとこれくらい必要になるが、とりあえずは優先度の高い2つから考える。その間に魔導鋼と合金が届くだろうから、届いたら武器を作っていこう。
ガラガラッ
「おい、梶原いるか?」
部室で図面と格闘していると、顧問の梶浦先生が入ってきた。
「先生、何ですか?」
「お前宛に荷物が届いたから、受け取りのサインしてくれ」
「荷物? もしかして祐也の素材がもう届いたのかも?」
「昨日言ってたやつだよな。早くないか?」
「ですね。ダンジョン協会が直接動いてると早いのかもしれないです。鍛冶場ですよね?」
作業の手を止めて、先生と共に鍛冶場へと向かった。
そこには配達員と思しき人が待ち構えていた。
「すみません、梶原さんは……?」
「あ、はい。俺です」
「こちらに受け取りのサインをお願いします。では、荷物を持ってきますね」
差し出された紙にサインを書いて、荷物が運ばれてくるのを待っていると、先ほどの配達員さんが台車を押して戻ってきた。
「どこに置きましょう?」
「こちらの倉庫へお願いします」
「倉庫のどこに置きますか?」
「先生、右側に置いていいですよね?」
「いいぞ。他の部員が間違えて使わないように、札か何か付けておけよ」
先生の許可をもらったので、配達員さんが鍛冶場の隣にある、鍵付きの倉庫へと台車から荷物を運び始めた。
だが、その台車の上に載った荷物を見て目を見開いた。
「んん!? どんだけあるんだ!?」
「おい、梶原。量、間違ってないか?」
おいおい。祐也、お前どんだけ注文したんだよ!
「あの、これってどれだけの量が注文されたんですか?」
聞きたいような、聞きたくないような。
俺はパンドラの箱を開くように、配達員さんへと聞いた。
「ちょっとお待ち下さい……はい、こちらが注文書となります」
荷物を置き終えた配達員さんから渡された紙を確認する。
「えっと……魔導鋼が100kg、魔導鋼とジェラルミンの合金が100kg……はぁぁ!?」
「はぁ……お前の依頼主は何を考えてるんだ?」
「ん? もう1枚紙があるな」
注文書の裏にもう1枚あった紙を確認すると、
『悠斗へ。
素材がどれだけ必要か分からなかったから、とりあえず100kgずつ注文した。
失敗もするだろうし、予備も作ってもらいたいから、多めにしておいた。
多少なら他の部員も使っていいぞ。
じゃあ2ヶ月後を楽しみにしてる。
祐也』
手紙を読んだ俺は、呆然としてしまった。
それを見た先生も俺の手元の手紙を確認したようで、
「お前の依頼主は豪快すぎるだろ……一体いくらすると思ってるんだ……」
魔導鋼だけでも1,000万円はするだろ。めちゃくちゃ稼いでるとは言ってたが、半端ないな……
瀬奈と香織ちゃんの分の作業費として受け取る金額の相場を調べておかないと。あいつに任せたらもらいすぎる気がするぞ。
素材が届いた事を連絡すると同時に、送りすぎだと文句を言ったら、
『2ヶ月分の稼ぎくらいだから気にするな。これから先、もっと高価で貴重な素材を使ってもらうかもしれないんだから、今から慣れておいてくれ』
と何でもないように言われたが、あいつの金銭感覚おかしくなってないか?
マジで大丈夫か?
翌日からは、放課後に武器の製作を開始した。
まずは一番小さな瀬奈の包丁。戦闘用じゃないし、これで今のレベルでの魔導鋼の鍛冶感覚をしっかり掴みたい。
カンッ! カンッ! カンッ!
鍛冶場に高く澄んだ音が鳴り響く。
レベル上げの効果もあって、以前とは比べ物にならないほど鍛冶作業がスムーズに進んでいく。
全国大会で魔導鋼を使っているので初めてではない。だが、コストの問題もあって、部活でのメインは鉄やステンレスだ。だから、魔導鋼での鍛冶経験は多くない。
それなのに、とてもそうは感じない。レベル上げの効果もあるが、新しいスキルである槌術の効果もあるんだろう。
叩きたい場所に、叩きたい通りの強さでハンマーが振り下ろされる。赤く熱した金属の不純物がキレイに弾け飛んでいく。ここまで思い通りに身体が動く事、そして鍛冶場の熱さをここまで煩わしく思わないのも初めてだ。もっとレベルが上がれば、もっと鍛冶に集中して、もっと強い力で正確に叩く事ができるんだろう。
祐也が遠征から帰ってきたら、どこか平日にレベル上げしてもらえないか聞いてみようかな。まぁ平日に高校の休みがあればだけど。文化祭は来月だから祐也はまだ帰ってこないし……
「もう出来たんだね」
「へぇー、これが悠斗さんの作った盾っすか」
翌週の週末土曜日。高校は休みだが、鍛冶場は申請すれば使えるようになっている。
「包丁は瀬奈のオーダー通りの大きさにしたから、握り心地とか確認してくれ。盾もオーダー通り、合金メインで、少し重くして安定させるために下部に魔導鋼を付けてある。結構重いけど大丈夫か?」
出来上がった包丁と盾を2人に確認してもらうために、うちの高校まで来てもらった。
「問題ないっすね。実際に使ってみないと防御力は分からないっすけど。ただ、私だけで中層は行かないようにしてるから、確認できないっすね……」
「悠斗、もう少し持ち手を細くできる? 手元の端はこのままで」
盾は使ってみないと分からないよな。包丁はまぁダンジョンで使う武器じゃないから、多少違和感あっても後から微調整する形でも大丈夫だろ。
「香織ちゃんは9層とかで使ってみて、何かあったら連絡してくれ。包丁はすぐに調整するから貸して」
「はい。調整終わったら、同じのをあと2本お願いしていい? あと、3本とも受け取るのは祐也の剣と同じタイミングでもいい?」
「いいけど、すぐに使いたくないのか?」
「祐也のおかげだし、祐也より先に使うのはね。それに、この包丁を使う必要のある肉は祐也が持ってこないと無いわよ。かおりんは遠慮なく使っていいからね。怪我したら危ないから」
「じゃあ、お言葉に甘えて私はこれを持っていくっす。明日使ってみるっす!」
俺の作ったものが、実際にダンジョンで使われるのか。
全力で作ったつもりだけど、どこか問題があって、香織ちゃんが怪我したりしないよな……
「なんて顔してるのよ、大丈夫よ。8層くらいのモンスターの攻撃くらい、かおりんなら盾無しでも受け止められるから。そうよね、かおりん」
「そうっすね。中層に行かないのは、防御力じゃなくて攻撃力の問題っすから」
それなら安心……なのかな。
鍛冶師としての初めての商品であり、その利用者。
「問題がなくても、使った感想は教えて欲しい」
「了解っす!」
利用者が目の前にいて、しかもそれがよく知っている人っていうのは……怖いな。
俺の武器防具の質が悪かったら、怪我をさせてしまうかもしれない。
これが鍛冶師の世界か。
ただ金属を叩いて、格好良くて強い武器防具を作るのが鍛冶師だと思っていた。
だが、現実は違うんだな。
作ったものがどう使われて、その冒険者がどうなるのか。俺の力次第で、その冒険者が大きく前に進んだり、逆に戻ったり、怪我をしたり、場合によっては命を落とす。
命を預かる、責任重大な仕事だ。
こんな事を高校生のうちに経験できるなんて、祐也には感謝しかない。まぁ素材の量については文句を言うけど。
さて、瀬奈の包丁の調整をしたら、祐也の剣の仕上げをして、いよいよ防具に取り掛かるか。




