83話:夏合宿
花火大会の翌々日。
「久しぶりのダンジョンだね」
「瀬奈ちゃんとのダンジョンキャンプ、久しぶりで楽しみっす!」
今日から二泊三日でダンジョンに泊まり込んで、瀬奈のレベル上げをする。
「久しぶりって春休みも来ただろ」
「もー、テンション上げようとしてるんだから、マジレスしないで」
「レベル25になって新しいスキルを獲得すれば、勝手にテンションなんて上がるだろ」
「……かもしれないけどさ! あと2レベル上げるまでのモチベーション維持のためにテンション上げなきゃでしょ!」
「はいはい、それじゃあ行こうか!」
怒った瀬奈はスルーして、ダンジョンの中へと進んでいく。
「今日はどこに行くっすか?」
「18層に行こうと思ってるぞ」
「えっ、18層……ね、ねぇ。少し手前にしない? いきなりそんな最前線は危なくない?」
「危なくはないぞ。最近はかおりんと18層でやってるし、危ない場面も無かったよな?」
「そうっすね。まぁ、ドラフトホースの攻撃を受けないようにちゃんと木の幹に隠れる練習は必要っすけど」
「18層以外だとどこになるの?」
「んー、15層かな。16・17層はかおりんも連れて行ってないし」
「そうっすね。15層は練習も要らないっす」
「そっちにしよう! そっちがいい! そこでもレベル25にはなるよね!」
「まぁレベル25にはなるんじゃないか?」
「決まり! 今日は15層にしよう!」
瀬奈が強く主張するので、今日は15層でレベル上げをする事になった。瀬奈をそこまでさせる何かが18層にあったかな。
瀬奈の希望通り15層へと降りた所で、階段から離れて森の中へと進んでいく。
すぐさまカバンからスパイクを取り出して、俺は1人で枝の上へと登っていく。
「スムーズに登るね。何というか……サル?」
「おいコラ」
「じゃあ瀬奈ちゃんは私の後ろについてきて、上からモンスターが落ちてきたらこの鉄球を投げるっすよ」
瀬奈の事はかおりんに任せて、俺は登り終えるとスパイクを外してから、枝の上を森の奥へと飛び移っていく。
ガサッ、ガサッ
俺の動きでは枝が若干動いて葉が揺れるだけ。ミシミシ言うほど身体を大きくした方が、もっと力が上がるんだろうか。でもAbsorbで吸収してれば強くなるから要らないか?
そう考えながら進む事、約10分。
ようやく現れたフォレストランナーを受け止め、前足を片方斬り落としてから下に蹴り落とす。
ドスーンッ!
「投げるっす!」
かおりんの合図と同時に、瀬奈が構えていた鉄球を投げつける。それが当たった事を確認して、俺は飛び降りて剣を振り下ろした。
「はい、終わり。かおりん、血抜きお願い。予定通り、地上まで持っていってくれ」
「分かってるっすよ」
「その間に瀬奈のレベル上げを進めておく。肉はもったいないけど、レベル上げ優先だからな。じゃあ瀬奈行くぞ」
「また、スゴイ早さでレベルが上がっていくんだろうなー」
どこか遠い目をしている瀬奈には気づかず、俺はスパイクを取り出して再び上へと登っていった。
「待ってたっすよ」
昼食の時間となったので、階段近くへと戻ってきた。
フォレストランナーを売りに行ったかおりんは、家から持ってきていた調理道具とドラフトホースの肉を準備して待っていた。
「じゃあササッと作っちゃうね」
ドラフトホースの肉には既に下味が付いているらしく、後は焼くだけのようだ。18層に行くならドラフトホースの肉を持ってくる必要は無いのに、どうして持ってきているんだと思っていたが、18層に行かない事を予想していたんだろうか。
「それで、瀬奈ちゃんはレベルどうなったっすか?」
瀬奈の焼いた肉を食べながら、かおりんが瀬奈に話しかける。
「25に上がったよ」
「という事は!」
「スキルも手に入ったよ」
「おぉー! 何のスキルだったんすか!」
テンションの高いかおりんが、グイグイと瀬奈に顔を近づける。
「はいはい、落ち着いてかおりん。
スキルは短剣術だったわ。フォレストランナー相手に使ってみたけど、スムーズに刃が入ったわね。その後でフォレストランナーを解体してみたけど、今まで以上にサクサクだったわ。あと、ナイフだけじゃなくて、包丁も対象になるみたいで、これで調理スピードがもっと上がるわ!」
短剣術。非戦闘職の瀬奈に戦闘スキルってどうなんだと思ったが、包丁にも効果があったのは良かった。
というか、調理師にはうってつけの戦闘スキルだな。いや、調理師に戦闘スキルは本来不要なんだが。
初日を15層で過ごした俺たちは、2日目からは18層に場所を移した。
瀬奈は相変わらず18層に行くのを躊躇していたが、かおりんが背中をグイグイ押して、どうにかやってきた。
なお、ドラフトホースとの戦闘は何の問題も無く進んでいった。
「心臓に悪いって……」
俺の三角跳びによる回避を初めて見た瀬奈は引きつった顔をしていたが、それもすぐに慣れたようだ。
そして、18層での2日間が過ぎて合宿を終えた。
「レベル34か。これでどれだけ調理が早くなるのか、早く確認したいな」
帰りの仙山線の中でそう言った瀬奈の頭の中は、既に料理の事でいっぱいみたいだな。
「帰ったらドラフトホースの料理作るね。というか作るからちょっと待ってて」
母に頼めばいいのにと思うが、料理が趣味だから仕方ないか。俺も瀬奈の料理じゃないと満足できないし。
瀬奈のレベル上げ合宿を終えた翌日からは、悠斗のレベル上げ、となる予定だった。
だが、
「悪いな、レベル上げの日程をズラしてもらって」
「気にすんな。まさか全国大会に出るなんて思ってなかったけど、喜ばしい事なんだから」
「そうっすよ。それに、祐也さんからしたら、私のレベル上げをするか、悠斗さんのレベル上げをするかって違いしかないっす」
悠斗は部活の全国大会に出場する事になり、それがお盆直前というレベル上げの日程と被っていた。
まぁレベル上げは後ろ倒しして、悠斗にはしっかりと全国大会を頑張ってもらった。
「個人戦で県準優勝からの全国出場か。2年生でこの成績なら、どこかの鍛冶工房やメーカーから声が掛かったんじゃないか?」
「まぁいくつかから声はかけられたな」
胸を張って自慢げな悠斗。
「それも、俺たちがレベル上げをしてあげてるからだな」
「そうそう。レベル1桁のままだったら、部の代表にも選ばれなかっただろうって瀬奈ちゃん言ってたっす」
「うぐっ」
張った胸を引っ込めて、胸を押さえてしゃがみこんだ。
「はいはい、他の乗客の邪魔にならないようにな」
「感謝してるぞ。それは間違いない。まぁそれをどうやって2人に恩返しすればいいのか分からないんだがな。2人ともめちゃくちゃ稼いでるし」
悠斗は大げさな演技をやめて、真剣な顔をしながら車両の外へと視線を向けた。
「恩返しか……あっ」
「何かあるのか! 可能な範囲で力になるぞ!」
「そういやあれがあったから、ちょうどいいな。じゃあ最終日の帰りに話すよ。というか、最終日はかおりんもうちに飯食べに来る?」
「行ってもいいなら行くっすよ!」
「じゃあ最終日に打ち上げ兼ねてうちで飯食いながら話すぞ」
「なぁ、可能な範囲だからな。高額請求とか無理だからな!」
「大丈夫、大丈夫。金じゃないから。まぁそのためには、しっかり3日間レベル上げてもらう必要があるけどな。瀬奈とは違って、初日から18層に行くぞ」
どこまで悠斗のレベルは上がってくれるかな。
「3日間お疲れ! あと、夏休み終わりだな、カンパーイ!」
「後半要らないっすー!」
「もう終わるのかよ!」
「文句言ってないで、さっさと食べて!」
3日間のレベル上げを終えて、うちで瀬奈の飯を食べながらの打ち上げが始まった。
悠斗のレベル上げは瀬奈が同行していないから、キャンプではなく毎日家から通っていた。だから、ドラフトホースの吸収ペースは変わっていない。だが、まだ2割も終わってないだろう。まだまだ先は長いな。
「悠斗はレベルいくつになったの?」
打ち上げが始まるとすぐに瀬奈が質問をした。
「レベル34だ! ようやく瀬奈に追いついたな」
「そう。良かったわね」
ドヤ顔をする悠斗と、塩対応をする瀬奈。そんな対応するなら聞かなきゃいいのに。
「それで、スキルは?」
それでもレベル25で獲得したスキルは気になるんだろう。
「槌術だったぞ」
「ついじゅつ?」
「ハンマーだな」
「あぁ、なるほど。鍛冶でもハンマー使ってるもんね」
「そういう事! レベル上がって力が上がったし、スキルも手に入ったから鍛冶の時のハンマーの威力とスピードが上がりそうだな!」
初日にレベル27まで上がった悠斗が手に入れたのは槌術。
戦闘時もハンマーを使ってるし、鍛冶でもハンマーで鉄を打つから最適なスキルだろう。
ただ、かおりん含めて、レベル25では3人とも戦闘系のスキルを手に入れていた。初期スキルが非戦闘系の場合は、25レベルで戦闘系のスキルを獲得するって決まりでもあるのか?
「それで祐也。俺に何を要求するんだ?」
食事を終えて片付けをしながら、悠斗が聞いてきた。
「あぁ、その件な。恩返しの話の前からレベル上げ後に依頼しようと思ってたんだ」
俺は皿を洗い物を始めた瀬奈とかおりんに任せて、悠斗へと依頼内容を話し始めた。
「簡単に言えば、魔導鋼を使って、俺の武器防具を作って欲しい。素材の代金はこっちで払うから、高校の鍛冶場を使って作ってくれ」
協会から武器防具の貸与についての話を聞いてから考えていた、悠斗を使っての武器防具の製作。完全オーダーメイド品って事だ。
「まぁ構わないけど、俺でいいのか?」
「店売りの物よりも品質がいいのを協会から貸与してもらえるって話はあるんだが、それでもレベル25くらいの奴が作ったものらしい。それならレベル34まで上がった悠斗が作った方がいい剣ができそうだろ?」
俺に合わせた武器防具は欲しいし、悠斗の経験にもなる。お互いにとってメリットしかない。
素材費くらいなら、今の俺の懐には痛くも痒くもない。
「ただ、俺は明後日からしばらく留守にするから、微調整は帰ってきてからでよろしく」
「えっ!? 留守にするって、また遠征っすか!?」
キッチンからかおりんの叫び声が部屋中に響き渡った。そこまで叫ぶほどか?
「あぁ。2人のレベル上げは終わったし、明日から3人とも高校が始まるだろ? それなら去年と同じように他のダンジョンに行って、ステータス強化してこようと思ってな」
「でも、まだ18層が終わってないっすよ! 終わってからでいいんじゃないっすか!?」
妙にかおりんが反対するが、既に決めた事だ。
「ドラフトホースの上限到達まで何か月かかると思ってるんだよ。先にステータス強化して、ドラフトホースを受け止められるくらいに強化した方がいいだろ。
それに、20層からは文字通り世界が変わるんだ。20層に挑む前にどのみち遠征しようと思ってたし、それなら明後日から行くのがキリが良いだろ」
俺の説明を聞いて、かおりんは下を向いた。
「それで今度はどこ行くの? 行った事があるのは飛騨と北海道でしょ。残りは、富士山と紀伊と九州だよね」
瀬奈が冷静に行き先を確認してくる。
「九州にしようかなって思ってる」
「理由は?」
「豚肉が食いたい」
富士山もいいが、鳥系モンスターは倒すのが面倒なイメージがある。紀伊は鹿と兎だ。それよりは、九州の豚と山羊の方が美味しそうだ。
「後でお父さんとお母さんに許可取りなよ」
「分かってる」
「じゃあ、俺が武器防具を作るのは、その遠征から帰ってくるまでって感じか?」
「とりあえずはそのつもりでいてくれ。北海道と同じくらいはいたいから、2か月くらいで作ってくれればいいぞ。素材は明日協会に行って手続きして、悠斗の高校に送ってもらうよ」
「分かった。2か月あれば余裕だな。よし、じゃあ採寸したいから、家戻ってメジャーとか持ってくるわ」
「頼んだ。あと、もし時間の余裕があれば、瀬奈の包丁と、かおりんの防具と盾も作ってくれ。そっちは作業費払うぞ」
「おう、構わないぞ。包丁は1日かからないし、剣と盾は合わせて1週間って所か。装飾するなら別だが不要だよな。防具は少し時間かかるけど大丈夫だろ。形とかはこっちで決めていいか?」
「防具は一般的なプロテクター、剣は今使ってるものに近いものがいい。他は2人に聞いてくれ」
「はいよ。じゃあ道具取ってくるな!」
そう言い残して、悠斗はリビングを出ていった。
さて、悠斗が帰ってくるまでの間に、九州ダンジョンに行く準備をしなきゃな。




