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フードファイト・ダンジョン ~最高の食材とまだ見ぬ絶景を求めて最下層を目指します~  作者: 祐祐
第5章:中堅

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82話:花火

 今年の夏は涼しい。ニュースによると、エルニーニョ現象の影響で日本全土が例年より冷夏になりそうという予報だった。どういう理屈なのかよく分からん。

 そういや、昔は仙台だとやませというオホーツク海高気圧からの冷たい偏東風が吹き込んでくる事があったそうだ。だが、ここ最近は発生せず、他の地域と同じように猛暑が続いていた。

 そのため、涼しい夏を経験するのは俺も初めてだ。





 そんな過ごしやすい夏が始まり、7月中旬からは遂にかおりんも18層へと進出した。

 三角跳びのタイミングも高さも余裕が出てきて、これならかおりんを連れてきても大丈夫だと判断した。


「ドラフトホースだけを倒してるんすよね?」


「そうだけど、それがどうかした?」


 18層へと到着し、右手にある森へと進み始めた俺へとかおりんが疑問を投げかけてきた。


「いや、珍しいなって思ったんすよ。いつもの祐也さんなら馬も熊も両方倒すじゃないっすか。それなのに今回は馬だけ。何か理由があるんすか?」


 そういう事か。まぁ大した理由じゃないんだけどな。


「まずはドラフトホースを確実に倒せるようにしたかったってのがある。合宿で瀬奈と悠斗を連れてきたいからな。あと、熊の方は小細工が効かないタイプだから、できるだけAbsorbスキルで強化してからにしたかった。あと」


「まだあるんすね」


「というか、最後のが一番の理由だな」


「ほうほう。それは何なんすか?」


 珍しくかおりんが興味津々に聞いてくる。


「ドラフトホースって700kgあるんだ。つまり、こいつを吸収し終えるのにはめっちゃ時間がかかる。だから今から熊を倒してもあまり意味が無い」


 700kgだぞ、700kg。瀬奈のスキルの効果があっても、1日8kg食っても117日掛かる。

 つまり約4か月。長すぎだろ……


「700kgっすか……私、一生でそんな量の肉食べるか分からないっすよ」


「1日200gだとしたら、3,500日分だから10年は掛からないぞ」


「あれ、意外といけるっすね……いやいや、10年分っすよ! しかも、それ以上を4か月で食べる祐也さんはおかしいっすからね!」


 かおりんにおかしい人扱いされながらも、700kgの巨体を目指して森の中を進んでいった。


 なお、戦闘自体は呆気なく終わった。

 かおりんには木の幹に隠れてもらって、木の幹へとドラフトホースが衝突したタイミングで飛び出して鉄球を投げつけるだけ。後はひたすら隠れてもらう。

 俺は、三角跳びで回避したら後ろ足を1本斬り落とし、余裕があればもう1本斬り落とす。そしてかおりんの攻撃がちゃんと当たっている事を確認しつつ、ドラフトホースが動けなくなった所で首を落として終了。

 1頭目はかおりんが木の幹に隠れて避ける練習をしたが、すぐに慣れてしまった。


 ちなみに、かおりんの運搬スキルを持ってしてもジャイアントスイングでの血抜きはできなかった。だが、2人であれば肉を余す所なく持って帰る事ができたので、めちゃくちゃ稼ぐ事はできた。

 さらに、かおりんのレベルアップのペースも上がったので、きわめて順調に活動は進んでいった。


 あと、かおりんにも協会からの話を伝えると、それで問題ないと回答をもらった。

 なお、動画配信については、


「私は映りたくないっす!」


 という事で、俺がソロの時だけにする予定だ。






 翌週からはかおりんも夏休みに突入。週6でダンジョンに2人で潜る日々が始まった。

 そして2週間が経過し、もうすぐお盆を迎えようとする8月5日。


 昨日の昼でウインドベアが上限に到達し、ようやく夕食からドラフトホースの肉を食べ始めた俺は、週一休みの今日、国際センター近くの青葉山公園へとやってきていた。


「有料の観覧席なんて初めてね」


「人混みじゃない所で座って見るなんて初めてっす」


 いつの間にか予約されていた観覧席には、俺と一緒に来た瀬奈と、先に来て待っていたかおりんの姿があった。


「今日を休みにしろって前から言われてたけど、どうして当日まで教えてくれなかったんだ?」


 珍しく朝から肉をたっぷり料理してくれた瀬奈。

 どうして今日は料理のバランスがいつもと違うのか理由を尋ねると、


『あれ? 言ってなかったっけ? 夕方から花火大会に行くからだよ。もちろん祐也もね』


 と突然言われた俺。数日前、せめて前日には教えてくれよ。

 浴衣に着替えた瀬奈と東西線に乗り、連れて行かれた先は6人が座れる有料の観覧席。そして、そこにいたのが浴衣姿で出店の料理を頬張るかおりん。

 まぁ瀬奈と2人じゃないだろうとは思ってたから驚きはしないけど。


「ここって有料だろ? 金はどうしたんだ?」


「私が払っておいたっす」


「じゃあ俺もいくらか出すよ」


「いやいや! 祐也さんのおかげでめちゃくちゃ稼がせてもらってるんで、これくらいは出すっすよ。席料なんて、ドラフトホース2、30kg分くらいっすから」


 かおりんから譲る気配がしなかったので、ここは大人しく奢ってもらう事にした。

 それにしても、ドラフトホースの重さで説明するなよ、分かりにくい。いや、分かりやすいのか?



「すまん、遅くなった」


 花火が始まるのを待ちながらのんびりしていると、聞き慣れた声が横から聞こえた。


「なんだ、悠斗も呼ばれてたのか」


「そうだぞ。瀬奈から誘われてな。あー、ちょっと瀬奈と話があるから、瀬奈と席代わってくれ」


「まぁ構わないぞ」


 席を立ち、前に座っていた瀬奈と席を交代する。


「何かあったっすか?」


「いや、悠斗が話があるって」


「何の話っすかね」


「あれじゃないか? かおりんにもした、協会のやつ」


「あぁ、あれっすね。とりあえず、私は必要以上に目立ちたくないっす。スゴイのは祐也さんなんすから」


「でも、俺とパーティー組んでれば嫌でも目立つ事になりそうだけどな」


「うーん、それは仕方ないっすね……取材は全部祐也さんだけでお願いするっす」


「取材なんて来るのかね」


 ドドオォーンッ!!


「始まったみたいだな」


「そうっすね!」


 地鳴りのような重低音が響き渡り、夜空に大輪の花が現れた。






「あの2人、まだくっついてないのか?」


「かおりんは奥手だし、祐也はそもそも気づいてもいないっぽいからね」


「先は長そうだな」


「まぁパーティーを組んでいれば、そのうちあるでしょ? 適度にやりすぎない程度にフォローするわ」


「パーティー解散しそうになったら、その時は全力で介入するか」


 俺の後ろで行われていた瀬奈と悠斗のヒソヒソ話は、花火の音でかき消されて、俺の耳に届く事は無かった。


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