77話:進路
次の週末。いつものようにかおりんと共にダンジョンへと潜った俺は、14層へとやってきていた。
「ここが14層っすか。本当に森しかないっすね」
「ここまで来る間に説明しただろ」
「そうっすけど、やっぱり実際に見るとそう感じるもんすよ」
ここまでの階層に竹林や小さい森はあったが、階層のほぼ全てが森なのは初だからな。
とはいえ、そんなキョロキョロと周囲を見回さずに、少し落ち着いて欲しいんだが。
しばらくしてかおりんが落ち着いたので、俺たちは森の右側へと進んでいった。
この14層は、階段から見て右側がフォレストランナー、左側がラックマの生息地域となっている。
どちらと戦っても問題はないんだが、どちらが出てくるかは分かっている方が戦いやすいので、まずはフォレストランナーのいるエリアへと向かっていく。
「それじゃあ、かおりんはそこで待機しててくれ」
「了解っす。しかし、本当に大丈夫っすか?」
「大丈夫だ。ここ数日はこれの練習をしてきたから」
森の中に入ると、俺はかおりんを残して、近くの木へと進み始めた。
そして、その太い幹を登り始めた。
14層での初日の戦いを経験して思った。
これ、木の上から落ちてくるのを地上で待つんじゃなくて、最初からこっちも木の上で待ち構えて戦った方がいいんじゃないか?
俺1人でいる時は落ちてくるのを持っても問題ないが、かおりんや瀬奈が一緒の場合、モンスターが俺の所に落ちてくるとは限らない。マウンテンスタリオンの場合は崖から離れれば安全だったが、ここで木から離れるのは不可能だ。
そう考えた俺は、翌日木登り用のスパイスを買いに行き、それを使って登る練習を始めると、Absorbスキルの効果で身体能力が強化されている事もあり、すぐに登れるようになった。
木の上の太い枝のある高さは10mちょっと。最初はここから落ちたら大丈夫か不安だったが、試してみると強化された俺の肉体なら、きちんと足から着地すれば無傷で着地できる事が分かった。安全マージンは十分に確保できている。
「登り終えたぞ。じゃあ進んでいこう」
1人で練習した通り、スムーズに木の上へと到着すると、地上のかおりんに声をかけながら、森の中を進んでいく。
俺は木の枝から枝へと飛び移っていく。枝はとても太く、200kg近いラックマが乗っても大丈夫なものなので、俺程度が乗ってもびくともしない。
しばらく枝の上と地上とに分かれて進んでいくと、視界の奥からフォレストランナーが現れた。
「来たぞ!」
「はいっす!」
かおりんは左手で盾を強く握りしめると同時に、その裏に鉄球を持った右手を添える。
俺は足元を確認しつつ、剣を引き抜いて待ち構える。
フォレストランナーは俺たちに気づいており、一直線に枝の上を飛び跳ねて近づいてくる。
ガサッ、ミシミシッ
俺がどれだけ動いてもびくともしない枝も、フォレストランナーが駆けていくだけでしなる。
勢いを殺す事なく、フォレストランナーは頭を正面から俺に突撃してきた。
ギィンッ!
頭を下げて突進してきたフォレストランナーだが、その威力は落下攻撃ほどではない。
8層のハヤテホースよりは重いが、強くなった俺には同じくらいの威力に感じる。
剣の腹でフォレストランナーの突進を受け止めた俺は、手首を捻ると刃を敵へと向け、水平に振り抜いた。
刃は頭部を深く斬り裂き、その痛みでフォレストランナーが後ろへとのけぞる。
その隙を見逃さず、右下から剣を振り上げ、胴体を深く斬り裂くと、俺はフォレストランナーの横へと踏み込んだ。
「いくぞっ!」
「来いっす!」
俺は踏み込んだ右足を軸にして、左足で思いきりフォレストランナーを蹴り飛ばした。
蹴られたモンスターは、ダメージの影響もあって踏ん張る事ができず、枝の上から宙に放り出される。
そして地面へと落ちていくのを、地上からかおりんも確認して、着地地点へと鉄球を投げつけた。
ゴドォーンッ!
地面へと落ちたフォレストランナーとそこに投げられた鉄球。鉄球はフォレストランナーの胴体へとぶつかり、近くの地面へと転がっていく。
そして。
「そーれっ!」
枝の上から剣を振り下ろしながら落ちていく俺。
着地と同時に振り下ろされた剣は、フォレストランナーの胴体を深々と斬り裂き、大量の血が地面へと広がっていった。
「あっ、レベル上がったっす」
「ちゃんと経験値は入ったみたいだな。あと、鉄球はモンスターが落ちてから投げても大丈夫だぞ? 当たったのを確認してから俺も落ちてくようにするし」
「投擲の練習も兼ねて、今の形でいくっす。外したらもう一発投げなきゃっすけど」
「危なくなったら投げる前に攻撃しにいくからな」
「了解っす!」
死体となったフォレストランナーの血抜きをして、軽く部位ごとに解体してから、次の獲物を探して再び俺は木の上へと戻っていった。
「ただいまー」
「おじゃましまーす」
「2人ともおかえりなさい。お肉は?」
「ざっくり部位ごとに解体済みで、外に置いてあるっすよ」
「ありがと。じゃあ細かく分けていくから、かおりん運ぶの手伝って」
「了解っす」
2人が持ち帰ってきたフォレストランナーの肉の処理に向かうのを見ながら、俺は着替えるために自分の部屋へと向かった。
「今日も瀬奈ちゃんの料理は美味しいっす!」
馬刺し、スタミナ炒め、ローストホース。
いつも食べている俺には感動は無いが、フォレストランナーの肉を食べるのが初めてのかおりんには感動ものらしい。
先月のレベル上げ以降、さらに手際が良くなって料理が美味しくなったように感じるが、瀬奈の料理の腕前はどこまで上がっていくんだろうな。
「ふぅー。ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでしたっす」
「はい、どうも。じゃあ片付けようか」
食べ終えた俺たちは、片付けのためにキッチンへと向かう。
「そういや2人とも、新学期が始まったけどどうなんだ?」
「どうって?」
洗い物をしながら、瀬奈が不思議そうに首を傾げた。
「いや、何も聞いてなかったなって思っただけだよ。クラス替えもあったんだろ?」
食べてる最中は会話をしている余裕が無かった。
だから、なんとなく聞いていなかった事を片付けのついでに聞く事にした。
「今年も同じクラスっすよ」
「同じクラスで本当に良かったよね」
「そうか。他に2年生になって変わった事とかあるのか?」
「変わった事ねぇ……」
瀬奈は何かあったか、思い出そうとしている。
「そうっすね。進路の話が出始めたくらいっすかね」
「進路か。高2でもうそんな話が始まるのか」
「高3になったら文系と理系でクラスが分けられるっすからね」
「2人とも進路はほぼ決まってるけど、それでも文系と理系に分かれるんだろ? 2人とも文系?」
「そうだよ。私は調理師の専門学校に行くつもりだから、文系でも理系でもどっちでもいいんだけどね。数学より国語の方が得意だから文系かな」
「私もそんな感じっす。高校卒業後は冒険者って進路は決まってるんで、どっちでもいいっすね。瀬奈ちゃんと同じクラスになる可能性の高い文系がいいっす」
進路かー。俺の場合はもう冒険者としての道を進み始めてるし、この2人も目標が決まってるからいいけど、普通の高校生は大変だな。
悠斗も鍛冶職人を目指すだろうし、俺の周りは進路に関しての悩みはなさそうだな。




