73話:ホワイト
バレンタインから数日後。
予定通り、マウンテンスタリオンの吸収が上限に到達した。
日々食べているから、Absorbの効果で身体が軽くなる感覚はほとんど感じない。でも、確実に力やスピードは上がっている。
今日からはクラッグベアだな。予想だと2ヶ月はかからないけど、それに近いくらいかかりそうなんだよな。大体4月上旬から中旬までって所か。
まぁコツコツと食べ進めていくしかないな、頑張ろ。
そして、俺の吸収が上限になり、実力が上がっているので、かおりんと一緒の日も第13層で活動するようになった。
第11層はモンスターが遠距離攻撃だったから、かおりんの安全を第一に考えて第10層でしかレベル上げをしなかった。
だが、第13層ならクラッグベアが相手だと奇襲をされる心配が無いし、マウンテンスタリオンも上にだけ気をつけていれば大丈夫だから、安心してかおりんを連れてこられる。
まぁクラッグベアの場合は1体の肉が145kgほどで重すぎて、かおりんと分担しても3体で限界になるから頻繁に地上に持ち運ぶのは大変だけどな。午後になると帰りの時間を考えて、軽いマウンテンスタリオンを狩りにいくか、重いクラッグベアを狩りに行くか考えている。もっと大量に運べるようにならないかな……
◇◇◇
そんな日々を過ごしていると、あっという間にバレンタインから1か月が経った。
そう、つまりホワイトデーがやってきたのだ。
バレンタインに瀬奈とかおりんからもらったので、しっかりとお返しを用意しなければという事で、この間の休みの日に仙台駅やデパートを巡って探し回ってきた。
そういえば、1年前のホワイトデーは何を瀬奈に渡したっけ? 冒険者になってすぐだったから、多分何も返してないな。まぁ毎年趣味で作ってくれてたし、お返しを求めてくる事も無かったからな。むしろホワイトデーにも瀬奈が作ってた気がする。ケーキを作るための口実にバレンタインとホワイトデーを使っていたな。
「今日の瀬奈ちゃんの料理は何っすかねー」
ダンジョンから帰る道中、いつもよりもかおりんのテンションが高い。
「クラッグベアを使った何かなのは確実だな。そういえば、美味しいステーキ作るよ、って今朝言ってたな。いつものステーキと違うのか?」
「いつものと何が違うのか楽しみっすね」
かおりんのテンションを満足させる料理であって欲しいな。落ち込んだ状態でバレンタインデーのお返しを渡すのは嫌だぞ。
◇◇◇
今日は祐也がかおりんにバレンタインのお返しを渡す日のはず。
それを演出してあげるために、いつもよりも美味しい料理を振る舞って、かおりんのテンションを限界突破させてあげれば、多少祐也のお返しがダメでもかおりんにとっては満足した日になってくれると思う。
さて、作っていこうか。
まずはステーキ用に肉を切り出していく。そして、筋をしっかりと切ってから、キッチンペーパーで包んで水気を吸い取る。
吸い取っている間に、マイタケを細かくみじん切りにして、塩を入れて混ぜておく。
水気が無くなった肉の両面に塩マイタケを軽く塗って、ラップに包んでおく。祐也が食べるために大量に用意したら、あとは祐也とかおりんが帰ってきてから焼けばOK。
ソース用に、にんじんとネギをみじん切りにして、オリーブオイル、醤油、酢、レモン汁を加えて混ぜておく。
あとはいつもの大和煮を用意しておけば十分。
「瀬奈ちゃん、ただいまっすー!」
「かおりんの家じゃないだろうが。じゃあ俺は着替えてくるから」
「ダイニングで待ってるっす」
2人が帰ってきたわね。じゃあステーキを仕上げていこう。
まずはラップに包んでいた肉を取り出して、塩マイタケを拭っていく。
そして、温めて油をひいたフライパンで片面ずつ焼いていく。5・6分焼いたら、アルミホイルで包んで寝かせておく。その間にドンドン焼いていく。
「いつもと違うステーキを作るって朝言ってたけど、何が違うんだ?」
着替えてきた祐也が戻ってきた。
「まぁ食べてみてのお楽しみだよ」
そろそろ提供しないとね。
アルミホイルで包んでいた肉を再びフライパンでしっかりと30秒ずつ焼いたら完成。
最後に肉に塗っていた塩マイタケとソース用に混ぜてあったにんじんとネギとオリーブオイルのやつをフライパンで軽く火を通して、肉にかければ完成!
さて、どんな反応をするかな。このステーキの美味しさに驚くがいい!
◇◇◇
「お待たせー」
ソファで待っていると瀬奈がステーキを運んできた。
いつものと何が違うんだ? ソースが醤油ベースじゃなくて朱色っぽい感じだな。にんじんとか使ってるのかな。
「さぁ、冷めないうちに食べちゃってよ!」
いつもよりも瀬奈の自信が伝わってくる。
「「いただきます」っす」
ステーキをフォークで押えて、
「柔らかっ!」
フォークで触っただけでも分かる柔らかさ。どうなってるんだ?
ナイフを入れるが、こっちでも柔らかさを感じる。
少し大きめに切ってしまったが、構わずにフォークを刺して口へと運ぶ。
んっ!! 柔らかい!!
いつものクラッグベアの肉とは全然違う。何がどうなってるんだ?
ただ、肉の旨味はいつものクラッグベアだ。ソースもいつもと違うが、野菜の甘みを感じてとてもマッチしている。
「瀬奈ちゃん! なんでこんなに柔らかいっすか!」
「マイタケの酵素の効果だよ。肉を柔らかくする効果があって知ってたけど、この間動画を見たらやってみたくなったんだよね」
「ヤバいっすね。美味しいけど、顎が疲れるなって思ってたっすけど、これは最高っすよ!」
「かおりんが喜んでくれて良かった」
へぇー。マイタケの酵素か。下層に進むほどモンスターの肉は美味しくなるけど、そこに料理人の技術が組み合わさるとここまで美味しくなるのか。奥深い世界だな。
「美味しかったっす。瀬奈ちゃん、今日もごちそうさまでした」
「かおりんの食べっぷりも良かったよ。祐也ほどじゃないけど」
一緒にしちゃダメだろ。こっちは食べる事が戦いみたいなものなんだから。
「さて、デザートにしようか。祐也からどうぞ」
……どうやって言い出そうかと思っていたから乗っかるか。
「じゃあ俺から渡すよ」
そう言ってソファの後ろに置いておいた袋を取り出す。
「こっちがかおりん、こっちが瀬奈だ。先に言っておくと、中身はほぼ同じで色違いだ」
「色違い?」「調理道具の色違い?」
「調理道具じゃないからな」
「開けていいっすか?」
「どうぞ」
袋から取り出して、包装を丁寧に剥がしていく2人。
「おぉ、キレイっすね」「へぇ、クッキー缶ね」
包みから出てきたのはクッキー缶。
「試食して美味しかったし、何よりもその缶がいいなと思ってな。完全な消え物じゃない方がいいかなって思ってそれにしてみた」
「いいんじゃない? ねぇ、かおりん」
「この缶、すっごく可愛いっす。何かに使わせてもらうっす」
かおりんはクッキー缶を抱きしめるようにして、満面の笑みを浮かべているので、的外れのお返しにはならないで済んだかな。
「さて、2人とも冒険者になって1年経ったし、今後の抱負でも語ってもらおうかな」
「なんでそうなる?」
「いいじゃん、ちょうどいい機会だし。1周年なのは間違いないでしょ。無事に2人とも怪我もなく、冒険者を続けられてきて、今後もどうなっていきそうか見えてきたんじゃない?」
確かに、先の展開が見えてきたな。レベル上限になった時はどうなるかと思ったけど、瀬奈とかおりんの協力もあって、そこそこ順調に進んできたしな。
「じゃあ私から。まずはあと2年後にちゃんと高校を卒業して、専業の冒険者になること。そして、祐也さんとのパーティーとして、しっかり役に立つ冒険者になるっす!」
「いいねー。具体的には?」
「具体的っすか……んー、レベル上げと……あとはレベル50で獲得するスキルがいいものだと嬉しいっす」
「それは抱負じゃないだろ」
「じゃあ、レベル50で獲得するスキルをしっかり活かして立派なポーターになるっす」
「今でも十分に役立つポーターだけどな」
「もっともっとっすよ。世界一のポーターになるっす、祐也さんと一緒ならなれるっす!」
世界一のポーターか。いいな。
「いい抱負だね。じゃあ次は祐也」
「そうだな……このAbsorbスキルがあれば絶対に他の冒険者よりも早く強くなれると思ってる。だから、世界記録更新だな。まずは奥羽ダンジョンでまだ未進出の20層への進出、そしてその先は小谷さんを超えて、世界一の中国チームも超える。最終的には最下層まで行く事だ」
「怪我しないように気をつけてよ」
「もちろん。あとは、そのモンスターを食べる事だな。美味しいものを食べるために冒険者になったんだから」
「じゃあ私はそれを世界一美味しい料理にする事を目標にしようかな」
「じゃあ私はそれを世界一美味しそうに食べるっす」
「俺はそれを世界一大量に食べる、だな」
2年目も、それより先も、行ける所まで進んでいきたいな。




