74話:春のレベル上げ祭り
ホワイトデーが過ぎればあれがやってくる。
「春休みっすー!」
世の高校生は春休みに入った。まだ桜が咲くには早いが、徐々に暖かくなってきている。ちなみに、俺は花粉症ではないので、春に嫌な感情は一切ない。
そして春休みになったので、予定通りにあのイベントをすることになった。
「今回は第13層なのね。5層も先に進んで大丈夫なの?」
瀬奈のレベル上げだ。去年の夏合宿でレベル19まで上げたが、今回は1日でどこまで上がるかな。
「多分な。攻撃を受ける事は無いけど、経験値がもらえるかは分からないから、そこはやってみてダメだったら9層に行くよ」
あの硬いクラッグベアに瀬奈が攻撃しても、貢献度がコンマ僅かでもあると判断されるのか。
色々検証してみたかったから、ちょうどいいかな。
「じゃあ、はい。これを持ってて」
「……石だね」
「俺が指示した所に投げてくれ。それでレベルが上がるかの検証をしたい」
瀬奈に渡したのは、そこら辺に落ちていた拳ほどの大きさの石を3個。
ダメージになる事は無いだろうが、それが当たった事で動き出したり、反応した場合は貢献したって判定されそうだなと思っての事だ。
「危なくなったら、かおりんの後ろに逃げてくれ。まぁ危なくなる事は無いけど」
「本当?」
「大丈夫っすよ。私もここでは一回も攻撃を受けた事は無いっすから」
「それなら信じましょう」
なんでそんなに偉そうなんだよ。
13層を歩き、クラッグベアを探していく。
「全然いないねー」
「そうだな……お、いたぞ」
「ん? どこ?」
「あそこだ。石を投げてくれ」
「大きな岩があるだけに見えるけど?」
「あれがクラッグベアっすよ。私も最初は分からなかったから、瀬奈ちゃんが戸惑うのは分かるっす」
「まぁとりあえず投げてみるよ」
そう言って、瀬奈は手にしていた石を1つ投げた。
「もう少し上に当ててくれ」
「ほーい」
2つ目は1つ目よりも上にしっかりと当たった。
「今の所にもう1つも投げてくれ」
「はいはーい」
3つ目を瀬奈が投げて、岩に当たる直前。
ズ、ズズ……
クラッグベアが動き出した。
「うわ、本当にいた」
「じゃあ後はかおりんと一緒にいてくれ」
後は俺が倒すだけだ。
いつものように近づいていき、横薙ぎの一閃をクラッグベアの頭へと放つ。
ガッ、ズジャァァァンッ!
よし、OK。俺の一撃で血が流れ出した所へ、剣を突き刺してとどめを刺すと、クラッグベアは前向きに倒れていった。
「かおりん、血抜きお願い」
「任せるっすー」
さて、あとは瀬奈がレベル上がったかどうかだな。
かおりんとすれ違って、固まっていた瀬奈に声をかける。
「どうだった?」
「はぁ~。上がったわよ。あれでいいなんて、どうなってるのよ。それにしても、相変わらずえげつない力ね」
瀬奈が呆れたように呟いた。
「上がって良かった。あれでも貢献していると判定されたなら、明日の悠斗もこの方法でいけるな」
クラッグベアが岩に擬態している所に石をぶつけて動き出せば、それは戦闘開始のトリガーを引いた立派な貢献になるはず、という俺の読みはどうやら正解だったみたいだ。
「レベル20かー。25までいけばスキルが獲得できると思うと、今日中に25まで上がって欲しい所ね」
「どうだろうな。ギリギリいけるかどうかって所じゃね?」
「レベル23までで終わりかー。あと1日って所ね」
かおりんがクラッグベアの肉を売りに行っている間も、肉は放置しながら瀬奈のレベル上げを進めていたが、レベルは23までしか上がらなかった。
「どうしてもって言うなら、かおりんにお願いしてもう1日使わせてもらうぞ?」
「いや、やめとく。新しいスキルは夏休みの楽しみに残しておくわ」
「夏休みか。今年も合宿するか?」
「そうだねー。かおりんと相談しておくよ。去年はかおりんと2人で6日だったけど、今年は悠斗も参加するし……私と悠斗は2日ずつにするかな」
「別に俺は問題ないけど、どうして2日?」
「去年は私は丸3日分だったでしょ? それで春休みは私も悠斗も丸1日ずつ。
それなら夏休みは丸2日、冬休みと春休みは丸1日、ってのが分かりやすいかなって思ったの。それくらいならかおりんの負担にもならないし。13層ならそれで私はレベル25になりそうだしね」
「まぁ日数はかおりんと相談してくれ。悠斗もそれでレベル25になるといいんだけどな」
「そこはスパルタでレベル25までもっていかせればいいのよ」
体育会系のノリだな……
「それか、かおりんのいない日に悠斗をダンジョンに連れていけばいいのよ。それならかおりんの負担にはならないでしょ」
「そんな日あるかな……」
「悠斗の高校の始業式と終業式って、うちの高校と同じ日かな? 違うならかおりんのいないその日でダンジョンに来ればいいよ」
「まぁ聞いてみるか」
翌日は悠斗のレベル上げ。昨日と同じ13層でやったけど、
「あれでいいのかよ! どういう判定してるんだぁ!! ありがとうございます!!!」
瀬奈よりも悠斗の方が反応が大きくて面白いな。そしてお前は誰に感謝してるんだ。
なお、悠斗はレベル16から21まで上がったが、まだ瀬奈の方がレベルが高い事を知ったら、
「まだ瀬奈の方が高いのかよ……」
と悔しがっていた。そりゃ瀬奈も昨日同じようにレベル上げしたんだから、逆転は難しいだろ。それにレベル差は2なんだからすぐだろう。
ちなみに、悠斗の高校と瀬奈の高校の始業式は同じ日だったので、次のレベル上げ祭りの開催は夏休みという事になった。
夏休みか。それまでにもっと先に進めているといいんだけどな。




