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フードファイト・ダンジョン ~最高の食材とまだ見ぬ絶景を求めて最下層を目指します~  作者: 祐祐
第5章:中堅

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70/80

70話:第12層パーティー戦

 次の土曜日。かおりんと第12層へやってきた。


「ここが第12層っすか。第10層と同じですごい岩場っすね」


 ここ数日はマウンテンスタリオンを倒しまくってきたので、急降下攻撃をされる前にちゃんと捕捉すれば、戦闘で遅れを取ることは無い。


「さっきも言った通り、上から落ちてくるマウンテンスタリオンに気をつけろよ。絶対に防御しようとしないで、避けること」


「分かってるっす!」


「じゃあ行こう」


 ここ数日と同じく、真正面の渓谷へと足を踏み入れる。

 1人で来ている時と周囲の様子は変わらない。だが、かおりんという守らないといけない相手がいるからか、いつもよりも緊張する。初めて第12層に来たあの日のようだ。


 あの日以降、時間があればワクチンのことを調べているが、噂以上の情報は何も見つからない。ヨーロッパの方でワクチンによる被害が出ているというニュースを見つけたが、日本については全く無い。

 あいつらのように人知れずに活動しているのか、それとも日本には大した人数はいないのか。日本での活動実態が掴めないのが逆に不気味だ。

 どちらにせよ、俺の前に現れなければどちらでもいいな。俺の目的の邪魔にならなければ。



「いたっす! 右上っす!」


 少し周囲への警戒が緩んでいたのか、かおりんが先にマウンテンスタリオンを見つけた。

 右上に視線を向けると、ちょうどマウンテンスタリオンが止まり、こちらを見下ろした所だった。そこからなら余裕で対応可能だ。落ち始めてたらちょっと困ったけど。


 そこから断崖の縁を蹴り、そのまま真下へ落ち始めた。

 ただ、これは俺じゃなくてかおりん狙いか。


「避けろ!」


 叫ぶと同時に、かおりんのいる方へと駆け出す。

 かおりんは俺とぶつからないように、マウンテンスタリオンのいた崖とは反対側へと一歩踏み出す。


「うわぁあ」


 ここは渓谷の岩場。平地とは違う足元であり、ここにまだ慣れていないかおりんがバランスを崩した。


「手を!」


 両手で持っていた剣を左手に渡し、右手をかおりんに向けて差し出す。思い切り伸ばした手に気づいたかおりんが右手を伸ばしてくる。

 掴んだ! 腕が抜けるほどの力でかおりんを自分の方へ引き寄せる。


 ドォォォォォンッ!

 その直後、渓谷に凄まじい激突音が鳴り響き、マウンテンスタリオンの爆撃が炸裂した。足元の岩場は砕け散り、土煙が周囲に舞う。


 間一髪でかおりんを救出した俺は、左手に握りしめた剣を奴へと向ける。

 着地の衝撃を逃がそうと膝を折ったマウンテンスタリオンは、その衝撃を利用して俺たちから離れるように飛び跳ねて行った。向かう先は先程登っていた崖。あいつ、あの一撃必殺以外で攻撃してこないってことか。

 まぁかおりんを守りながら戦うのは厳しそうだったから良かったけど。


「だ……だき……」


「大丈夫か? 怪我は無いか?」


 引き寄せていたかおりんを解放して、怪我をしてないか確認する。


「うおっ! だ、大丈夫っす!」


「そうか。マウンテンスタリオンはまた崖に登っていったから多分大丈夫だ。あの崖から離れておけ」


「ええっと、崖から離れるっすね、了解っす」


 攻撃してくる崖から離れてもらえば、奴は俺を狙うだろう。

 かおりんもちょっと動揺してたみたいだけど、すぐに慣れるはずだ。


 しばらくして崖を登り終えたマウンテンスタリオンは、今度は俺に向かって飛び降りてきた。

 一対一ならもう負けることは無いんだよ。


 右に踏み込み、半身をずらして、奴の攻撃を避ける。

 ドォォォォォンッ! という落下音を聞きながら、奴の前足に剣を叩きつける。


 剣はザシュッ! ともも肉を深く斬り裂き、振り抜いた剣を翻して後ろ足のもも裏にも剣を叩き込む。これで逃げられないだろう。

 二撃により、片側の足が使えなくなったマウンテンスタリオンは、こちらに倒れてくる。


「かおりん投げろ!」


 素早く距離を取り、追撃するように伝える。

 ……ん? 返事が無い?


(だ、抱きしめられたっす……咄嗟に守るためだとは思うっすけど……祐也さんの息が……や、ヤバいっす……記憶から消さないと顔が見れないっす!!)


「かおりん!?」


「は、はいっす!」


 こんな時にボーっとしていたかおりんがようやくこちらに気づいた。


「大丈夫か? 本当に怪我してないか?」


「だ、大丈夫っす! ピンピンしてるっす!」


「まぁならいいが。それより攻撃してくれ」


「あっ。すみません、すぐに!」


 鉄球を取り出して、岩場に倒れ込んでいるマウンテンスタリオンへ投げつけた。

 鉄球はゴンッと鈍い音を立てて頭部にぶつかった。

 それを確認して、サクッと首を落とす。



 ふぅー。ちょっと危なかったな。かおりんに岩場での動きの練習をさせなきゃな。



◇◇◇



 祐也とかおりんが帰ってきた。

 ダンジョンに行く前から、今日はマウンテンスタリオンを持って帰ると言われていたから、ボルダーグラップラーは解凍しないで待っていた。


 2人が持ち帰ってきた肉を受け取り、断面を見て驚く。垂直の壁を登るモンスターだと聞いたが、その動きのために極限まで絞られた肉は脂身がほとんどない。普通の馬肉ならパサつきそうなものだが、この肉は指で押すと吸い付くような潤いがある。


 まずはローストホースを作っていく。

 絶対に熱を入れすぎちゃダメ。低温調理で、しっとりした弾力を最大限に引き出そう。

 肉の表面に塩胡椒を振り、すりおろしにんにくをたっぷりと擦り込んでいく。

 しばらくおいて、肉から出てきた水を丁寧に拭き取る。フライパンを熱し牛脂を引き、表面だけを強火で一気に焼き、香ばしいメイラード反応を起こさせる。ジューッという激しい音と共に、野性味溢れる、けれどどこか爽やかな香りが立ち昇った。んー、いい香り。

 焼き色がついたら取り出し、しばらく置いてからラップを巻いて、電子レンジで2分半加熱する。

 加熱が終わったら、アルミホイルとタオルで包んで30分ほど休ませる。同じようにいくつも肉を加熱しては休ませていく。

 休ませてる間にソースを作っていく。フライパンにバターを溶かして、醤油、オイスターソース、みりん、酒、砂糖、うま味調味料、胡椒、にんにくを入れて完成。


 まだもう少し休ませる必要があるから、その間に馬刺しとスタミナ炒めを作っていく。

 それが完成した所で、休ませておいた肉の状態を確認するために、刃を入れる。

 うん! 中はほんのり赤く、切った時に肉汁も出てこない。完璧っ!


 新しい食材を使うのは、何度やってもワクワクで楽しいね!



◇◇◇



 今日はずっとかおりんの様子がおかしいままだった。まぁかなり危なかったからな。トラウマにならなきゃいいけど。


 着替えてからリビングに降りて、瀬奈の料理ができる前に、持ち帰ってきたマウンテンスタリオンの心臓を食べることにした。

 昨日食べようと思えば食べれたけど、まだボルダーグラップラーを食べ終えてないし、そっちに胃袋を空けておきたかったからな。


 マウンテンスタリオンのハツを袋から取り出す。ハツは驚くほどキメが細かい。断面はルビーのように透き通り、脂感は皆無だ。

 一切れ持ち上げると、箸に吸い付くような弾力がある。この時点で感じるのは初めてだ。

 いよいよ、醤油につけて一口。やっぱりスゴイ。噛もうとする歯を押し返してくるような強烈な弾力。だが決して硬いわけではない。垂直の壁を駆け上がるために鍛え上げられた心臓が、口の中で爆発的なエネルギーを主張している。

 臭みはもちろん全く無い。噛みしめるたびに、澄んだ鉄分の旨味がこれでもかと溢れてくる。過去一のハツであることは間違いない。



「料理できたよー」


 ハツを食べ終えて、ソファでのんびりしていた所に瀬奈から声がかけられた。


「マウンテンスタリオンの肉はすごいね。鮮度も質も過去最高だよ」


 食卓には、深紅のグラデーションが美しい三つの皿が並んでいた。

 まずは、定番の馬刺し。

 ストライクホースよりもさらに色が濃く、宝石のように光を反射している。醤油に浸し、口へ運ぶ。

 噛んだ瞬間、肉が口の中で跳ねた。垂直の壁を登るために鍛え抜かれた筋肉。それは死してなお、その躍動を忘れていないかのようだ。ハツと言われても信じてしまいそうだ。脂は一切感じない。純粋な赤身の旨味だけが、濁流となって喉を駆け抜けていく。


 続いて、スタミナ炒め。

 ニンニク、生姜、コチュジャンの刺激的な香りが食欲を暴走させる。ニラと玉ねぎの甘みが、肉々しさをさらに引き立てている。

 しっかりと火が通った肉は、生の状態とは違うしなやかな強さを持っていた。濃い味付けなのに肉の味が負けてなくて、飯が進みすぎる。


 そして、最後にローストホース。

 クリスマスの時に食べて美味しかったが、やっぱり旨い。噛みしめた瞬間に溢れ出す肉汁と旨味は、これが幸せの味だと教えてくれている。しっとりと柔らかくて、馬刺しとの食感の違いもやっぱりいい。




 はあー。今日の料理も美味しかった。さすが瀬奈。


「ごちそうさまでした」


「今日も食べきったな、よし」


「じゃあ皿洗うか。フライパンとかは洗わなくていいんだよな?」


「そっちは自分でやりたいから放置でいいよ」




「で、かおりん、何かあった?」


「えっ? な、何かっすか?」


「うん。ずっとぎこちないし、ダンジョンで何かあったのかなって」


「瀬奈ちゃん、なんでいつも分かるっすか」


「んー、何となく? で、何があったの?」


「……抱きしめられたっす……モンスターの攻撃を避ける時に私が躓いて、咄嗟に守るために抱き寄せられて……祐也さんの息が耳に……」


「あーあ、かおりん耳真っ赤だよー」


「も゙ぉー!! 瀬奈ちゃん!!」


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