62話:久々のパーティー戦と夕食会
「おはよう」
「おはよっす」
3ヶ月ぶりのかおりんとのダンジョン。
いつも通りダンジョンの入口で待ち合わせたけど、そこにいたかおりんは頬を膨らませて地面の小石を蹴っていた。表情も不機嫌そうだ。
「あー、北海道に行く前に何も言わなくてごめん。いつ上限に到達するか分からなかったし、1日でも無駄にしたくなくて」
「そこはいいんすよ。メッセージで説明してくれたっすから」
「じゃあ1人で行ったことか?」
「そこもいいんすよ。高校があるから行けないっすから」
「んー、じゃあ……お土産?」
「そうっすよ! なんで私だけお土産無いんすか! ひどいっす! 仲間外れっす!」
「いや、仲間外れって家族にしか買ってないんだから」
「そんなことは聞きたくないっす!」
えー、マジか。掲示板の男性独身冒険者さんの言った通りじゃん……
ただ、そのおかげで事前に対策を考えておいて良かった。
「気づいたのは飛行機に乗った後で買えなくてな。だから代わりのものを用意した」
「えっ? 瀬奈ちゃんがお土産無いって言ってたっすよ?」
「まぁ瀬奈には言えないからな(高くて)。
とりあえずついてきて」
ダンジョンの入口から、ダンジョン協会の建物へ向かっていく。
「なんか大きいものでもロッカールームに用意してるっすか?」
「惜しいな。まぁすぐ分かる」
そのまま向かったのは、俺が魔導鋼の剣を購入したダンジョン協会の直営店。
「えっと?」
「はい、これがお土産代わりのプレゼントだ」
懐から1枚の紙をかおりんに差し出した。
「何すかこれ?」
「魔導鋼の防具と盾の引換券だ。
これから第10層に行くから、そのためにはかおりんの防御力を高めないと危険だと思ってな。
俺が払うのは違うって思うかも知れないけど、必要経費だと思って受け取ってくれ」
「……何か複雑っす」
「ん? どうした?」
「いや、ありがとうっす。これでこの先も祐也さんと一緒にダンジョンに潜れるっす!
早速引き換えてくるっす!」
券を受け取ったかおりんは、店員さんに声をかけに行った。
うん、喜んでもらえてよかった。ふう、一件落着だな。
(うーん……私の安全を考えてくれるのは嬉しいっすけど、パーティーメンバーとしてしか見られてない気がするっす……)
かおりんが魔導鋼のプロテクターと盾を引き換えて、装備してから第10層へ向かう。
「そういや、俺がいない間は投擲の練習をしてたんだよな?」
「そうっすよ。この鉄球で遠くから見つけやすい第3層で練習してたっす。
まぁ弱いモンスターっすから、沢山倒してもレベルは1しか上がってないっすけど」
「命中率はどうなんだ?」
「走ってるミニポニーでも80%くらいは当たるっすよ。
止まってれば必中っす!」
「なら問題ないな」
話をしている間に第10層に到着した。
「ここにいるモンスターは2種類とも、遠距離から岩で攻撃してくる。
常に盾で顔はガードしておいてくれ。俺が攻撃して動かなくなったら投げてくれ」
「了解っす!」
かおりんのスピードに合わせてゆっくりと岩場を進んでいく。
ストライクホースからの初撃は俺が受けたいが、どこから来るか。
ヒュッ!
いつものあの空気を切り裂く音が響く。
視界に入った飛んでくる石は俺から少しズレた所を通ると思うが、そのまま飛んでいったらかおりんに当たりそうだ。
それじゃあ対処しないとな。素早く鞘ごと剣を振り抜き、石の射線を遮る。
カンッ、と軽い音を鳴らして、石を弾いた。
「見えたか?」
「剣を出してもらえる前に少しだけ」
「それで十分だ。俺が進む方向にストライクホースがいるはずだから、そっちに盾を向けながらついてきてくれ」
「分かったっす」
ストライクホースに向かって駆け出すと、再び石の弾幕が展開された。
かおりんにちゃんと盾で防御してもらうためにも、今回は可能な限り避けて進む。
カンッ、カンッ、ゴンッ
石の軽い音が盾に当たったと思う音の中に、重い音も混ざる。
「大丈夫か?」
「問題ないっす! ダメージ無しっす!」
なら良し。かおりんを守るという考えは置いておいて、一気にストライクホースに接近する。
ストライクホースがいつも通りに軸足を固定し、後ろ蹴りを放ってきた。この動きも見慣れたものだ。
弾け飛べ!
ガギィィィン!!
振り抜いた剣が蹄にぶつかると、凄まじい金属音と共に衝撃が身体をピリピリと震わせた。その結果は前回と同じ。蹴りを弾き返されたストライクホースは、大きく体勢を崩す。
そこへ一歩踏み込み、無防備になった下半身へ一撃を深く振り下ろす。
「投げろ!」
「はいっす!」
俺の一撃で倒れ込み、動きを止めたストライクホースへ、かおりんが鉄球を投げつける。
声を上げると同時に左側に回り込み、その鉄球の様子を見るが速い。ストライクホースの石の弾丸と同じくらいのスピードが出ていそうだ。
ドシュッという鈍い音と共に、鉄球はキレイにストライクホースの胴体へとめり込んだ。なかなかの威力だな。第3層なら一撃だろう。
かおりんの攻撃が入ったので、さっさと首を落とす。
「第10層でもやっていけそうだな。じゃあかおりんのレベル上げと金稼ぎといこうか」
「ストライクホースの運搬は任せるっす」
◇◇◇
今夜の夕食会に向けて、準備しなきゃね。
まずはアーチャーフィッシュのフライを作っていこう。
フライを揚げる前に、合わせるタルタルソースから準備していく。ゆで卵、玉ねぎ、ピクルスを細かく刻んでいく。刻んだ具材をマヨネーズ、レモン果汁、塩胡椒と合わせて完成。少し手にとって舐めて味見をしてみる。
うん、バッチリ!
次はメインのフライだ。身を肉厚に切り出し、塩胡椒、小麦粉、卵、パン粉の順で衣をつけていく。
高温に熱した油に入れると、パチパチと弾ける音と共に香ばしい香りが漂ってくる。きつね色になるまで揚げて完成!
次は定番のムニエル。
塩胡椒、小麦粉をまぶし、バターとハーブでじっくりと焼き上げていく。バターの香りがたまらない!
最後は西京焼きだ。今日の夕食会のために、これだけは届いた昨日のうちに仕込んでおいたんだよね。
切り分けた身を、白味噌、みりん、酒、砂糖を合わせた特製の西京味噌に漬け込んでおいた。一晩寝かせて、芯まで染み込ませてある。
漬け込んでおいた西京焼きを取り出し、オーブンで焼き上げていく。味噌の香りが立ち込めてきた! しっかりと火も通って、表面の味噌が少し焦げていい感じになった所で完成だよ!
よし、アーチャーフィッシュの3品完成!
◇◇◇
かおりんとの久々のダンジョンを終えて、2人で俺の家にやってきた。
今日は瀬奈が提案した夕食会だ。
「じゃあ着替えてくるから」
「はいっす。瀬奈ちゃん見てくるっす」
着替えてリビングに降りると、アーチャーフィッシュの魚料理が並び始めていた。
あの巨体から切り出された白身は、火を通すことでどのような変化を見せるのか。
「祐也が帰ってきた記念パーティーの始まりだよ!
今日のメニューは、アーチャーフィッシュのフライ、ムニエル、西京焼き。さぁお上がり!」
「いただきます」「いただくっす」
まずはフライからいただこう。瀬奈の自家製タルタルソースが美味しいのは知ってるが、それとアーチャーフィッシュのフライがどう融合するのか。
タルタルソースをたっぷりと乗せて、豪快にかぶりつく。
んっ! サクッ、という軽快な音の直後、中から熱々の肉汁が溢れ出した。衣の軽快な歯応えの先には、アーチャーフィッシュの強靭な弾力が跳ね返ってくる。噛みしめるたびに白身特有の上品な甘みが口いっぱいに広がる。
卵たっぷりのタルタルソースがその旨味を包み込み、重厚な満足感へと変えていく。
次はムニエルだ。バターとハーブの香りが鼻腔をくすぐる。
一口運ぶとバターのコクとハーブの爽やかさが、濃縮された魚の脂と完璧にマッチしている。刺身の時とは違う、加熱されることで引き出された旨味。シンプルな味付けだからこそ、アーチャーフィッシュの旨味が存分に味わえるな。
最後は、瀬奈が昨日から仕込んでいたという西京焼きだ。
オーブンでこんがりと焼かれた表面の味噌が、食欲をそそる香ばしさを放っている。箸で身を割り、口へ。
ほう。一晩寝かせたことで、西京味噌の塩気と甘みがアーチャーフィッシュの隅々まで行き渡っている。白身は驚くほどしっとりと柔らかく、それでいて噛むほどに旨味が後から後から追いかけてくる。これはご飯が進む!
「……かおりん、機嫌いいね。何かあった?」
「祐也さんがプレゼントくれたっす」
「用意してなかったと思うけど」
「防具をくれたっす」
「あぁーそうきたか、祐也らしいね。でも良かったじゃん」
「良かったんすけど……パーティーメンバーとしてしか見られてない感じがするっす……」
「うーん。焦っちゃダメだよ。かおりん以外にやりとりのある女子って多分いないだろうし」
「瀬奈ちゃん……」
「はいはい、いつでも相談に乗るから、今は食べて元気出しなよ。ってか、私の料理を食べれば元気になるよ!」




