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フードファイト・ダンジョン ~最高の食材とまだ見ぬ絶景を求めて最下層を目指します~  作者: 祐祐
第4章:北海道遠征

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58話:北海道第8層・カニ

『誕生日おめでとう。特に変わりない?』


『ありがとう。変わらないよ』



 アイアンオイスターを食べ始めて4日。

 俺は16歳の誕生日を迎えていた。まさかダンジョンで誕生日を迎えるとは、1年前は考えもしなかったな。


 誕生日ケーキも無いが、美味しいものが食べたい。アイアンオイスターも美味しいけどさ、2日で1体のペースで2体を食べきったけどさ、そろそろカニが食べたい。

 甲殻類に対する飽きも牡蠣で払拭されたので、今日はカニパーティーにしたい。



 ということで、第8層にいるもう一体のモンスター、ハンマークラブを探して岩場を歩いていく。

 アイアンオイスターの鈍い鉄のような色とは異なり、ハンマークラブは茶褐色をしている。こっちの方が見つけやすいはずだ。



 しばらく探していると、視界の端で、茶褐色の物体がわずかに動いた。

 ハンマークラブ、見ぃーつけた。

 こいつの最大の特徴は、片方だけ異常なまでに発達した巨大な鋏。それは巨大なハンマーを括り付けているかのようだった。


 奴と目が合う。さて戦闘開始だな。

 ハンマークラブはただ静かに、そしてゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

 その姿には焦燥感を感じない。間合いを測り、こちらの出方を伺う。中学の剣道部時代に合同練習に参加させてもらった、強豪高校の大将のような風格だった。


 俺は魔導鋼の剣を正眼に構え、重心を落とす。10m、5m、3m。


 はぁッ!


 俺は一気に地を蹴り、剣を振り下ろした。

 それに対して、ハンマークラブは最小限の動作で右の巨鋏を持ち上げ、剣の軌道上に置いた。


 ガチィィィンッ!


 鋭い金属音が岩場に響き渡る。俺の斬撃を鋏の最も硬い部分で真っ向から受け止めやがった。

 反動を利用してすぐさま左側へ回り込み、がら空きになった胴体を狙う。しかし、ハンマークラブは器用にその場で身体を回転させた。ヌルリとした動きで再び正面に右鋏が立ち塞がり、受け止められた。

 

 薙ぎ、払い。手数重視で攻撃を繰り出していくが、奴は最小限の旋回と鋏の動きだけで全て防御しきった。

 弾かれた瞬間のわずかな隙を狙い、奴の鋏がこちらを挟もうと鋭く突き出される。


 おっと、そうはいかない。


 一旦後ろに下がって、ハンマークラブの攻撃を躱す。

 固定砲台だったアイアンオイスターに対して、こいつは鉄壁の剣豪って感じだな。スピードでは突破できそうにない。


 それなら正面から粉砕するまでだ。


 俺は剣を高く、上段へと持ち上げた。これまでの北海道ダンジョンで強化されたステータスならいけるはずだ。

 ハンマークラブは俺の動きを見て、右鋏を掲げた。

 迎撃の構え。真っ向から俺の剣をしっかりと受け止めるつもりだろう。


 はぁぁぁッ!


 雄叫びと共に、俺は真っ向から剣を叩きつけた。


 ドォォォォンッ!!


 これまでの高い音ではない。重苦しい衝撃音が周囲の空気を震わせた。

 剣はハンマークラブの右鋏のド真ん中に激突した。先程までならここで勢いを止められていたはずだった。

 だが、この攻撃は鋭さよりも重さを重視した一撃だ。


 叩き潰す!


 奴は必死に右鋏を押し返そうとしているのだろうが、今度は止まらない。

 ミシミシと嫌な音を立てて、俺の剣が右鋏を押していく。


 バリッという破砕音が聞こえた。鋏が甲羅まで到達したのだろう。そのまま押し潰していくと、ハンマークラブの茶褐色の胴体に、巨大な亀裂が走る。

 その瞬間、わずかに反発してきた力が弱まった。そこへ最後の一押しとして剣を更に押し込み、鋏ごと甲羅へ深く叩き込んだ。


 グシャリ、という鈍い音。

 凄腕の剣豪を思わせたハンマークラブの巨体から、巨大な鋏から力が抜けていく。


 息を吐きながら、俺は剣を引き戻した。

 真っ向勝負での力による勝利。それは、俺がこの北海道ダンジョンに来てから強化されたステータスを感じさせるものだった。


 さて、見事なカニじゃないか。

 潰れた甲羅の隙間から、ぎっしりと詰まった白身がのぞいていた。





 解体は後にして、階段近くまで持って帰る。

 130kgの巨体でも余裕で持てるだけのパワーになっていることに、この北海道ダンジョンでの遠征の成果を感じながら岩場を軽快に進んでいく。


 階段近くもほとんど岩場だが、安全地帯なのでここで調理をしていく。

 それにしても、デカいよな。カセットコンロの網じゃあ、殻ごと焼くのは無理だ。

 しょうがない、むき身にするか。



 剣とナイフを使い、解体を開始した。

 脚の関節ごとに刃を入れて、節ごとに丁寧に分けていく。そして足の殻の端を両手で持って左右にゆっくりと広げると、パキリと殻が裂けて、中から極太の身が一切崩れることなくスルリと姿を現した。


 おお、これは見事だ。


 まるで最高級のカニしゃぶのように、一点の曇りもない巨大な身。

 まずはこの脚の身を、網の上に乗せていく。


 ジュゥゥゥッ!


 熱せられた網の上でカニの身がキュッと締まり、淡い桜色へと染まっていく。そして香ばしい匂いが立ち上った。


 まずはこの脚から。何もつけずに焼き立ての身を口に運ぶ。

 んー! 弾力がすごい。ムギュッとした強靭な弾力で、噛みしめるたびに繊維の一本一本から凝縮されたカニの甘みが溢れ出してくる。


 脚だけでもこの満足感。じゃあ、本命というか一番気になるこっちへ。

 このモンスターの象徴である巨大な右鋏に手をかけた。胴体との接合部分に剣を楔のように打ち込み、テコの原理で一気にこじ開けた。


 バリッ!

 分厚い装甲が上下に裂け、中から現れたのはカニの身とは思えないほど巨大な肉の塊だった。

 右鋏を動かすための強大な筋肉。こんなに綺麗な赤身肉がカニの鋏に入っているものなのか。


 この塊を厚切りにして、贅沢に網の上で転がすように焼いていく。

 表面をカリッと焼き上げ、中は半生の状態。そこに一滴、醤油を落とす。

 ジュッと焦げる香ばしい匂いが漂ってくる。たまらずにかぶりつく。


 ……言葉にならねぇ。

 脚の身よりもさらに筋肉質で、噛むほどに旨味が爆発する。圧倒的な充実感。


 しばらく夢中でかぶりついていたが、最後にこれを忘れるわけにはいかない。

 胴体の甲羅を鍋代わりにしてそのままカセットコンロに乗せる。中にはこれまで以上に濃厚なカニ味噌がたっぷりと詰まっていた。

 味噌がフツフツと煮立ち始めたところで、先ほど焼き上げた右鋏の身をその味噌の中に贅沢にダイブさせた。


 っ! ヤバいヤバい! 一瞬頭が真っ白になってしまった。それくらいの美味さだ。

 筋肉質な身の歯ごたえに超濃厚な味噌が絡みつく。アイアンオイスターのミルクのような濃厚さとはまた違う、重厚で奥行きのある味だ。


 醤油も良かったが、やはりカニにはカニ味噌が一番だな。

 さぁ限界まで食べるぞ。アイアンオイスターの身よりも多いけど、3日で食べ切れるかな。


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