52話:北海道第4層
ビーチシェルも上限に到達したので、次のモンスターを食べに第4層に向かう。
倒したから次の階層へ、ではなく、食べ終わったから2つ先の階層へ、なんて冒険者は俺以外にいるんだろうか。
そういえばミニコットンもビーチシェルも短期間で上限に到達したけど、期間が短いからか明確に身体が軽くなったなって感じる。
大きいモンスターほど、吸収に時間が掛かったりしているのだろうか。
第3層を通過して、第4層へ到着した。
第2層・3層とは異なり、階段から右側に続いている砂浜、奥に広がる海、そして左側にある岩場。ここでは砂浜と岩場にモンスターがそれぞれ生息しているらしいから、別々に食べていこう。
同じ環境に2種類のモンスターがいた奥羽ダンジョンの第6層みたいな所と違って、1つの環境に1種類だと狙いやすくていいよな。
どちらに行こうかな。食べてみたい方……岩場にしよう。もう片方は普通に食べ慣れてる種類だけど、こっちは食べたこと無いんだよな。
岩場に到着して、モンスターを探して進んでいく。岩場って本当に歩きにくい。奥羽の第10層もそうだからいい練習にはなるんだけどな。
ヒュンッ!
周囲を警戒しながら歩いていると左前方から黒い影が飛んできた。咄嗟に身体を低くして避ける。
背後の岩に当たった石が、パキッと乾いた音を立てて砕けた。
見つけたぞ、次のターゲットのタイダルロック。
岩に擬態した巨大なフジツボ型のモンスターって書いてあったけど、見た目は岩だな。そこからウニョウニョした触手が伸びていて、その先端に石がくっついている。触手が無ければこの段階でもモンスターだって分からなかっただろう。
その石がどんどんこちらに飛んでくる。でも遅いな。全力投球というよりはキャッチボールって感じだ。
石がどこから来るか分かっていれば危険性は無いな。避けたり、試しにキャッチしてみたり、剣で受けたりしながらタイダルロックに接近していく。
ここまで近づくとタイダルロックは石を投げずに触手で持ったまま、こちらを警戒していた。
足元に気をつけながら剣の間合いまで入って、触手に斬りかかる。
タイダルロックも対抗して、石を剣にぶつけてきたが、魔導鋼の剣はこの程度の石には負けない。石を砕き、そのまま触手を斬り裂いていく。
全ての触手を斬り落とし、剣を逆手に持ち替え、鋼の塊である柄頭を殻の頂点へと叩きつけた。
ガアァァン!
大きな破砕音と共に、硬いはずの殻が粉々に砕け散った。硬いからこそ、耐えられない衝撃で粉々になったんだろうな。何かで同じような現象を見た気がする。強化ガラスだっけ?
砕けた破片の間から、濃厚な磯の香りと共にプリプリとした巨大な身が顔を出した。
フジツボって食えるのか? って思ってたけど、これは美味しそう。
念の為、身に剣を突き刺してから袋に入れる。
階段近くまで戻ってきたので、早速食べていこう。
今回も砕けなかった底側の殻を活用したかったが、さすがに大きすぎるな。身を取り出して一口サイズに切ってから、さっと水洗いして、網の上へ。
網の上でじわじわと身が焼かれていく。断面から濃厚エキスが溢れ出し、ジュッと音を立てて蒸発した。その匂いが俺の食欲をそそる、早く食べたい……
ちゃんと火が通ったのを確認して、焼き上がった一切れを口に運ぶ。
あぁ、すごい。噛むたびに弾ける潮の香りと、後から追いかけてくるカニやエビに似た濃厚な旨味。天然の塩気が身の甘さを引き立てていて、醤油なんて一滴も必要ない。箸が止まらず、次々と網の上へ身を並べていく。
お腹いっぱいになるまで食べたら腹ごなしついでにモンスターを狩って稼ぎにいく。
次のタイダルロックはどこかな。
周囲を見渡しても岩しかない。擬態するモンスターはこういう時に面倒だな。仕方ない。岩場の移動訓練も兼ねて走り回るか。
◇◇◇
うん、タイダルロックだけっていうのも飽きる。
ということで、今日は砂浜の方にやってきた。
こっちもタイダルロックと同じで擬態系のモンスターだ。
砂浜に目を凝らすが、どこまで行ってもベージュ色の景色が続く。だが、不自然に波打つ砂の紋様と、乾いた足音が俺の耳を捉えた。
ザッ、ザッ、ザザッ。
砂を踏みしめる音、かき分ける音。そして、熱せられた砂がわずかに舞い上がっていた。
……右か。いや、後ろ!
砂を蹴って迫る大きなカニのモンスター、サンドクラブ。その速度は時速30km近いそうだ。
身体の大きさに不釣り合いな巨大なハサミが、俺の足を狙って横から薙ぎ払われた。
甘いな。一歩踏み込み、魔導鋼の剣を下から斜め上へと振り抜いた。
ガリィィン!!
鋼とハサミがぶつかり合う金属音。鍛え上げられてきたステータスによる斬り上げは、サンドクラブの突進エネルギーをそのまま上空へと跳ね返した。
15kgほどあるらしい大きなカニが宙を舞い、ひっくり返って砂浜へ叩きつけられた。
砂浜で足をバタつかせ、起き上がろうとしているサンドクラブ。だが、その隙を逃すはずもない。
落下地点へ一気に詰め寄り、剣を真上から突き立てる。甲羅の継ぎ目を貫通し、甲羅の中にしっかりと剣が突き刺さるのを感じた。
ゆっくりとカニの足が力を失っていき、口からわずかな泡が溢れてきた。
よし、食材ゲット。早速食べるぞ。
1人でカニを食べるってなったら焼きガニしかないでしょ。
足を一本ずつ剣で斬って甲羅から外して、さっと砂を水で洗い流す。
ある程度の本数になったら、まとめて網の上に乗せていく。火が通るにつれ、ベージュ色だった甲羅が鮮やかな朱色へと変わり、香ばしい焼きガニの匂いが辺りに充満し始めた。
殻の隙間からブクブクと泡が吹き出し、身が締まったところで一本手に取る。
熱さを我慢して殻を割ると、中から湯気と共に雪のように白い身が顔を出した。
まずはそのまま。ガブりと食らいつく。
んー、結構な早さで走っていたのもあって、身がびっしりと詰まっている。弾力もあり、噛みしめるたびに、カニの繊細な甘みが口いっぱいに広がる。
さて、最後は巨大な甲羅だ。こいつも網の上でじっくり焼き、その中に溜まった濃厚なカニ味噌を、少し焼いた足の身にたっぷりと絡める。
あぁ、これこそがカニの醍醐味だよな。磯の香りが凝縮された味噌のコクと、淡白ながらも力強い身の旨味が混ざり合う。
◇◇◇
第4層でカニとフジツボを食べ続けて1週間ちょっと。
フジツボはすぐに上限に到達するかと思ったけど、あの殻も含めての重さで判定されているのか、なかなか上限に到達せず、ようやく昼前に到達した。
後はカニを食べまくれば良いな。
「あの、すみません」
夕食の焼きガニを一通り食べて、腹ごなしにもう1体狩りに行こうかな、と思っていると声をかけられた。他の冒険者がこちらを見てくることはよくあることだが、話しかけられたのは何気に初めてだった。
「はい、何でしょうか?」
「人違いだったらすみません。もしかして、8月前半に奥羽ダンジョンでポーターの女性と料理人の妹さんと野営をしていた方ですか?」
8月前半……確かに瀬奈とかおりんと合宿してたな。
「はい、多分そうです。どうかしましたか?」
「いえ、それなのにどうして北海道ダンにいるのかなって。
あ、私は掲示板を見ていただけなので、奥羽ダンには行ってないですよ。
あなたが北海道ダンにいるって書き込んだら、なんで北海道にいるんだとか、掲示板にまた来て欲しいとか伝えてくれとお願いされまして」
「あぁ、掲示板ですか。なるほど、最近見てなかったです。
それで北海道ダンにいる理由ですか。飛騨ダンジョンの時と同じで気分転換ですね。あとは魚介類を食べたくなりまして」
「気分転換で北海道まで? な、なるほど。
あと掲示板についてもお願いできますか?」
「分かりました。北海道ダンにいる時の夜は暇なので見ますね。
えっと、あの新人冒険者のスレは……」
「いや、新人冒険者のスレじゃなくて、専用スレがあるのでそっちを見て下さい」
「専用?」
「あれ? 知らなかったですか?
10層に進出してたので、専用スレが作られたんですよ。
『期待の坊主の新人冒険者について語るスレ』っていうのがあるんで、それを見て下さい」
「えぇー……何その名前……」
「まぁまぁ。冒険者になって半年掛からずに10層まで行ったのはかなり早いですからね。皆注目してるんですよ」
「俺なんて注目せずに、小谷さんとかトップ層を注目してればいいんじゃないですか?」
「そこら辺はマスコミとかニュースサイトで分かりますからね。
それよりも原石を見つけたいって気持ちがあるんじゃないですか。
かくいう私もそんな冒険者の1人ですし」
「そういうものですか」
「そうですよ。じゃあたまにでいいので、掲示板を覗いて下さいね。
北海道ダンで困ったこととか知りたいことがあったら答えますので書き込んで下さい」
そう言って、冒険者の先輩は地上に戻っていった。
さて、さっき教えられたスレは、これか。
本当に俺の話題しかしてないな……あと俺への認識は、相変わらず若い坊主、野営、ってだけなのか。まぁそれ以外に分かりやすい特徴も無いか。
後で掲示板を見れば、さっき話しかけてきた人が書き込みするだろうな。それから必要なら書き込めばいいか。
一応ブックマークしておいて。
それじゃあ、カニ食べ行こー。




