5話:第1層
ダンジョンとは何なのか、どういう仕組みなのか。5年経った今でも未だに解明されていないことが多い。
その1つがダンジョンとはどこにあるのか、ということである。
入口から中に入るとダンジョンの第1層に飛ばされる。
そう表現するしかないが、冒険者の身体の一部がダンジョンに入ると次の瞬間には所持品を全て持った状態で第1層にいるのだ。
ダンジョンが入口のすぐ近くにあるのではないかと考えて、入口の周りを掘り返した国があるそうだ。
その結果はどうだったのか。結果は、ダンジョンの入口の周りには何も無かったそうだ。
入口の前後左右上下を全て掘り返しても何も無い。
それどころか、入口だけが浮かんだ状態だったそうだ。
その位置、その座標に固定されている。そうとしか表現できないものらしい。
実際、この奥羽ダンジョンについてもダンジョンが出来たことで本来なら奥羽山脈にある建造物、それこそ仙山線や奥羽本線の線路に何かしらの影響があってもおかしくないし、ダンジョンの一部が地表に現れていてもおかしくないのだ。
しかし何も無かった。線路も全く何も変わっていない。
また、各入口は第1層で繋がっていて、第1層は真っ平らな平原である。なのに入口の標高はバラバラなのだ。
そうなると入口はどこか別の場所にあるダンジョンに繋がっているのではないかとなり、入口から第1層に飛ばされるという表現が一般的になった。
◇◇◇
ダンジョンの入口から中に入った。
次の瞬間には目の前に青空と平原が見渡す限り広がっている。
ネットの情報通りだ。
遂に。遂に!
「奥羽ダンジョンに、来たぁーー!」
両手を上げて大声を上げた。
待ちに待った奥羽ダンジョン!
このために中学3年間を全て使ってきたと言っても過言ではない。
さあ始めようか! ダンジョン探索!
数分間、ダンジョンにやってきたことを噛み締めてから周りを見渡す。
同じ仙台入口から入ってきた冒険者がこちらを見て微笑ましい感じでこちらを見ていた。
そりゃそうか。
若干恥ずかしさを感じながら、入口から離れて進んでいく。
改めて周りを見渡すと、多くの冒険者は入口から右斜めの方向に進んでいる。
そちらには第2層へ降りる階段があるそうだ。
入口近くに次の階層への階段があるのは全てのダンジョンで共通らしく、どんどん下層に進んで欲しいというダンジョンの意思があるかのようだ。
俺はまだそちらには進めない。
第1層は弱いモンスターしかいなく、ここで命を落とすことは世界で年数件しかないほど安全とされている。
一方で第2層からはモンスターが徐々に強くなり、油断していきなり第2層に進むと多くの冒険者は負傷したり、命を落としたりしている。
階層ごとにモンスターの強さが上昇していくため、次の階層に新たに進出する際が一番気をつけないといけないと言われている。
協会では第1層は誰でも、第2層はレベル5以上、第3層以降は前の階層+5レベルが安全なレベルと周知している。
安全マージンを十分にとって活動したい俺としては、まず第1層でレベル5までは上げたい。
レベルが低い間はレベルが上がりやすいらしいが、それでも少なくとも1日は掛かると言われている。
さっさとレベルを上げて先を目指したい。
他の冒険者と離れて進んでいく。
入口が見えないほど遠くまで行くつもりは無いが、念の為スマホを確認する。
日本のダンジョンには国によって開発された特殊な基地局が入口に配置されている。
そのため、ダンジョンの中でもある程度の通信が可能となっている。
そして冒険者向けにスマホアプリが提供されている。
そのアプリを起動する。
そしてスマホを目の前に持ち、ぐるっと1回転。
すると先程出てきた入口にスマホを向けた所で画面に『仙台入口』と大きく表示がされた。
そう、電波が届いていればその電波がどこからどの基地局から発せられたものかを判断して、入口の場所を遠くからでも示してくれるようになっている。
これがあれば入口がどこか分からなくてダンジョンで迷う、ということが無い。
たった5年でよくこんなものが作れるものだな。
ありがたく使わせてもらいます。
アプリがちゃんと使えることを確認できたので、安心して入口から離れていく。
この第1層にいるモンスターは2種類。
1種類はどこにでもいるが、もう1種類は結構入口から離れた特定の場所にしかいないらしい。
前者の方が弱いから、それを今日は探していく。
周囲をキョロキョロと探しながら歩いていく。
目的のモンスターは草の高さより小さいため、草むらの動きを気にしながら。
サワァー
ここはダンジョンの第1層。
それなのにどこかの原っぱにいるかのような爽やかな風が吹き抜けていく。
どこから吹いているんだろうか。
本当にダンジョンは謎だらけなんだな。
この仕組みを解明できたら風力発電が無限にできたりしないのかな。
まぁ実用化されても使われないか。だって、
ガサガサッ
今までと異なる音に気づき、周囲を見回す。
ガサガサッ
再度音が聞こえ、その方向をよく観察すると、不自然に動く草むらを見つけた。
腰に付けた鞘から剣を抜き出して、すぐに振るえるように構える。
自分からは動かない。
剣道においても自分から攻めるよりも相手の攻撃を受けて、崩してから攻める方が得意だった。
その相手が変わっただけだ。冷静に対応できている。
シュッ
草むらから何かが飛び出してきた。
大きさとシルエットは情報通りだ。
それなら剣で受けて問題ない。
刃ではなく、平をそちらに向ける。
ボヨン
平に当たった何か。柔らかい衝撃が剣を通じて手に伝わってきた。
ということはやっぱりあれだな。
剣に当たって弾かれたものを確認する。
それは水色の水風船のような、ゼリーのような見た目をしていた。
やっぱりスライムだな。
ダンジョンのどこにでもいる、ダンジョンの最弱モンスター。
体当たりを受けてもケガをすることはほぼ無い。
衝撃を受けて転んだり倒れたりすることでのケガはあるが、しっかりと踏ん張れればノーダメージである。
また、何でもゆっくりと消化することができるという強さはあるが、俺の消化スキルよりもゆっくりなため、まとわりつかれてもすぐに振りほどけばこちらもノーダメージであり、多くの冒険者にとっては敵にならない。
そういうモンスターなので問題は無いと思っていたが、最初の1体については慎重に対応しようと思っていた。
タックルを剣の平で弾き返すこともできて防御の確認はできたので、次は攻撃をしていく。
弾き返されたスライムはまだボヨンボヨンと揺れている。
その間にダッシュで近づく。
地面で揺れているスライムに真上から剣を振り下ろすのは外した際の隙が大きくなってしまうので、スライムの丸い身体の中心へ向かって斜めに振り下ろす。
刃は弾力のある表面を捉え、地面と並行になる寸前まで深く斬り裂いた。
切り裂かれたスライムは揺れなくなり、すぐに上部にあった目が溶けるように無くなった。
スライムは死亡すると目が消えるという分かりやすい特徴があるので、無事に倒せたようだ。
倒したスライムをカバンから取り出した袋に入れる。
このスライムはスライムゼリーと呼ばれており、ひんやりして美味しいソーダ風味ゼリーとして、また鍛冶での冷却剤や錬金術での中和剤として使われる。
俺の場合はある程度は食用として持って帰り、それ以外は協会に売る予定だ。
まぁ最弱モンスターなので味は普通の安いゼリーみたいなものらしいし、売っても1体で100円にしかならない。
それでも最初はスライムでレベルを上げつつ、資金稼ぎをするしかない。
とりあえず地面に触れずにきれいな状態のままのスライムゼリーを手掴みですくい取り、口に運ぶ。
うん。小さい時に食べたゼリーって感じだな。舌に感じるひんやり感とラムネの香り。
これにフルーツが入っていていたらもっと美味しいんだけどな。
さて、ゼリーを食べながらどんどんスライムを倒していくぞ。




