44話:夏っぽいこと
女子会が行われた日から4日後の朝。
レベル:2(上限到達)
スキル:消化+、Absorb
【Absorb上限到達】
・マッドベア
・マッドホース
・ゴールドホーン
(他11種を表示▽)
毎朝のルーティンであるステータスの確認をすると、ようやくマッドベアの吸収が上限に到達した。
日々少しずつ力が強くなっているはずだが、その幅は小さいため感じにくい。それでもこうしてステータスに表示されるとちゃんと強くなっていることを実感できる。
さて、今日からはハヤテホースの肉を使ってもらわなきゃな。
「上限到達したんすね、おめでとうっす」
「サンキュー。これでようやくハヤテホースに移れるよ」
「今日のお弁当はハヤテホースっすか?」
「瀬奈に無理言ってハヤテホースに変えてもらったよ。
マッドベアは家族が数日かけて食べてくれるってさ。
あとかおりん用の弁当もマッドベアになってるから」
「私はどっちでも美味しいから問題ないっす!」
屈託のない笑顔で答えるかおりんと共に、俺たちは今日も第8層へと足を踏み入れた。
◇◇◇
「いやー海っすね! 夏っすね!」
次の休日。
かおりんの「夏休みっぽいことしたいっす!」という一声で、俺たちは仙台市の海水浴場に来ていた。
今回は瀬奈の提案で、俺の両親とかおりんの両親も合同でのBBQ大会となった。
かおりんの思い付きから3日後で、よく皆の予定が合ったよな。
「荷物運べよ、かおりん」
「了解っす!」
水着の上にTシャツを羽織ったかおりんが、嬉しそうにクーラーボックスを担いで駆けていく。
瀬奈も麦わら帽子に水着という、普段の調理着とは違う装いで、親同士の話に混じっている。
「祐也、本当にその荷物持ってきたんだね」
「そりゃそうだろ、せっかくのBBQだぞ」
瀬奈はちょっと呆れているが関係ない。俺は持参した保冷バッグを砂浜に置いた。
このバッグの中身は全て俺専用の解体済みのハヤテホースの肉10kg。
事前に瀬奈にお願いして、スキルを使ってスライスして、これまたスキルを使って作られたタレに漬け込んでもらってあるのだ。
どうせ海でやることもないのだから、俺はBBQでひたすら食べることにした。
BBQが始まると、俺はコンロの前に陣取った。
かおりんは海に入ったりして楽しんでいるが、俺はひたすら焼き肉だ。俺の視線は網の上の馬肉だけを捉えている。
ジューッ! と小気味いい音を立てて、ハヤテホースの脂が炭に落ち、香ばしい煙が立ち昇る。
焼き上がった端から口に運んでいく。
うん、旨い。タレもいいな。
「祐也くん、そんなに食べて大丈夫なのかい?」
かおりんのお父さんが、俺の皿に山盛りにされた肉を見て、目を丸くしている。
「ええ、これくらいはいつも通りですから」
俺は淡々と答え、さらに新しい肉を網に乗せた。
一般人には俺の食欲は異常に映るだろう。だが、これが俺の強さの源泉であり日常だ。
「お父さん、心配しなくても祐也さんのこれはいつも通りっすよ。いつでもフードファイトしてるっすから。
はい祐也さん、これ瀬奈ちゃんの新作っす!」
そこにかおりんが、瀬奈が作った料理を持ってきてくれた。
◇◇◇
砂浜に設置された大型のバーベキューコンロ。炭火がパチパチとはぜる音が、私の料理人としての血を滾らせる。
キッチンとは勝手が違うけれど、火力の強さはアウトドアの特権。私は保冷バッグから、ハヤテホースの塊肉を取り出した。
外でしかできない豪快な料理、どんどん作っていこー!
まずは新作一品目、ハヤテホースの串焼き。
ハヤテホースの肩ロースを贅沢な厚切りのサイコロ状にして、パプリカ、玉ねぎと一緒に串に刺していく。そこにクミン、コリアンダー、チリパウダーを調合した特製スパイスをたっぷり。
網に乗せた瞬間、ジューッ! という爆ぜるような音と共に、スパイシーな香りが潮風に乗って周囲に広がる。滴り落ちる脂が炭を叩き、香ばしい煙が肉を燻していく。
強火で表面を一気に焼き固めて、肉汁を閉じ込めて……美味しそう。
続いて二品目、馬肉のスペアリブ風・塊焼き。
骨の周りの旨味が凝縮された部位に、あらかじめハチミツと醤油、たっぷりのニンニクを揉み込んでおいた。これを弱火の端っこでじっくり、じっくりと焼いていく。
表面がキャラメル色に焦げ、脂がブクブクと泡を立て始めたら、仕上げにバーナーで豪快に炙る。
ふふ、いい感じ。
「かおりーん、これ持っていってー」
◇◇◇
旨そうだな。
俺はかおりんから差し出された皿を受け取り、まずは串焼きに食らいついた。
熱々の肉を口に放り込むと、刺激的なスパイスの香りが鼻を抜け、直後にハヤテホースの甘い脂が弾け飛ぶ。噛みしめるたびに、筋肉の繊維が解け、濃い旨味が身体に染み込んでいく。
旨い。このスパイス、馬肉の野性味を上手く引き立ててる。
続いて、スペアリブ。
骨を掴んで豪快にかぶりつく。ん、凄い肉厚だ。
骨に近い部分の筋繊維は強靭だが、瀬奈の絶妙な火入れによって、噛み切る瞬間に最高の肉汁を解放する。ニンニクのパンチとハチミツのコクが、馬肉のポテンシャルを極限まで引き出していた。
瀬奈の料理を食べ終えてから、再び自分の焼き肉に戻る。一枚、また一枚。俺の食べるペースは一向に落ちない。
俺は瀬奈に視線で感謝を伝えながら、ひたすら喰らい続けた。一般人ならとっくに腹がはち切れる量だが、飛騨ダンジョンでの遠征で鍛えられた胃袋はそれをどんどん吸い込んでいく。
「そういえば、うちの両親、お盆はお祖父ちゃん家に帰るんすよね」
「ん? じゃあダンジョンは休みか」
「いや、ダンジョンに行くっす! 1人で残るっす!」
「1人で大丈夫か?」
「うーん。正直不安っすね。毎日女子会で瀬奈ちゃんとお泊りなら不安解消っすけど、迷惑かけすぎっすよね……」
「瀬奈がいいなら、いいんじゃないか?」
「そうだね、ちょっと私の負担が大きいかな」
「なんだ瀬奈、聞いてたのか」
「なんか面白い話になりそうだったからね。
ねぇかおりん。女子会はいいんだけど、うちでやるのは面白くないからダンジョンで女子会しない?」
「ダンジョンで女子会っすか?」
「そう、野営という名のキャンプ女子会」
「おい、瀬奈はダンジョン入れないだろ」
「お母さんに頼んでみるよ。祐也みたいに冒険者をメインにするわけじゃなくて、今回のキャンプだけのために冒険者になるなら許可してくれるでしょ」
「まぁ母さんが許可したらいいけど。でも瀬奈は料理している時以外は暇じゃないか?」
「かおりんにやったのと同じように、私のレベルも上げてよ。
ステータスが上がれば調理スピードが上がるだろうし、肉を切ったりするのも楽になるだろうし。
料理人は体力勝負なところあるから、レベルアップはいいことしかない!」
「瀬奈って今レベルいくつ?」
「3だよ。スキルだけしか使ってないからね。それでも強いモンスターの肉を沢山調理してるから上がり方は早いらしいけど」
「……母さんが許可したらな。防具の他に、盾とナイフでも持っていればレベル上げられるだろ」
「分かった。じゃあお母さんに聞いてくるね」
「私もお父さん達に確認してくるっす」
BBQの次はキャンプか。2人に振り回されて、ちゃんと夏っぽいことしてるな。
「祐也、そろそろ帰るから片付けるわよ」
母さんのストップがかかり、俺の食事はようやく終わりを告げた。
保冷バッグを確認すると、まだ半分近い肉が残っている。10kg完食は、さすがにこの短時間ではキツかったか。
残りは夕飯で食べよ。




