34話:凱仙台
レベル:2(上限到達)
スキル:消化+、Absorb
【Absorb上限到達】
・ゴールドホーン
・ウインドボア
・ロックボア
(他9種を表示▽)
飛騨ダンジョンの第6層に進出してから2週間以上が経過していた。
引き続き、毎日11kg近い肉を食べ続け、肉が足りなくなったら第6層へ狩りに行き、腹ごなしで第4層のモンスターを仕留めて売って稼ぐという日々が続いていたが。
ようやく。ようやく! 第6層の2体共、上限に到達してくれた。
飛騨ダンジョンに来てから1ヶ月が経過していた。
もういいだろう。
第8層も気になるけど、いい加減に実家に帰りたい。
焼き肉とステーキ以外が食べたいし、風呂にもゆっくり入りたい。
当初の目的はミニバイソンのお取り寄せした肉を食べても強化されないという問題を解決することだったが、結局自分で倒す必要があるのか、飛騨ダンジョンの近くで食べる必要があるのか、というのは分からなかった。
まぁ近くで食べるくらいなら自分で倒すからどっちでもいいんだけど。
じゃあ帰るか。
『ゴールドホーンも上限到達したから帰ります
昨日狩ったゴールドホーンの肉が10kg以上余ってるからこれがお土産でいい?』
家族のチャットルームに送ったら、テント類を片付ける。
次に飛騨ダンジョンに来るのはいつになるのかな。
というか来るのか?
第6層までのモンスターは上限到達してるから、次に奥羽ダンジョン以外に行くならまだ上限到達してないダンジョンがいいよな。
近さ的にやっぱり富士山かな。
でもあそこはな……
朝食として少しだけゴールドホーンの肉を食べてからダンジョンの入口に戻ってきた。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺い致します」
「飛騨ダンジョンから離れるのでロッカーのレンタル終了の手続きをお願いします」
「かしこまりました、では冒険者カードの提示をお願いします」
ロッカールームに置いてあった荷物を取り出してから受付で手続きをした。
この1ヶ月ちょいで何回受付に買取をお願いしたんだろうか。
牛も猪も重いから基本1体ずつだったしな。
手続きを終えて、飛騨ダンジョンに来た時と逆のルートで仙台まで帰る。
ダンジョンから白馬駅へ、そこからバスで長野駅、新幹線で大宮経由で仙台へ。
『肉はそれでいいけど、他のものも欲しいなー』
『私は野沢菜が食べたいわね』
『地酒。なんでもいいぞ』
『じゃあ蕎麦がいいかな』
白馬駅へ向かうバスの中で家族チャットを開くとお土産のリクエストが届いていた。
白馬駅の売店で売ってるかな……
無事に駅前のお土産屋で購入できたので一安心。
行きとは違って帰るだけ。
ワクワク感や調べ物も無い俺は、長野までのバスでぐっすりと眠っていた。
バスで十分に寝たので、長野から仙台への新幹線では寝れなかったので、久々に掲示板を覗いてみた。
もう6月中旬だからか、スレッドの進み方が遅くなったな。
飛騨ダンジョンから奥羽ダンジョンに帰ります、っと。
わざわざ言わなくてもいい気がするけど、どこに行った? ってなるよりはいいだろう。
「ただいまー」
やっと帰ってきた。はぁー。まだ玄関だけど落ち着くな。
「おかえりなさい」
「おかえりー。お土産どこー?」
「はいこれ。酒と野沢菜も入ってるから」
「はーい。祐也は明日からしばらく休む感じ?」
「うーん、明日は休むけどそれ以降はまだ決めてないかな。
第6層に早く挑みたいけど」
「そっかー。じゃあ明日空けておいて」
「いいけど何かあるのか?」
「ちょっとね。向こうに聞いてみる」
「待て。向こうってなんだ?」
「さっさと着替えてきなよー」
「おい。まぁ内容によっては断ればいいか」
2階の自室に荷物を置いて、早い時間だが風呂に入った。
飛騨ダンジョンではいつもシャワーだったからな。
ゆっくり長風呂をしてからリビングでのんびりする。
そういや新幹線で書き込んだ掲示板はどうなってるかな。
……何この顔文字。(ヘ・∀・)ヘ、って何?
まぁいいか。
特に答えなきゃいけないようなものも無いし。
◇◇◇
キッチンに鎮座しているゴールドホーンのお肉。
第6層のお肉は肉質がいいな。見ただけでこれまでのモンスターとは格が違うって分かる。赤身には細かなサシも走ってるし。
じゃあ調理に取り掛かろう。
まずは、じっくりと時間をかけるビーフシチューから。
大きめの角切りにしたバラ肉に、軽く塩コショウを振って。
まずはフライパンで表面を焼き固め、旨味を閉じ込める。
そこに赤ワインを注ぎ込み、アルコールを飛ばしてから、事前に用意していた香味野菜と特製のデミグラスソースを入れた鍋へ。
弱火で食べる直前までコトコトと、肉がスプーンで切れるほどトロトロになるまで、じっくりと煮込んでいく。
その間に、次は牛カツ。
ミニバイソンよりも上質な肉だから、余計なことはしない。
ロースを厚切りにして、軽く衣を纏わせて、高温の油に数秒だけ潜らせる。
シュワァァッ! という高く澄んだ揚げ音と共に引き上げ、余熱で火を通していく。
最後は、肉吸い。
一番出汁をベースに、薄くスライスしたゴールドホーンをサッと潜らせるだけ。
味付けはシンプルに塩と薄口醤油だけ。このお肉自体の出汁が一番の調味料だからね。
お椀の中に、透き通った脂がキラキラと輪を描く。仕上げに白髪ネギを添えれば、完成。
◇◇◇
「ご飯だよー」
少し前からいい匂いがしてきていたが、ようやく出来上がったようだ。
テーブルの上を見ると、瀬奈が作ってくれたゴールドホーンを使った料理は今日も3品。
いやー。焼き肉とステーキばかりだったから凄く充実してるように感じる。
実際に充実しているか。
ビーフシチューと牛カツと、これは肉吸いか。
肉吸いは食べたことないな。
では両手を合わせて、
「いただきます」
気になるからまずは肉吸いから。
透き通った出汁に、薄切りのゴールドホーンが贅沢に泳いでいる。
これほど脂の乗った肉を入れているのに、出汁には一点の濁りもない。ただ、黄金の脂の雫がキラキラと美しく浮いているだけだ。
まずはスープを一口。
はぁー、染み渡る。出汁の旨味とゴールドホーンの脂の甘みが染み込んでいく。
肉を口に運ぶと、薄切りにされたことでその滑らかさが強調され、舌の上をスルリと滑り抜けていく。
肉吸いを一杯食べたら一息ついて、次はカツレツ。わさび醤油につけて口へ。
サクッ、という軽快な歯ごたえの後には、レアに仕上げられた中心部のゴールドホーン本来の弾力が待っていた。
そして、衣で密閉され蒸し焼き状態になったことで、肉汁の純度が極限まで高まっている。
噛み締めるたびに、熱い肉汁が口の中で暴れるように噴き出してくる。ワサビの爽やかな刺激が、濃厚な脂の甘みをさらに引き立ててくれる。
最後はビーフシチュー。白飯の上にシチューをワンバウンドさせ、肉ごとスプーンで掻き込む。
軽く噛んだだけで肉がホロリとほどけていく。
あれほど俺を苦しめたゴールドホーンの肉が、瀬奈の手によって、信じられないほど繊細な舌触りに変わっている。
噛むたびに、奥深くへと染み込んだデミグラスのコクと、肉の芯に眠っていた猛烈な旨味が混ざり合って溢れ出してくる。
更にソースに溶け込んだ脂が、全体の味にさらなる深みを与えている。その旨味を吸い込んだ人参や玉ねぎは、噛むと野菜自身の甘みと肉の脂が溶け合い、驚くほど濃厚な味わいに進化していた。
上限に到達しているから沢山食べる必要はないんだけど、手が止まらない。
「どうよ? 久々のちゃんとした料理の味は?」
「控えめに言って最高だな」
「もちろんでしょ、私が作ったんだから」
「ああ。そういや持たされたタレ良かったわ」
「それは良かった」
そこからは会話は控えめで食べ進めていった。
「ごちそうさまでした」
昨日までお腹がはち切れそうなほどの量を食べていたが、今日は余裕がある所で止めた。
また新しい肉を手に入れたら、あれくらいの量を瀬奈に作ってもらわないとな。
「瀬奈、そういえば帰ってきた時に話してた明日の予定って結局何なんだ?」
「ああ、ちょっと待って、スマホ確認するわ。
……よし空いてるね。
あのさ、明日冒険者をやってる友達と会ってくれない?」
「ん? 別にいいけどなんで?」
「その子、休みの日限定で1人で奥羽ダンジョンに潜ってるらしいんだけど、1人だと厳しくなってきたらしくってパーティーを組んでくれる人を探してるの。
それなら祐也がいいかなって思って提案してたんだけどどう?
変なことしないだろうから安心してオススメできるし」
「変なことって。
まぁ会うのはいいけど、その人が俺と組みたいって言うかは分からないぞ?」
「それはそう。会って話してから決めればいいかなって。
じゃあ明日の放課後に連れて来るから家にいてね」
「分かった分かった」
パーティーか。戦闘では困ってないし、ポーターが欲しいんだけどな。
瀬奈の紹介なら変な人ではないんだろうけど、どんな人なんだろう。




