31話:飛騨第4層・猪
朝一からロックバイソンを倒して、ブランチとしてお腹いっぱいになるまで食べるとか忙しい午前中だな。
でもまだまだいけるぞ。
皮や骨を除いて肉にしたことでだいぶ軽くなったロックバイソンを袋に入れてカバンに詰める。
この重さなら持ち運びながら戦闘になっても、すぐにカバンを下ろせば問題ないだろうな。
金稼ぎと腹ごなしを兼ねてモンスターを探していくと、右前方の遠くの方からザッ、ザッ、ザッと硬い音がわずかに響いてきた。
カバンを下ろして剣を構え、右前方に目を凝らす。
岩陰から飛び出してきたのは、頭部にだけ石の兜を被った猪、ロックボアだ。
だが、その個体はこちらに気づいていない。
数百m先を、勢いよく自転車の全力疾走のような速さで右から左へと横切って遠ざかっていった。
こちらに気づかずに通り過ぎることもあるんだな。
だがそう思っているのも束の間。
再び右前方の遠くから、再びザッ、ザッ! という地を踏みしめる音が聞こえてきた。
またしてもロックボアだ。
今度のロックボアは、はっきりとこちらを狙って走ってきているように見える。
ロックボアは点在する岩を避けながら近づき、正面に石の兜で固められた頭部が迫りくる。
俺は剣を構え、バイソンの時と同じように真っ向から受け止めようとした。
ズガーンッ!
30kg近い質量と自転車を超える速度が頭という一点に集中した凄まじい威力だった。
踏ん張りが効かなくなった俺の身体は後方へ弾き飛ばされた。
ヤバっ! と思ったが、数m飛ばされた後、空中で体勢を崩さずにいれたのでなんとか上手く着地した。
さすが猪だな。突進力が半端ない。
ロックボアは上手く着地した俺に向かって、再び突進してくる。
もう一度、今度はさらに腰を落として受け止める。
ガキンッ! と重い音が響くが、やはり押し込まれる。
ロックボアの弾き飛ばそうとする勢いを利用して真横へ転がるように飛び退いた。
真っ向から止めるのは無理そうだな。それなら!
ロックボアはUターンして再度突進してくる。三度目の突進。
俺は剣の腹がボアの石の頭部に当たる瞬間にわずかに角度をつけた。
ガリリッ、と音をたてながらロックボアが俺の脇をすり抜けていく。
上手く受け流せたようだ。
今!
すれ違いざま、ロックボアの脇腹へ渾身の力で剣を叩きつける。
ロックボアは脇腹から出血したが、ロックボアのスピードが速く、刃が深く沈み込む前にすり抜けてしまい、大したダメージにはなっていない。
ロックボアは再び戻ってくる。
バカの一つ覚えみたいに正面から突進してくるな。
突進、受け流し、そしてカウンター。
何度も繰り返すうちに、動きが身体に馴染んで洗練されていく。
最後は、受け流してバランスを崩したボアの首筋へ、全体重を乗せた一撃を深く沈み込ませた。
重い身体が横に倒れていき、直後に石の兜がカランカランと地面に崩れ落ちた。
はぁ。まだまだだな。
更に下層に向かうためにも、もっと技術を磨かないといけないな。
さて、ロックボアも無事に倒したので血抜きをしてから再び階段に持って帰ってきた。
ずっしりとした重みを全身に感じているが、ステータスが強化されているからなんとかなっている。ロックバイソンの肉と合わせると30kg以上あるもんな。
ではお待ちかねの食事タイムだ。
とはいえ、まだあまりお腹が空いてないのでレバーとハツだけいただくことにする。
まずはレバーから。ミニボアの時よりもさらに色が透き通っていて、キレイな紅色のビー玉のような輝きがある。
塩を少しつけて口へ運ぶと、唇に触れた瞬間にその鮮度の良さが伝わってきた。
ミニボアの時のプリッとした感覚がさらに進化している。噛むたびに弾けるような瑞々しさがありながら、その中から溢れ出すのは驚くほど濃密な甘みだ。
クセは全くなく、食べた後に残るのは澄み切った山の湧き水のような、清涼感のある上品な香り。
ロックバイソンがバターなら、このロックボアは果実のようなレバーだなー。
次はハツ。
醤油をつけて、勢いよく噛み締める。
っ! コリッ、を通り越して、もはやパチンッと弾けるような噛み応えだ。
ミニボアの時よりもさらに食感が鋭くなっている。
そして、噛む度に溢れ出す旨味。ミニボアよりもさらに旨味が鋭く、それでいて後を引かない爽やかな味わいだ。
うぅ。まだあまり胃袋の空きスペースができていない。
それは分かっているけど、やっぱり肉も食べてみたい!
レバ刺しとハツ刺しが美味しかったんだから肉も美味しいはず!
我慢できずにロックボアの死体から皮や骨を取り外して肉を切り分けていく。
そうしてキレイになった肉を一口サイズにして、網の上でじっくりと焼き上げて口に頬張る。
ロックバイソンのような箸で切れる柔らかさとは違う。
しっとりとしていて、噛み締めると吸い付くような弾力がある。
だが、一番の驚きは食感ではない。
雑味が一切ない。
普通の猪ならあるはずの獣臭さが、このロックボアには感じられないのだ。
ただただ純粋な赤身の旨味と、サラリと溶けていく甘い脂の香りが口の中に広がっていく。
あぁ、もっと食べられるようにしたいな。
今は1日10kgくらい。消化スキルとAbsorbスキルの効果で普通の大食いの人の倍近く食べられていると思う。
これをもっと増やしたいな。
でも無理すると戦闘にも影響するからな……
夜は寝るだけだし、無理してみるか。
食べ続けていれば胃袋が大きくなるっていうし、スキルの力もあるからこの遠征中は頑張ってみよう!
◇◇◇
レベル:2(上限到達)
スキル:消化+、Absorb
【Absorb上限到達】
・ロックボア
・ロックバイソン
・ミニボア
(他7種を表示▽)
第4層に来てからもうすぐ2週間という所でロックボアが吸収上限に到達した。
ちなみにロックバイソンは昨日到達していた。
頑張って夜に食べる量を増やした結果、2週間経たずに上限に到達した。
ロックバイソンは5体、ロックボアは6体目に手を出し始めた所だった。
ロックバイソンは1体で14kg、ロックボアは12kgの肉がとれると言われているし、合わせて大体130kgを食べた計算になる。
1日10kg食べてた時より1日早く到達したって感じかな。
あと、いつの間にかステータスの表示が変わっていた。
見やすくなって良かったなー。
誰が変えたのかわからないけどありがとう。
さてと。どうしようか。
第6層に挑むか、奥羽ダンジョンに帰るか。
まだ来てから3週間経ってないけど、第6層も挑むとここから更に2週間はかかるよなー。
まぁそもそも第6層のモンスターを倒せるかという問題もある。
でも、奥羽ダンジョンに戻っても第6層に挑むんだから、ここで腕試しというか奥羽ダンジョン第6層のリハーサルをしておくべきかもな。
あと、やっぱり牛は美味しいし。
よし! 行ってみますか!




