2話:登録
「ただいまー、さあ行こうよ」
「おかえりなさい。
行くけど制服のままで行くの? 着替えてきなさい」
「はーい」
帰宅すると卒業式にも参列していた母が迎えてくれた。
親同士の交流とか無いのか? とも思ったりするが、卒業式後に出かけることを伝えていたから早く帰ってきてくれたのだろう。
2階の自分の部屋に入って、クローゼットにかかっているパーカーとジーパンに着替える。
出かけると言っても別におしゃれが必要なわけでは無いし、特別動きやすい格好である必要も無い。
一番楽でいつも通りの服装でいい。
「着替えてきたよ。さっさと行こうよ」
「はいはい。仙台駅でお昼食べるから、協会はその後よ」
「分かってるよ」
卒業式を終えてすぐに帰宅して母と共に仙台駅に向かう。
最寄り駅である荒井駅から地下鉄東西線で15分ほど。
これができる前はバスで仙台駅まで行っていたそうだが、生まれた時から地下鉄があったからバスを使うイメージがわかない。
仙台駅に着いて昼食の牛タンを食べる。
家族で仙台駅に来た時はここと決めている店。
頻繁に来るわけでは無いが、何か大切な時はここでと決まっている。
ランチメニューではあるが、分厚い肉とスパイシーな味付け。テールスープに南蛮味噌漬け。
溢れる肉汁とスパイシーな味付けに、付け合わせの南蛮味噌が最高に合う。
そして、どれもが麦ごはんが進む味付けになっている。
ご飯はおかわりもして満腹になった。
ランチで気合を入れた後、目的地であるダンジョン協会東北支部にやってきた。
東北支部は仙台駅前、ペデストリアンデッキに直結している高層ビルであり、地下鉄からも地下道で繋がっている。
建てられたのはダンジョンができるより前だが、ダンジョンができて協会がここに置かれてからはダンジョンビルと呼ばれるようになっていた。
建物に入り、ダンジョン協会のある20階に向かう。
普段こんな高層ビルに入ることが無いからなのか、ダンジョン協会に向かっているからなのか、ワクワクが止まらない。
エレベーターのドアが開き、フロアに降り立つと右手に冒険者登録受付、という案内を見つけたのでそちらに進んでいく。
「いらっしゃいませ。来訪目的を選んで下さい」
自動音声による案内に従ってタッチパネルを操作する。
ITやAIの発達により、役所に出向いて手続きをする機会は大きく減ったが、冒険者登録は色々と確認事項があるため対面での手続きが必須となっている。
そもそも中学生だったのだから役所に行く機会も無かったけど。
記入事項を記載して、最後に受付の機械にマイナンバーカードをかざして、全ての操作が終わった。
「受付番号をお取りになり、フロア内でお待ち下さい」
出てきた受付番号を手にして、近くにあるソファに座って待つ。
暇なのでダンジョン協会の様子をその場で見渡すが、キレイなオフィスって感じだ。
普通の会社だと言われても違和感が無い。
ダンジョン協会だから、もっと強そうな人がいたり、モンスターの素材があったりするのかと思っていたが、そうではないみたいだ。
それなら見ていても面白くないから、いつも通りダンジョンのことを考える。
全国各地、いや世界各地に発生したダンジョン。
そのダンジョンの1つが東北にある奥羽ダンジョン。
ダンジョンができる直前の地震は、奥羽山脈の各地が震源となっていた。
北は青森から、南は福島まで。
その結果現れたダンジョンの入口も青森から福島まで各地にある。
その入口のうち、我が家から一番近いのが仙台市作並。
仙山線作並駅から歩いていける所にあるらしい。
その影響で作並は温泉地からダンジョンの街に大きく変貌した。
ダンジョン協会の支店もあるし、冒険者向けの宿や武器を売る店もある。
仙山線はダンジョン需要で本数が増えたそうだ。
作並以外だと、奥羽ダンジョンの入口は八甲田、岩手山、田沢湖、山形蔵王、宮城蔵王、裏磐梯にある。
これ以外にも入口はあるが、行きにくい場所にあったりするため、協会の方で入口は封鎖されていて、資格の無いものは入れないようにして、入ダン管理はしっかりされている。
ダンジョンは今や、国家レベルの管理資源となっているのだ。
そして、それぞれの入口は全てダンジョンの中で1つの階層に繋がっている。
だからこれだけ入口があっても1つのダンジョン、奥羽ダンジョンと呼ばれている。
奥羽ダンジョンの他には、北海道ダンジョン、富士山ダンジョン、中部地方の飛騨ダンジョン、関西の紀伊ダンジョン、九州の九州ダンジョンの5つが日本にはある。
それぞれ主に大きな山脈に沿った形で入口が分布していることからそう呼ばれている。
日本では山脈に沿った形だが、海外だと色々らしい。
日本と同じ山脈だったり、川に沿っていたり、海岸線に沿っていたり、海中にある所もあるらしい。
「受付番号15番の方ー、右奥の会議室へお越し下さい」
「祐也、15番でしょ。行くわよ」
母に声を掛けられて呼ばれたことに気づく。
先に進む母の後を追って、会議室があると思われる右奥に進んでいく。
「お待たせしました。どうぞおかけ下さい」
奥には1つだけドアがあり、開けて中に入ると待ち構えていたスーツ姿の男性に座るように勧められた。
母はすぐに座ったので俺も座る。
「ダンジョン協会東北支部の伊達と申します。
冒険者登録に際して、いくつか確認事項がございますのでお答えください」
伊達さん。伊達政宗の伊達家と関係あるんだろうか。
「まず伊藤祐也さんは未成年ですので親御さんの承認が必要となります。
そちらがお母様でしょうか。身分証明書を確認させてください」
日本において、未成年者が冒険者になる場合は親やそれに準じる人の承認が必要となっている。
だから、今日は母についてきてもらったのだ。
「確認しましたのでお返しします。
お母様は祐也さんが冒険者になることに賛成ということでよいでしょうか」
「はい、この子がやりたいことなら応援します。
夫も同じ意見になります」
「分かりました。
これは私個人の質問ですが、子供がやりたいことでも危険な冒険者になるというのは心配ではないのでしょうか。できることなら辞めて欲しいという思いは無いのでしょうか」
「心配をしていないわけではありません。
冒険者になりたいと言われた時から、冒険者となった後の活動を考えて行動するように、それができなければ承認しないと言い続けています。
その結果として、中学の部活では剣道部に入り、しっかりと実力をつけています。
戦闘技術以外でも体力づくりのためのランニングを欠かさずにやっています。
そのように自分の想いが口だけではないことを証明し続けさせました。
そこまでの強い想いを持ち続け、死ぬことの無いように準備をさせることはできました。
あとは親として子供のやりたいことを後押ししてあげることが私たちにできることだと思っています。
伊達さんがどこの出身かは分かりませんが、私たち夫婦はあの震災で両親を亡くしました。あの日、当たり前だった日常が一瞬で消えるのを経験したんです。だから、人の命は儚いもので、いつあっという間に亡くなるか分からないということを実感しています。
だからこそ、やりたいことがあるなら心ゆくまでやりきれ、ということを子供たちには言い続けてきました。
そのやりたいことがあるというなら、親はそれを最大限サポートするのみです。
無事に帰ってきてくれるのを信じています」
「分かりました。ご丁寧にありがとうございます」
母の言葉を、両親の想いをここまでちゃんと聞くのは初めてだった。
ただの放任主義だと思っていたけど、違ったんだな。
やりたいことがあるなら心ゆくまでやりきれ。
冒険者となった後の活動を考えて行動するようにしろ、それができなければ承認しない。
この2つは何度言われたか分からない。
両親の想いに応えたい。
冒険者としてダンジョンを最下層まで行くだけではダメだ。
絶対に生きて帰ってこなくちゃいけない。
もちろん治せる範囲までのケガに抑えた上で、だ。
「では冒険者カードをこれから発行してきますので、しばらくお待ち下さい」
確認事項って母だけなのか。
成人していたら受付での申請だけで終わるってことかな。
まぁ犯罪歴が無ければ冒険者になれるって話だしな。
悠斗が冒険者は危ない人が多いって言ってたけど、それは戦闘力の高い人が多いからって話だし、軽犯罪でも犯せば冒険者資格は剥奪だから、余程の人じゃない限り他の冒険者を危険に晒すことはない。
それでも0じゃなくて、毎月何人か剥奪された、逮捕されたってニュースで見るけど。
学力が無くても貧乏でもなれるから一攫千金を狙って冒険者になったはいいけど、生活が苦しくて犯罪に手を染めるって人はいる。
まぁ冒険者も含めて、ダンジョンでは油断禁物ってことだな。
「お待たせしました。こちらが冒険者カードになります。
ダンジョンの入口でこれをかざすと入れるようになっているので無くさないで下さい。
無くした場合はすぐにダンジョン協会に連絡して下さい。
あと、こちらが冒険者の心得です。ダンジョンについて分かっていることをまとめたものなので一読して下さい。
また、冒険者資格の剥奪される条件も記載していますので、お気をつけ下さい。
では頑張ってください」
渡された冒険者カードを手にして、明日からのダンジョンが楽しみでニヤケ顔が止まらなくなった。
「ほら、まだ用事はあるんだから次に行くわよ」




