16話:山林エリア
第2層に進出した翌日からも第2層でミニポニーを2体仕留めて売る、昼食を食べる、2体仕留めて売る、という流れでお金を稼いでいく。
2日目からは魔石の入った心臓も一緒に売ったが、ミニポニーの魔石は1つ400円だった。
ダンジョンネズミの2倍であり、大きさも倍くらいだったので価格は大きさに大体連動しているのだろうか。
そして一番重要なAbsorbスキルの効果については、ダンジョンネズミの肉を食べた翌日ほど分かりやすくは感じないけど、少しずつミニポニーの肉を持って帰るのが楽になっている。
筋肉が付いている可能性もあるから気のせいかもしれないけど。
その効果もあるが1日でも早く上限に到達させたいから、ミニポニーの肉は2日目からは昼食の弁当にも入れてもらうようにした。
その結果、1日で食べる量は増えて1日で1.4kgほど食べるようになった。
そして、この間の休みから5日連続でダンジョンに行った翌日は休みにしたので、ステータスの確認のためにランニングとジムで測定をした。
結果、ランニングは37分25秒、ベンチプレス60.0kg、デッドリフ110.0kg、レッグプレス175kg、アブドミナルクランチ41.25kgだった。ランニングは10秒早くなり、デッドリフトとレッグプレスが1つ重くなったが、ベンチプレスとアブドミナルクランチは変わらなかった。
うーん。この調べ方だとダメなのかな。
でもこれしか無いからな。まぁいいか。
そんな日々を過ごして1週間が経過した。
3月末。明日からは4月か。
仙台でも今週末から桜が咲き始めるだろうというニュースがTVで流れていた翌日。
目を覚ましたら、いつものようにステータスを確認する。
モンスターを吸収できる上限に到達する時間が分からないから、寝ている間に到達していないかを確認するのが朝のルーティンになっている。
レベル:2(上限到達)
スキル:消化+、Absorb(上限到達:ミニポニー、ダンジョンネズミ、スライム)
いつも通りかー。いつになったら上限に到達するかな。
さて、着替えて走りに行くか。
……
「ステータス・オープン!」
レベル:2(上限到達)
スキル:消化+、Absorb(上限到達:ミニポニー、ダンジョンネズミ、スライム)
増えてるじゃん! 危なっ!
どうせ増えてないだろうなって思っていたから適当に流してたわ。
2体分を食べ終わっても変わらなかったら他の内臓も食べて、追加で1体持って帰ってこようと思っていたけど、ここで上限到達か。
まず、内臓はレバーとハツでいいと分かった。
どっちが鍵なのか、栄養素としてはレバーの方が可能性は高いけど、ハツというか一緒に食べた魔石が気になるんだよな。魔石が俺の腹の中でどう吸収されているのか。
でもミニポニーの大きさなら両方食べても全然問題ないし、魔石以外は売れないから、しばらくは両方食べる形でいいかな。美味しいし。
そして肉については昨日までで初日は1kg、次の日からは1.4kgくらいだから、累計で11kgくらいを食べたはずだ。
うーん。まぁ2体分までは食べなくてOKってことかな。
瀬奈のスキルの効果もあるだろうし、正確な所は分からないけど、瀬奈のスキル込みで2体食べれば確実に到達って所だろうな。
うっし! 今日からはミニポニーじゃなくてもう1体の方を狩って持って帰ってくるぞ!
そしていつも通りやってきた奥羽ダンジョン第2層。
いつもはここでミニポニーを探しに行く所だが、今日は少し遠いが山林エリアに生息しているもう1種類のモンスターを探しに行く。
奥羽ダンジョンに限らず、全てのダンジョンは各階層にスライムとダンジョンネズミ以外に2種類ずつのモンスターが生息しているそうだ。
稼ぐだけならミニポニーでいいんだけど、ステータスを上げるには全種類のモンスターを食べなきゃだからな。
山林エリアは結構遠いのでそこそこのスピードで走っていく。
第2層の入口から見えた、一番近そうな山林まで走っても30分ほどかかった。
途中で遠くにミニポニーも見えたけど、今日はスルーだ。
山林には着いたが、目的のモンスターは見つからない。
山林に生息しているとは分かっているが、外から見えるほどの浅瀬にはいないのか。
ここからは歩いて山林の奥に進んでいく。
草原とは違って、山林は視界が悪い。
しかもダンジョン外の山林とは異なって、風に吹かれて木の葉が鳴る音以外の音が聞こえてこない。
鳥のさえずりも、虫の羽音もない。風が枝を揺らす音だけが響く静寂は、草原とは比べものにならないほど不気味だ。
とはいえ、生息しているのはスライムかダンジョンネズミかターゲットか。
危険なモンスターはターゲットだけなので、どんどん進んでターゲットを探していく。
山林に入って15分ほど歩いて、ようやくターゲットを発見した。
ターゲットは地面に顔を近づけてぐちゃぐちゃと音を立てているので、おそらくダンジョンネズミを食べているのだろう。
ゆっくりと近づいていくとターゲットの全体像が見えてきた。
調べた通りの見た目。
体長60cmほどの小さな熊、ミニベアが食事中だった。
顔とか体型とかアニメに出てきそうな見た目なのに、ダンジョンネズミを貪り食う様は違和感しかない。
どれだけ可愛くても、お前を倒して食させてもらうよ。
同じ階層のモンスターは大体同じくらいの強さだと言われているので、ミニポニーを倒せたからミニベアに苦戦することは無いだろう。
剣を鞘から抜いて、食事中のミニベアに向かって駆け出す。
すぐにミニベアはこちらに気づき、食事を中断した。
こちらに向けた顔は、ダンジョンネズミの血で真っ赤に染まっており、恐ろしいはずなのに可愛らしい見た目とのミスマッチが不気味さを醸し出している。
顔を向けてこちらを確認したらすぐにミニベアもこちらに向かって四足で駆けてくる。
真っ直ぐに向かってくるので、俺は立ち止まり、いつでも一撃を与えられるように準備をする。
ミニベアの大きさも考慮して、剣先を低く下げ、地を這うような下段の構えを取る。
こちらの構えには関係なく、ミニベアが低い姿勢のまま突っ込み、俺の間合いに入る直前で上半身を持ち上げ、両手の爪を振り下ろしてきた。
それに対して俺の狙いはその爪。地面から剣を跳ね上げ、ミニベアの爪を斬り上げる。
下からの鋭い斬り上げがミニベアの爪とぶつかり、ミニベアの腕は大きく上へと弾かれた。
姿勢を崩し、無防備な腹を晒すミニベアへ、斬り上げた勢いを活かしてミニベアの胸部を目掛けて振り下ろした。
重力と遠心力を乗せた一撃は、上段から吸い込まれるようにミニベアへと叩きつけられ、その一撃を受けたミニベアからは大量の血が溢れ出した。
すぐさまミニベアから距離を取るが、ミニベアはその場で顔面から倒れ、再度動き出すことは無かった。
第2層は問題ないな。ミニポニーを上限まで吸収したこともあってステータスが上がっているんだろう。
首を切り落とし、ミニポニーと同じようにジャイアントスイングで血抜きをする。
血抜きを終えてから内臓を取り出す。
内臓の中から肝臓と心臓だけは別にして、カセットコンロで焼いて食べていく。
そうそう、レバーのこの濃厚なコク。新鮮だから全然臭みは無くて食べやすい。
ハツもザクザクと小気味よい歯ごたえと、噛み締めるたびに溢れ出す澄んだ血の旨味が良い。
この歯ごたえの中には魔石も含まれていたんだろうか。
そんなことを考えている間に食べ終えたので、肉を袋に詰めていく。
ミニポニーよりも軽いから3体は持っていけそうかな。
その後も山林でミニベアを探しては仕留め、合計3体を袋に詰めた所でダンジョン入口に戻っていく。
3体を持っている最中に戦闘になってもそれを足元に置けば普通に戦えるが、持って帰れないので戦闘は避けて進んでいく。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺い致します」
「素材の買取をお願いします」
いつも通り、袋に入れた肉を渡していく。
「ミニベアの個体1体分で1,700円、爪が3体分で1,500円、合計3,200円から税金を引いて2,560円になります。
魔石はございませんがよろしいでしょうか?」
「問題ないです」
「かしこまりました。受け取り方法はいかがされますか?」
「冒険者カードに入れておいて下さい」
受付での買取にも慣れてきたな。
2体分の肉は一旦ロッカールームに併設されている冷蔵ブースに預けておいて、昼食休憩を挟んで、午後からは稼ぐためにミニポニーを狙おう。
その前に瀬奈に、ミニベア2体持って帰るから調理よろしく、今日から俺のはミニポニーじゃなくてミニベアで作って、っと。
これで夕食からミニベアが食べられるだろうな。
「ただいまー。瀬奈、外の洗い場に置いてあるから頼むなー」
「はーい。ミニポニーより小さいよねー?」
「小さいぞー」
「オッケー」
玄関にいる俺、リビングにいる瀬奈と遠距離で会話しているから声を張らないといけない。
リビングから出てきてこいよ。
◇◇◇
いつものように解体用のナイフを手に外に向かった。
そこには祐也が持ってきたミニベアが待っていた。
うん、ミニベアはミニポニーより小さいから簡単そう。
何度もミニポニーを解体していたから慣れていたが、毛皮が硬くて少し手間取ったけど、ちゃんとお肉になった。
それじゃあ調理していきますか。
まずは煮込みに時間のかかる熊汁から取り掛かろう。
脂身の付いた部位を、厚めの銀杏切りにする。熊の脂は、他の動物にはない独特の甘みがあるから、これは絶対に入れなきゃね。
大根、人参、ごぼうも銀杏切りにして熊肉と一緒に鍋へ放り込む。出汁と一緒に火にかける。
熊肉はアクが強いから丁寧にアクを掬い取り、肉が柔らかくなるまでじっくりコトコト。仕上げに味噌をたっぷり溶き入れ、最後にたっぷりの刻みネギを散らして完成。
うーん、いい香り。脂が浮いた汁は、見るからに元気が出そう。
熊汁を煮込んでいる間に、次は竜田揚げ。
少し歯ごたえのある部位を、薄めにスライスしてボウルへ。醤油、酒、多めのすりおろし生姜を入れ、しっかり揉み込んで片栗粉をたっぷりと。
高温の油に投入すると、シュワァァッ! と威勢のいい音が響く。
二度揚げしてカリッと仕上げるのがコツ。揚がったそばから生姜と醤油の香ばしい匂いが弾けて、つまみ食いしちゃった。うん! いい感じ!
最後は、一番柔らかいお尻の肉、ランプを使ったステーキ。
熊肉のステーキは火入れが難しい。焼きすぎると硬くなるし、生すぎてもいけない。
フライパンを熱し、熊の脂を溶かして、ニンニクの香りを移す。
塩コショウを振った厚切り肉を投入! 重厚なジュゥゥゥッ! という音が、キッチンに響き渡る。
表面をカリッと焼いたら、すぐにアルミホイルで包んで、さらにタオルにくるんで肉汁を落ち着かせる。
今日もいい感じかな。
◇◇◇
「お母さんと私はこっちね。
祐也用はミニベアを使った、ステーキと竜田揚げと熊汁だよ。
ステーキならすぐに追加できるけど、他はおかわり無しで。
むしろ熊汁はちゃんと全部食べきってね」
「おお! いただきます!」
テーブルに置かれた3つのミニベア料理。
まずはミニベアのステーキ。ガーリックチップが乗っていて、ガーリックと醤油の香ばしい匂いが漂ってくる。
ナイフで一口サイズに切り分けて厚切りの赤身を口へ運ぶと、噛むほどに濃い旨味が溢れてくる。そこにガツンと効いたガーリック醤油ソースが絡んで、白米が止まらない!
次は竜田揚げ。箸で持っただけで分かる衣のサクサク感。齧り付くと衣のサクサクとは違って、中は驚くほどジューシーだ。揚げたことで肉の旨味がギュッと閉じ込められている。次は添えられたおろしポン酢を付けて食う。脂の重さとポン酢の軽さ。この対比でいくらでも食べられそうだ。
半分ほどを食べて、次の熊汁へ。
汁の表面に浮いた脂を一口啜る。
……見た目はただの豚汁に近いが、コクの深さが段違いだ。野性味のある肉の香りが味噌の香ばしさと合わさって、鼻を抜ける感覚がたまらない。ゴロゴロ入った大根やゴボウもその旨味をこれでもかと吸い込んでいて、白米の組み合わせは最強なんじゃないか。
その後も食べ続け、竜田揚げと熊汁は完食、ステーキは2枚食べて、今日も肉だけで1kg食べていたそうだ。
それでも翌朝にはお腹が空くって、スキルがすごいのか、俺の元々のポテンシャルがすごいのか。




