113話:GWのレベル上げ
「レベル75になったっすー! あっ」
4月下旬から、かおりんとの活動は19層から23層へと移っていた。
バイブレーションベアの地震に巻き込まれないように、俺が先に飛び出して敵の地震を誘導して、地震が起きてからその範囲外を通ってかおりんも近づき、とどめを刺す直前に一撃を入れてもらう。俺がスムーズに無力化できれば問題なく、かおりんが危ない目に会う事も無かった。
もし地震に巻き込まれても、かおりんが持っている不倒スキルの効果でバランスを崩す事がなく、地割れにだけ気をつければ大丈夫だった。俺が不倒スキルの事を忘れていたので、思い出していたらもう少し早く23層に連れてきていたかもしれない。
たった4層分しか違わないが経験値の差は大きいようで、レベルが上がるのに19層では6日近くかかっていたのが23層では2日に短縮され、そしてゴールデンウィーク前半である4月29日の祝日。
ついにかおりんのレベルが75になった。
「おめでと。スキルも手に入ったか? 何だった?」
「『解体』っす……」
解体か。文字通り解体作業の効率を大幅に上げるスキルであり、うちのパーティーでは俺が倒したモンスターをかおりんが解体して持ち運ぶという役割分担でやっているから、それにマッチしているスキルと言えるだろう。
俺が解体してもいいんだけど、解体中にモンスターがやってこないとは限らない。だから自然と俺が見張り、かおりんが解体をするようになっていた。
これまでのかおりんの行動が獲得スキルに影響してるんだろうな。投擲もそうだったし。
「いつも解体してくれてるし、役に立つスキルで良かったな」
「そういう意味では良かったっすけど、私も祐也さんみたいな珍しくて強いスキルが欲しいっす」
「強いスキルって、かおりん戦いたいの?」
「ガンガン戦いたいってわけじゃないっすけど……万が一の時に自分の身をちゃんと守れるようになりたいっす。今回も20層、21層は私はスルーだったっすけど、そこも祐也さんが私の安全性を過剰に気にせずにレベル上げに使えるようなくらいにはなりたいっす」
かおりんの言いたい事は分かる。身を守れるスキルが手に入れば、俺ももっと安心して戦えるからな。
「じゃあ、頑張って次のスキルを獲得できるであろうレベル100まで上げないとな」
「レベル100はキリがいいからか、良いスキルが手に入りやすいって聞くっすね」
良いスキルか。まぁ、かおりんが戦えるようになるスキルを手に入れたとしても、今と同じように戦闘にはあまり参加させるつもりはないんだけどな。
「じゃあ早速解体スキルを使って、手早く解体して売りに行くっすよ」
レベル上げだけしていたいけど、しっかりと稼いでおかないとな。バイブレーションベア1体で50万近いんだから。
「祐也!」
世間はゴールデンウィーク後半へと突入していた。世間が連休に浮かれている最中でも、俺は変わらずにダンジョンへと通っている。
その奥羽ダンジョンへと向かう仙台駅。仙山線ホームの先頭車両の乗車口で電車を待っていると、聞き馴染みのあるあいつの声が聞こえてきた。
「おう、悠斗。部員たちも揃ってるみたいだな」
今日はトレーニングマシンを作ってもらった対価としてのレベル上げをする日だ。
悠斗と一緒にホームに現れたのが他の鍛冶部の部員たち。マシンを設置した時にも見た顔だな。
「2人は途中駅で乗ってくるけど、既に駅には着いてるって連絡があったから問題ないぞ」
ん? 本当だ、8人しかいない。後は悠斗と顧問の先生だ。人数を数えていると、その先生がこちらに近づいてきた。
「今日はよろしくお願いします。こちらの申し出にお答えいただきありがとうございます」
「いえ、こちらからお願いしてトレーニングマシンを製作していただいた対価ですし、ちゃんと金額も対価も問題ない事を協会にも確認してますので気にしないで下さい」
マシンの製作費用は100万円と提示された。素材は既に大量に提供している魔導鋼とかを使っていて、それは別での製作費用での金額だ。
設計は春休み前に出来上がり、製作作業自体は春休み中だけで終わっていたし、時間あたりの単価を3,000円、10人で10日くらい、1日4時間くらいだとしたらこれくらいの金額だろうから、その金額で了承した。
一方で伊達さんにレベル上げビジネスの状況と相場を確認した所、1日6時間稼働で階層×10万円くらいが相場になりそうと言っていた。
どういう計算でその相場になるんだか正直よく分からないが、それなら13層なら130万円くらいとなる。
マシンの製作費用100万円より少し高いが、レベル上げで稼いでいるわけじゃないし、今回は友達価格という事で問題ないと確認済みだ。
すぐにホームに電車がやってきたので乗り込んで仙台入口へと向かう。途中駅でかおりんと残りの2人の部員も乗ってきて、最終的には14人で仙台入口へとやってきた。
「おい、あれフードファイターだよな?」
「その周りの人たちは何だ? 学生っぽいけど」
「配信で見た鍛冶師の男子もいるわね」
「あっちは配信には出ないけど、ここでよく見かけるポーター女子だよな」
着替え終えて受付近くで待っていると、徐々に部員たちも集まってくる。
そして、その周りにいる冒険者たちは珍しくこちらをチラチラと見てくる。普段は俺と目が合っても軽く挨拶するくらいなんだけどな。
まぁこの状態が珍しいからか。
「全員揃いましたね。では、伊藤さんよろしくお願いします」
「はい。それじゃあ行きましょう。時間がもったいないので走ってついてきて下さい。遅れても13層で待ってますから、心配しないで下さい」
協会の建物を出て、ダンジョンへと入っていく。俺も走るが、悠斗のレベル上げをする時よりもゆっくりとしたスピードで進んでいく。それでも2人ほどは途中で脱落して離れていきそうになる。
「悠斗、あの最後尾の2人を抱えてもいいか?」
「いいけど、女子の方は香織ちゃんに抱えさせろよ」
「確かに。かおりん、頼める?」
「オッケーっす」
「じゃあ悠斗が先頭で13層まで進んでくれ」
「おう」
すぐに俺とかおりんは方向転換をして、遅れだしていた2人の元へと向かう。そして、すぐに背中におぶって悠斗たちを追いかけていく。
「ここが13層……」
「動画で見たことはあったけど、本当に渓谷なんだ」
「だ、大丈夫かな」
「ハァハァ、キツイ……」
「3年生は余裕あるな……」
「レベル差かな……」
13層へと到着した一行。2年生はここまで来るだけで疲れているが、まぁ問題はない。
「早速やっていくぞ。まず悠斗が見本を見せるから、その後3年生からやっていく。電車の中で説明した通り、俺が指示した場所へ石を投げるだけだ。離れすぎないように動いてくれ。最後尾にかおりんがいるから、何かあったら彼女を頼ってくれ。
それじゃあ出発だ」
まだ息が乱れている2年生もクラッグベアを探す間は歩きだし、先に3年生がやるからその間に体力も回復するだろう。
歩き始めると、部員たちは13層という自分たちの適正レベルを大きく越えた階層に緊張した面持ちとなる。
久々の13層ではあるが、ここでのレベル上げは飽きるほどやってきた。多少のブランクはあっても、何の支障もない。万が一も起こらない。
「おっ、いたぞ、悠斗」
「ん? あぁ、あれか。俺もすぐに見つけられるようになったなー、久々だけど勘は鈍ってないなっと!」
話しながら手にしていた石を次々に投げていく。
ズズズッ
石が次々にクラッグベアへと当たると、すぐにクラッグベアが動き出した。それを確認した俺は、剣を抜きながら一気に駆けていき、近づいた所で一刀両断して倒す。
「こんな感じだ。遠距離から安全に石を投げればいいだけだからな」
そう言いながら後ろを振り向くと、あまりの圧倒的な瞬殺劇に言葉を失い、ポカンと間抜けな表情で固まってしまった部員たちと先生の姿があった。
反応無し。まぁ近くにモンスターはいないし、そのままでもいいか。
「かおりん、解体頼んだ」
「はいっすー」
念のため周囲を警戒しながら、かおりんが解体スキルの効果もあって、今まで以上に素早く解体を終える。
「それじゃあ、まずは3年生からやっていくぞ。モンスターはすぐに見つかるし、焦らないでいいから、しっかり狙って投げてくれ」
「そんじゃ、頑張れ副部長」
「お、おうっ」
悠斗に話しかけられて、ようやく部員たちが現実に戻って動き出した。それぞれが足元にある石を拾っていく。
全員最低でも1レベルは上がると思うけど、どこまで上がるかな。
「よーし、時間だから帰るぞ」
昼休憩も挟みながら夕方まで13層でのレベル上げを続けていた。
結果として、レベル8くらいだった3年生たちは3つ、レベル5くらいだった2年生たちは4つレベルが上がっていた。
「私も上げていただいてありがとうございます」
「いえいえ。時間が微妙で、数人だけがもう1戦すると不公平になりそうだったので」
時間が中途半端に余っていたので、最後に先生のレベルも上げてあげた。実は先生が一番レベルが低かったため、たった2戦だけだったがレベルが3つも上がっていた。
「皆レベルが上がって身体能力が上がってるだろうから、力加減とか少し気をつけるようにな」
「「「はいっ!」」」
すっかり俺の言葉を素直に聞くようになってしまった。別に偉いわけじゃないし、こっちもトレーニングマシンでお世話になったからお互い様なんだけどな。
「そういや、これからは年一でこれをやるんだよな」
外へと向かいながら悠斗から聞かれた。
「その予定だぞ。マシンの定期的なメンテナンスと改修、重りの追加とかを適宜お願いするからな。年に1日なら全然問題ない」
「まぁそれならいいけど、次回からは人数増えるからよろしくな」
「1年生の部員が多いんだっけ?」
「そうなんだよな。嬉しい悲鳴だが、1年生は倍の10人だから。祐也のマシンのメンテナンスをしていて、レベル上げを受けられると知ったら来年はもっと増えるかもしれない」
「部員が増えても2日間に増やしたりはしないから大丈夫だ」
「そうだな。それに普段から真面目に部活に参加してない奴は連れてこないようにするって先生も言ってるから大丈夫だろ」
このレベル上げが毎年の恒例イベントとして続いていったら、この鍛冶部は名門鍛冶部になっていくんだろうか。普通の県立高校なのにな。
ダンジョンから外に出て後は帰るだけ。
そう思っていたけど、着替え終えた部員たちはそのままトレーニングマシンへと向かっていき、不具合やボルトの緩みが無いか点検し始めた。
こういう真面目な部員たちが今後も所属していれば、本当に名門鍛冶部になるかもな。




