112話:逃げる震源地
奥羽ダンジョン仙台入口の協会受付ロビーに、俺のオーダーした特製トレーニングマシンが設置されてから2週間が経った。
あのマシンは事前の取り決め通り、誰でも使う事ができるものとしてロビーの一角に鎮座し続けている。受付に肉を売りに行く度に確認しているが、いつ見ても大体どれか1つは使われている状態が続いていた。
なお、あくまでも自身の力量を計測する事が目的であるため、1人で長時間使う事はNGとされている。それでもダンジョンに潜る前のウォーミングアップとして使う人がいたり、潜った後に限界を試したりレベルが上がった効果を量ったり、それとは関係なく休みの日にトレーニングとしてきたり、色々な人が使っているようだ。
ちなみに、未だに俺以外でレッグプレスで900kgを上げる人はいないそうだ。たまに冒険者じゃなさそうな人も挑戦してすぐに去っていくらしい。そのためだけにわざわざ仙台市中心部から遠いここまで来たんだろうか。
「こんにちは、今日も配信やっていくぞ」
:タイトル!
:配信タイトルはマジ?
:23層進出と聞いて見に来た
:↑いつもコメント欄で見かける名前だが?ww
:22層と23層の違いが分からない
そして、22層での戦闘に慣れてきた俺は、23層に足を踏み入れていた。
「ちなみに今回は初見じゃないからな。昨日の配信後にちゃんと下見してあるぞ」
22層に初めて進出した時に配信をした際、初見での配信は止めてくれって伊達さんに言われたんだよ。だから昨日ちゃんと下見をしておいた。
:初見じゃないなら
:いや、半日やないかーい!
:半日やってれば初見じゃない
:間違ってないけど、普通はしない
:やっぱりこの人おかしいって
「まぁ戦う前に昼飯だ。あと、22層ではバイブレーションベアとの戦闘ばかり配信で見せてきたから、今日はクエイクスティードとの戦闘を見せるぞ」
今日も弁当はロバストグリズリーの肉をたっぷり使ったものだな。
:新しい階層に加えて新しいモンスターとの戦闘かよ
:片方ずつ出してくれませんかね?
:どうして同時に……
:予告でお腹いっぱい
:美味しそうな弁当でお腹いっぱい
:クエイクスティードの戦闘が全然無いと思ってたけどわざとだったの?
:バイブレーションベアとクエイクスティードって似たモンスターなんだよね?
:どっちが戦いやすいんだろうか
「よし。食べ終わったし、クエイクスティードを探しに行こうか」
いつものように昼食中に質問返しをしていたが、食べ終えたので腰を上げ、クエイクスティードの生息しているエリアへと向かおう。
弁当をカバンに仕舞って、入口から見て右奥へと向かっていく。
:今までは左奥にしか進んでなかったんだっけ?
:言われてみればそうかも?
:なんでバイブレーションベアばかりなんだろうとは思ってたけど、何か理由あるの?
:どっちが戦いやすかったですか?
周囲を警戒しつつ進みながらも、流れていく質問を拾っていく。
「バイブレーションベアばっかりだった理由は、バイブレーションベアの方が強そうだったからかな。あくまでも協会にある情報ベースだけど。それでベアを倒せればクエイクスティードは倒せるだろうし、あとはレベル上げをするならバイブレーションベアの方が良さそうに思ったからだな」
:ベアの方が強そうなの?
:まぁ普通に考えたら熊より馬が強いって事は無さそうかな?
:そこはモンスターだから関係無さそうだけど……
:レベル上げの事を考えてるのね
:レベル上げってあのパーティーメンバーのだよな?
:えっと……鍛冶師と調理師を22層に連れてくるつもりなの?
:最前線でレベル上げっすか……
:羨ましいような、ご愁傷さまなような……
なんでご愁傷さまなんだよ。より早くレベル上がるんだからいいじゃん。
コメントに対して反応したり、心の中でツッコミを入れたりしながらも、23層のゴツゴツとした岩山を進んでいく。
22層までと同じように岩場から顔を覗かせて、反対側を確認していく。
おっ、見ーつけた。
:馬だ!
:見た目は普通?
:デブリシューターと同じくらいの大きさかな
:こいつも地震を起こしてくるんだよね?
:22層、23層はじめんタイプのモンスターか
配信画面にもモンスターの姿が映ったようだ。
コメントの通り、見た感じはデブリシューターと変わらない感じ。でも周りに浮いている小岩は無い。
デブリシューターとは違って隠れていても意味がないので、素早く岩陰から飛び出して、クエイクスティードへと向かって駆け出す。
俺に気づいたクエイクスティードは、鋭い嘶きを上げながらその場で軽く地面を蹴って飛び上がり、ガツンと力強く4本足で着地した。
ゴゴゴッ!
その着地の直後、俺の足元が激しく揺れだした。だが、22層でバイブレーションベアを相手に何度も戦ってきた俺にはもう効かない。
揺れによって最初に飛ばされそうになった方向へと、逆らわずに力を込めて跳ぶ。そして、その勢いのまま揺れの範囲外へと加速して走り抜け、そこから進路を敵の方向へと変えていく。
俺が地震の範囲から逃れた事に気づいたクエイクスティードは、俺から逃げるように駆け出した。
:逃げるの!?
:地震が遠距離攻撃だからか?
:まぁ近接だとフードファイターには勝てなさそうだとは思うけど
:モンスターはそんな事知らないだろ
:野生の勘?
:逃げるだけじゃ勝てないだろ
:いや、違う! また揺れたぞ!
:逃げる震源地?
俺から逃げるように駆けるクエイクスティードの足が接地する度に、俺のいる場所が揺れる。最初の揺れほどじゃないが、走りにくくなる程度の揺れが何度も襲いかかる。
これがクエイクスティードの特徴だ。
バイブレーションベアはその場から動かずに大きな地震を起こし、接近してくる敵に対しては自分の周りを揺らしてバランスを崩した所を爪や牙で攻撃してくるモンスターだった。
それに対して、クエイクスティードは移動しながら地震を起こせる。協会の資料によれば、接地した足が4本同時だと最初のような震度7近い大きな揺れ、2本ずつだと震度6弱程度らしい。大地震で仕留められなければ、逃げながら小地震で足止めをして、そこで再び大地震で地割れに巻き込ませるというのが戦法のようだ。
まぁその地震に慣れていて、地震の中でも通常とあまり変わらないスピードで走る事ができれば、奴との距離はどんどん近づいていく。
そのまま近づいてもバイブレーションベアの時のような防御型の地震は起きず、俺の振るった刃がクエイクスティードの首を大きく斬りつけた。
攻撃を受けたクエイクスティードは足をもたつかせて倒れていく。そこへ追撃を放つと、血が濡らした地面から起き上がってくる事は無かった。
:地震を完全に無視して、そのままゴリ押しで追いつくのスゴ
:フードファイター、かなり足速いよな
:ステータス向上の効果だとしても速い
:あんなのから逃げられない
:フードファイターの近くで犯罪したら確実に捕まる
:トップ層の冒険者の凄さをこうして見れるのは貴重
戦闘能力って相手との比較でしかその強さを実感しにくいものだけど、走るスピードは見ていて分かりやすいからな。テレビで陸上100m走の中継を見ている感じだろうし。
昨日下見で23層に来た時も思ったけど、23層での戦闘も全く問題ない。
それじゃあ、今週末からかおりんを連れてこようか。
……嫌がる事は無いよな?
これまでの配信もリアルタイムかアーカイブで見てるだろうし、これだけ圧倒していれば安心して付いてきてくれるだろう。




