111話:納品
「春休みが終わって配信再開した初日になんだけど、明日の配信はいつもと時間が変わるんでよろしく」
春休み期間中は毎日かおりんと一緒に活動していたから、配信は2週間以上休んでいた。
その間に新しい情報を発信してないのに、視聴者たちは色々と考察を重ねていたのか、今日の配信はいつも以上に大量の質問で溢れ返っていた。
そして、その春休み明け初日の配信だったんだが、明日は昼休み配信ではない。
:時間が変わる?
:昼休み配信じゃないんか
:ランチ見れないの?
:配信の時間に休憩取れるかな……
:昼休みじゃないと生で見れないんだが
:何か昼休みに配信できない用事があるとか?
:それで時間はいつになるんだ?
色んなコメントがすごい勢いで流れていく。まぁ明日の配信については協会が中心となって調整されたものだからな。それにお前らが要望したんだぞ?
「明日の配信は15時頃からを予定している。時間変更の理由は、遂にトレーニングマシンが完成したからだ。それを実際に使う様子を配信するぞ」
:15時か
:おやつ配信ですね
:甘い物でも用意しておくか
:トレーニングマシンか!
:オーダーしたって話は1ヶ月くらい前だったな
:1ヶ月ってのは早いのか?
:実際に使ってるのを見られるんだな!
:何kg持ち上げるのか楽しみ
:見に行っていいんですか!?
:邪魔しないから見に行きたい!
:生フードファイター見たい!
「協会の受付スペースだから、100人を超えるような人数は入れないけど、数十人くらいなら入れるから、見に来たい奴は見に来ていいと所長が言っていたぞ。もちろん、配信に映る可能性もあるから、そこは理解の上で」
:おぉ!
:明日15時なら余裕で間に合うな!
:新幹線の予約しなきゃ!
:飛行機予約すっぞ!
:見に行く奴が結構いるんだな
:お前ら仕事しろー
:マスコミも取材に行っていいでしょうか?
:確かに! 数少ないフードファイターを取材できる機会かも!
「マスコミの方は協会に連絡して許可もらってくれ。ただ、取材を受ける予定は無いぞ。聞きたい事があれば配信で質問してくれれば答えるんだから。今まで答えてないのは、あまりにも酷い質問くらいのはずだし」
:本当に答えすぎなくらい答えてるよな
:トップ層の冒険者に、ここまでフランクに質問できる環境は他に無いからマジでありがたい
:独占したいマスコミとしては嫌なんだろうけど
:協会に敵対もできないだろうから大人しくしてるな
:一般視聴者にはできないような、鋭くて他の冒険者の役に立つような質問を期待してるぞー
:質問力ありそうだもんな
:マスコミのプロなんだし
答えてきた質問の中に、マスコミの人の質問もあったのかもな。たまに、考えた事は無いけどいい質問って思えるようなのがあったし。
「じゃあ、そういう事で次の配信は明日の15時頃からになるから。ではじゃあまた明日。お疲れ様でしたー」
いつものように配信を終えたし、春休み中にできてなかった22層のモンスターとの戦闘に早く慣れなきゃな。
翌日。午前中から22層でバイブレーションベアを倒して昼食を取り、昼食後もバイブレーションベアを倒して売りに来た所、受付で伊達さんが待ち構えていた。
「待ってたわよ。あなた以外は既に全員揃って外で待ってるわ」
「まだ14時なんですけど。それに、ロビーへ設置する時には俺がいる必要ないじゃないですか。配信直前からで十分じゃないですか」
「何を言っているの。君がいる方がスムーズに進むでしょ」
「……どうしてです?」
俺の質問を聞くと、伊達さんは大きなため息をつきながら呆れたように言う。
「はぁー。君が使うマシンなのよ。ありえない重さに対応するために、マシン自体も重くなってる。それを運んだり設置したりするのに君の力があった方がいいに決まっているでしょ。細かい位置の調整なんて、彼らがやったら時間が掛かって配信に間に合わないかもしれないわよ?
それに、君がいた方が変に近づいていくる人も減るでしょうし」
「後者はどうだか分かりませんが、前者はまぁその通りですね。分かりました、手伝います。バイブレーションベアの肉の査定と入金はいつも通りでお願いします」
「そっちは問題ないわ。じゃあ搬入のための待機場所へ向かいましょうか」
受付前のフロアには既にマスコミのものと思われる大きなカメラがいくつか設置されていた。なんでこんなマシンの設置にマスコミが来るんだか分からないが、それを横目に見ながら、俺は協会の建物の外へと向かう。
伊達さんの後をついていくと、大きなトラックとその隣に悠斗の姿を発見した。
「悠斗!」
「おう、やっと来たな。よし! みんな始めるぞ!」
俺の姿を確認するや否や、すぐに悠斗が部員と思われる人たちへと指示を飛ばした。
そしてすぐにトラックの扉が開かれて、フォークリフトを使って次々に荷台から荷物が取り出されていく。
「祐也! これをそこの台車に乗せてくれ!」
「あぁ。それにしてもスゴイ量だな」
「そりゃオーダーされたあの重さに対応する重りだからな。1つ1つも重いけど、これだけの量がなきゃトン単位には届かないって」
トンって言われると確かにそうだ。というか、もうすぐレッグプレスで1トン超えるんだよな。数年前じゃそんなの想像できなかったな……
次々と荷物を台車に載せると、次々に建物の中へと運ばれていく。
「祐也、次は中で台車から下ろしてくれ」
そして全てを台車に載せ終えると、今度は建物の中へと戻り、受付前に置かれた台車から下ろしていく。
いつの間にか受付前のスペースの一角にはマットが敷かれており、そこで機材が組み立てられていく。
「じゃあ、最終チェックしていくぞ」
悠斗がそう言うと、部員たちが4つのマシンを実際に使い始めて、挙動に異常が無いかを確認していく。重りは最低限にしていたが、それでもなんとかギリギリ持ち上げているように見えた。最低限なのにとても重そうにしているって、どんだけ上級者向けなんだろうな。
「どうも、皆さんこんにちわ」
マシンの設置、動作確認が終わり、15時になった所で配信が始まった。
マスコミのカメラだと思っていたもののうち、1つは協会のカメラだったそうで、それで撮られた映像が配信には流されている。そのため、ピンマイクとイヤホンも付けさせられたんだが、ピンマイクを付ける日が来るとは思ってなかったな。しかも、それをつけてやつのがトレーニングマシンの実演だからな。
:ハジマタ
:始まったね
:ダンジョンじゃない!
:マシンはどこ!
:武器防具付けてないフードファイターは新鮮かも
:おぉ、本当に目の前の光景が配信されてる
:ここが仙台入口の協会か、うちの入口と見た目は同じだな
:おい、現場にいるのに配信見てんな
:現場にいる人、現場からの実況オナシャス
いつものようにコメントは数倍速で読み上げられて、イヤホンから聞こえてくる。
周りにはマスコミっぽい立派なカメラを持った人もいるし、スマホのカメラを向けている人もいる。スマホ持ちの人が見に来た視聴者かな。
「今日は昨日伝えた通り、奥羽ダンジョン仙台入口の協会受付からの配信だ。そっちが受付な」
俺の言葉に合わせてカメラが受付を映し出す。受付には数名の冒険者がいるが、周囲には『現在生配信の撮影中です。映り込む可能性があります』という旨の大きな案内板が何枚も立てられており、事前にしっかりと周知されている。今映っている人は映っても問題ないという事だろうし、もし何かあってもそこら辺は協会が対応してくれる事になっている。
「さて、じゃあ早速今日の本題に移ろうか。それじゃあ俺のオーダーで製作されて、仙台入口に設置されたトレーニングマシンがこれだ」
カメラが再び動いて、受付とは反対側の壁際に置かれた4つのトレーニングマシンを捉える。
トレーニングマシンというか台自体は大きくないが、その周りにいくつもの重りが置かれたベンチプレス台と、同じように多くの重りに囲まれたデッドリフトのスペース。
そして、見るからに頑丈そうな特大サイズのレッグプレスマシンに、それよりはコンパクトなアブドミナルクランチのマシン。
それぞれのマシンやスペースには衝撃吸収用のマットが敷かれている。
:これが特製マシン!
:見た目は普通?
:そこら辺にあるジムの一部を切り取った感じにしか見えない
:でもウエイトの数がおかしい
:中身は普通じゃないんだろ?
:フードファイター向けマシンだもんな
:使って見せてくれ
「じゃあ早速使ってみようか。という前に、これがどんなものなのか、ここに集まっている人の中で試したい人いるか?」
俺は周りにいる観覧者の方へと視線を向けながら声をかけた。俺が先に使ってもいいんだが、重さを体感してもらうべきだろうというのが協会からのオーダーだった。まぁ特に反対するものでもないので、その指示に従って配信を進めていく。
:誰か手を挙げてくれ
:フードファイターと比べられるのは嫌か……
:力の差をまざまざと見せつけられるもんな
:そんなの進んでる階層で分かりきってるだろ
視線をぐるりと巡らせていると、前列でスマホを握りしめていた背の高い茶髪の青年と目が合った。
「誰も手を挙げないなら、そこの茶髪で背の高い男性。もし映っても良ければやってみないか?」
俺はピンポイントにその男性を手で指し示した。
:指定したか
:お、俺!?
:まさかの視聴者ww
:いけー!
:視聴者代表がんばれー
もしかしてコメントの中にいた現地観覧者がこの男性だったのかな?
「あのー、嫌なら断ってもいいですよ?」
「い、いや。ふぅー。せっかくの機会なんで挑戦させてもらいます!」
男性は観衆の中から前へと進んでくる。身長も高いし、ガッチリした体型だから冒険者っぽいと思って声をかけたんだが、隣に立ったのを見てもそう感じる。
「あなたも冒険者?」
「は、はい。普段は富士山ダンジョンで活動してます」
「わざわざこのために来たんです?」
「はい! いつも配信見ていたんで。一度は生で見たかったですし来て良かったです!」
やっぱり視聴者さんだったのか。富士山ダンジョンからなら昨日の配信見て、昨日のうちに東京に出て、今日新幹線で仙台まで来たのかな。
:富士山の冒険者か
:見たこと無いし、有名冒険者では無さそうかな
:有名冒険者なら、見に来た所で協会が声をかけそう
:私も見に行きたかったな、仕事無かったら
:交通費かかるからな
:仙台住民が羨ましい
結構直接見たい人が多かったみたいだな。でも普段の配信はダンジョン内だから無理だぞ?
「いつも見てくれてるんですね、ありがとうございます。じゃあ早速挑戦してもらっていいですか?」
「はい。どれをやりましょうか」
どれでもいいとは言われているけど、アブドミナルクランチは地味だから除外。一番絵になりそうなのは……
「じゃあレッグプレスでお願いします。重さは……?」
「500kgなら上げられます」
「じゃあ500kgにしましょう」
500kgと申告されたので、ピンを500kgの所に差し込む。上げられる重さを把握してるって事は、俺のレベルを推定するためにマシンでどれだけ上げられるかを試した人かな。
俺がセッティングを終えると、冒険者さんはレッグプレスマシンのシートへと座り、両足をプレートにしっかりとセットした。
「どうぞ」
「フンッ!」
ガチャン
俺の声を受けて、冒険者さんが声を出しながら両足に力を入れた。そしてプレートを押し上げ、重りが一気に持ち上がる。
フンッ、ンッ、フッ、と息を吐きながら10回ほど持ち上げた所で、プレートをゆっくりと元の位置へと戻していった。
:見事っ!
:まぁ500kgなら
:でも500kgって事は推定レベル74だぞ?
:15層くらいまで進出してるって事になるだろうから、中堅冒険者って所かな
:15層進出の冒険者がダンジョン休んでフードファイターを見に行くために遠征するのか
「ありがとうございます。じゃあ次は俺がやります。あっ、後でもう一度やってもらうので、それまで近くで座っててもらっていいですか?」
冒険者さんがレッグプレスマシンから離れていこうとしたので、近くにいてもらうようにお願いした。
そして、入れ替わるようにレッグプレスマシンのシートに座る。500kgか。片足……は無理かな。普通に両足でやろう。プレートに足を乗せて軽く動かしてみる。
ガチャン
スッ、スッ、スッ、と滑らかにプレートが前後に動く。片足だと難しそうかな。となると両足で1,000kgはまだ無理だろうな。
軽めのウォーミングアップ代わりに10回持ち上げた所で、ゆっくりと元の位置に戻していく。
「うん、ちゃんと滑らかに動くな。じゃあ配信しながら何kgまで持ち上げられるか試してみようか」
:あれって500kgあったんだよな?
:そのはずだが……
:視聴者冒険者はかなり力入ってるように見えたぞ?
:それがあんなにスルスル動くのか
:試すって!
:いきなり上限超えるとかはないよな!?
:えっと、確か前は900kgって言ってたよな
とりあえずは前回持ち上げられた900kgにセットしてっと。あの時は春休み前だったからドラフトホースが上限に到達する前だったし、少なくとも900kg以上は上げられるようになってるはずだ。
:そういやこのマシンって何kgまで対応してるんだ?
:500kgで挿してるピンがかなり上の方なんだが……
:重り全体の4分の1くらいが使われてそうな……
:ってことは、500kgの4倍まで対応してるって事!?
:2,000kg……
:2トン……
:トントン
:トントン
:日野の
:2トン
:↑キレイな連携プレイww
俺のオーダーは1,400kgだったけど、そこから1.5倍にしろという所長からの依頼によって、レッグプレスは2,000kgまで対応している。
いつか全部を持ち上げられるといいんだが、マシン自体が耐えられるのかという不安はある。まぁそこは構造計算をして問題ないように作られているから大丈夫だろうけど。
「とりあえずは900kgだ」
重りのピンの位置を900kgに差し替えてから、再びシートに座る。さすがに900kgは全力を出さないとな!
フッ!
ガチャン
まずはプレートを重りを持ち上げる所まで軽く上げ、重さが増した所で全身に力を込めて持ち上げる。
いっち、にーい、さんっ。
結構ギリギリだが、前回よりは気持ち楽かもしれない。
きゅーう、じゅー。
10回持ち上げた所で、重りを勢いよく落とさないように、ゆっくりと下ろしていく。
:おぉー!
:すげえええええ!!
:フードファイターもかなり力を入れてるのは分かるけど、重いのか全く分からん
:見ていて重さが分かるような何かがあるといいんだけど
:視聴者冒険者に挑戦させる以外に何かあるか?
冒険者さんには後で挑戦させるとして、1つ重りを増やすか。再びピンを動かして、920kgに設定する。
1トンは無理そうだし、初日で、しかも配信してる所で壊すわけにもいかないから、ここまでにしておこう。
という事で全力で持ち上げる。
おっ、ギリギリかな。900kgを持ち上げた時の筋肉疲労もあって、足がプルプルしてきた……
ハァハァ。なんとか耐えきった。
「今日はここまでかな」
:920kgか
:900kgも920kgもどっちも化け物なんよ
:しかもそれをあの足でだからな
:なんでそんな足でそんなパワーが出せるんだよ
:レベルが上がると強くなるってのもおかしいとは思うけど、Absorbスキルはもっとおかしいわ
Absorbスキルがおかしいとは俺も思う。けど、レベルが上がらない代わりにあるんだから仕方ないんじゃない?
「じゃあさっきの冒険者さん。これ上げられるかやってみてもらっていいですか?」
俺を近くで見ていた冒険者さんに声をかけると、真剣な表情で再び俺と入れ替わってシートへと座った。
そして、両足をプレートに置いて先ほど以上に力を込めた。
ガチャン!
ピンが重りにぶつかる音が響くがそれだけ。プレートはそこから先には1mmも動かず、重りはびくともしなかった。
「ふぬーっ!」
血管が切れるんじゃないかと思うほど、顔を真っ赤にしながら力を込めているが動かない。数秒挑戦し続けていたが、プレートは下へと戻っていく。
:頑張れよ!
:まだやれるって!
:お前の力はそんなもんじゃないだろ!
:食いしばっていけー!
:富士山魂を見せつけろ!
:コメント欄が熱い
「無理無理。動く気配もない」
「まぁこれだけだと本当かって疑う人もいそうだから、もう2人追加してやってみようか。2人は両サイドから手で持ち上げてもらおう。
あー、受付終えたばかりのそこの冒険者さん、配信映ってOKだったらちょっと協力してもらえませんか?」
観衆側へと視線を向けてから、どうせならって事で受付を終えたばかりの冒険者に声をかけてみた。
急な頼みだったが2人はOKしてくれたので協力してもらったが、1人は足で、2人は腕でプレートを持ち上げようとしたが、重りが動く事は無かった。
「ちなみに、これ何kgを持ち上げようとしてるんですか?」
「920kg」
「ほぼ1トンじゃん! 無理だって!」
まぁ無理だよね。俺は持ち上げられるようになったけど、そんなの想像できなかったし。
:2人は腕力だとしてもびくともしないのか
:マジなんだな
:ほぼ1トンを持ち上げる脚力……
:またフードファイターの化け物っぷりに拍車がかかったような気がする
:小谷さんとか王とかもこれくらい持ち上げられるんだよな
:トップ冒険者にはこれが普通か
:これくらい持ち上げられないとトップ層にはなれない、と
コメント欄から持ち上げてる重さについての疑惑の声は消え去ったようだ。
じゃあこの調子で残り3つのマシンも使って見せていこうか。協力してくれた3人の冒険者へとお礼を伝えてから、俺はベンチプレス台へと向かっていく。




