110話:マシンの対価
「ただいまー」
「おじゃましまーす」
「瀬奈ちゃーん、ただいまっすー」
「いや、香織ちゃんがただいまは違うでしょ」
「週一は来てるんで、もういいかなって」
「そうよ。邪魔じゃないからいいの」
春休みに入ったので、今回も瀬奈と悠斗のレベル上げをしていた。
昨日は瀬奈、今日は悠斗。そしてレベル上げの打ち上げをするためにかおりんと悠斗をうちに連れてきた。
2人の事は瀬奈に任せて、俺はすぐに2階の自室へと着替えに行く。
「もうすぐ料理できるから、2人はリビングでゆっくり待っててね」
「はーい。で、今日のメニューは何っすか?」
「ロバストグリズリーのステーキ、熊鍋、カツの3品よ」
「熊鍋は珍しいっすね」
「そうかな? たまに作ってたけど、かおりんがいる時には作ってなかったのかもね」
「じゃあ美味しさは間違いないんだな。瀬奈の料理は久し振りだから楽しみだわ」
「悠斗は家近いんだから、もっと来てもいいのよ?」
「いやいや、さすがにそれはな。迷惑だろうし、こういう時だけの楽しみにしておいた方がいいだろ」
「そんな気を遣うような関係じゃないでしょ。まぁいつでも食べたくなったら連絡してきなさい」
瀬奈たちの会話が下から聞こえてくる。
いつもの事だし特に急ぐ事もなく着替え終えると、3人の待つリビングへと降りていく。
「祐也来たね。じゃあステーキ焼いていくね。2人はどうする?」
「3品とも食べたいから、ステーキは少なめがいいっす」
「俺も」
「じゃあ3人で1枚を分けようか。後から追加できるし、カツもそれでいい?」
「おう」
「お願いするっす」
ロバストグリズリーの肉なんだし、もっと沢山食べていいのに。
まぁ俺の場合は、Absorbスキルと消化スキル、そして食べ続けてきた事によって胃袋が広がっているから余裕で食べられるだけなんだろうけど。
「そういえば、悠斗はレベルいくつになったの?」
食事を食べながら、瀬奈が悠斗に問いかける。
「3つ上がって41だ! 瀬奈は?」
「同じだね」
「あぁー! 今回も同じかよ!」
「同じでいいだろ。別に競ってるわけじゃないんだし、ちゃんと悠斗のレベルも上がってるんだから」
「そうだけどさ! やっぱり先に行きたいじゃん! 先に次のスキル欲しいんだって!」
何故そこまで瀬奈と争ってるんだろうか。レベル以外の点で瀬奈と悠斗が争ったり、ケンカしたりしているのは全く見ないんだけど。本当にスキルを先に欲しいだけか?
まぁレベル上げの時だけしか騒がないから気にしないでいいか。
「そういえば、祐也からオーダーされたマシンの製作は順調なの?」
「順調なのかは分からないけど、ようやく作り始めた所だ。初めて作るものだから設計図とかちゃんと作るのにちょっと時間掛かったわ」
「設計図か。そんなに時間が掛かるものなんだな」
「マシンの構造自体はそこまで複雑じゃないから、設計図自体はそんなに大変じゃなかったんだが、それよりもあのアホみたいな重さに耐えられるかを計算するのに時間が掛かったんだよ」
アホみたいな重さって。
「どれくらいの重さでオーダーされたわけ?」
「ベンチプレス500kg、デッドリフト800kg、レッグプレス1400kg、アブドミナルクランチ300kgだな」
「それってどれくらいスゴイんすか?」
「それぞれ市販品の1.5倍くらいだったかな」
「……ヤバいっすね。さすが祐也さんっす」
褒められてるんだよな?
「まぁそれなら良かったんだがな」
「ん? それ以外のオーダーはしてないぞ?」
「祐也からはオーダーされてないんだけどな。所長さんに相談したら、その1.5倍まで対応できるように作ってくれって言われたんだよ。祐也のステータスがもっと上がって、その度に作り直すのも面倒だろうからって。
んで、その重さに耐えられる設計にするために構造計算のプロも紹介されて、何度も設計図を作り直したよ」
「構造計算って何だ?」
「建物が自分の重さとか地震とか風を受けても絶対に倒れないかを確認する作業だな。普通は建物を作る時に行うらしいんだが、今回は重さが重さだからマシンの設計でも考慮しろってさ。ちなみに、その構造計算のプロへのお代は協会が出してくれるって事もあって、部員たちのいい経験になったって先生も喜んでた」
「そんな事になってたのか。まぁ先生も喜んでたなら結果オーライかな。じゃあ、ここからは作るだけか?」
「そうだぞ。昨日から作り始めた所だ」
「急がないし、慎重に作ってもらって構わないからな」
「いや、設計図通りに作るのはそんなに時間掛からないはずだ。春休み中の完成を目指してるぞ」
「そっか。納品する日が決まったら教えてくれ」
「おう。あと、マシンの代金なんだけどな。もらうのは素材費だけでいいから、作業費代わりにお願いがあるんだ」
「素材に俺が渡した魔導鋼も使うんだろうし、追加の素材費だけならかなり安くなりそうだな。それで作業費代わりのお願いって何だ? まぁ聞くだけ聞くけど」
「納品後にうちの部のメンバーのレベル上げをして欲しいんだ」
「それは悠斗にしているようにって事か?」
「あぁ。レベル上げを依頼した場合の相場が分からないんだが、できればマシンを作ってくれた部員全員のレベル上げをお願いしたい」
「それは部員たちも顧問の先生も賛成しているのか?」
「むしろ部員たちからの要望で、それに先生も賛成したって感じだな」
なるほど。部員たちにアルバイト代のようなお金を渡すより、レベル上げの方が将来的にも教育的にも良いって考えなのかも。
それに、アルバイト代よりもレベル上げの方が価値がありそうだもんな。しかもレベル上げをするのが俺だし。
「基本的にはOKとしたいけど、いいか、かおりん」
「祐也さんがOKなら、私もOKっすよ」
「いや、かおりんのレベル上げの日数が減るからさ」
「だから祐也さんがOKならOKっす」
「……分かった。悠斗、基本的にはOKだ。ただ、レベル上げの相場が分からないから伊達さんに相談していいか?
あまりにも高かったり安かったりする金額で請け負ったら、他のレベル上げビジネスで稼ごうとしている人の迷惑になるかもしれないからさ」
「あぁ、構わないぞ」
「じゃあ作業費でいくら請求するつもりかを計算しておいてくれ。単価×延べ作業時間って感じで」
「そうだな。先生とも相談しておくわ」
「そっちの金額とこっちの金額でいいバランスが取れるだけのレベル上げを請け負うよ」
相場とは言ったけど、そもそもレベル上げビジネスを始めた人ってどれだけいるのかな?
そもそも俺以外に認定受けた人がいるのかも確認してなかったし、協会に詳しく聞いてみるしかなさそうだな。




