108話:地震
「それじゃあ今日の討伐に移ろうか」
:2ヶ月ぶりの奥羽ダンジョン20層だな
:デブリシューターかエースグリズリーか
:どっちでも見てて楽しい
:フードファイターならやられる心配も無いから安心して見れるのがいい
:ちょうどいい娯楽になってるよな
:格闘技の試合見てる感じか
:でもどっちが勝つか分かってるから、ドキドキ感は無いけどな
ドキドキ感か。じゃあ今日の配信はいつもよりドキドキしてくれるかもしれない。
俺はいつものように眼前に広がる岩山へと足を踏み入れ、モンスターを探して進んでいく。
しばらく進んでいくと、見慣れた小さな岩が浮かんでいる場所が目に入った。
:浮遊石スポットだな
:でもここにモンスターがいないのは珍しいよな
:いつもならどっちかはいたもんな
:たまにはそういう事もあるか
:早く出てきてくれー
俺も同じだ。早く出てきてくれないと暇だわ。
しっかりと岩で身を隠しながらも、岩と岩の間は走って進んでいく。
次の岩から顔を出すと、ターゲットを発見した。
予定通り、馬ではなく熊の方だった。
俺は岩場から飛び出して、一直線にモンスターへと向かっていく。
:おいっ!
:遠距離攻撃で狙われるぞ!
:なんで隠れないの!?
:紀伊ダンジョンで強くなったから、余裕で避けられるようになったとか?
:元々避けられてたから、余裕ができたのかもな
:ん?
:なんかおかしくない?
:いつもの遠距離攻撃が飛んでこないな
飛んでくる事は無い。何故なら。
ゴゴゴッ!
突然、足元が凄まじい勢いで揺れた。その揺れの大きさに、思わず足元が覚束なくなる。
俺はすかさず体勢を低くして、体幹を安定させてから再び走り出す。
その直後、俺がさっきまで立っていた場所の地面に小さな亀裂が走った。
:地響き?
:地震か!
:えっ!?
:おいおい、どういう事だよ!
:20層にいるんじゃないのかよ!
:なんで22層にいるんだ!
亀裂はみるみる大きくなりながら俺を追いかけてくる。あの地割れでバランスを崩させて動けなくしたり、地割れの中へと落とそうとしているんだろう。
コメントでも書かれているが、俺がいるのは20層でも21層でもない。
ここは22層。
奥羽ダンジョンのトップ冒険者である最上さんのパーティーが先月攻略した23層と同じモンスターが生息している階層だ。
21層は20層と同じく遠距離攻撃型のデブリシューターとエースグリズリーが生息していた。遠距離攻撃を避けて、こちらの攻撃が届く距離まで進んでいく事が重要だった。
そして22層に生息しているのも遠距離攻撃型だが、アプローチが全く異なる。俺の視線の先で前足で地面を力強く叩いているのは、熊型モンスターであるバイブレーションベア。前足で地面を叩いて地震を起こし、地割れで相手を動けなくして仕留めるのが特徴らしい。
:あれが22層の熊型モンスター……
:大きさは20層とほとんど変わらないように見えるけど
:地震を起こすモンスターだっけ?
:強い……の?
:震度6強近いって聞いたんだが?
:震度6強!? どうして動けるの!
:普通は立ってもいられないはずなんだが……
バイブレーションベアによって起こされる揺れは、推定震度6強から7。普通の人間では歩くどころか、立ち続ける事すら困難となるらしい。
まぁ、強化された私のステータスならいけるだろうと思っていたが、予想通りなんとかなって一安心だ。
奴の特徴である地震は一定の範囲だけに発生するそうで、その範囲の外へと逃げられればそこまでの脅威ではない。
地震の範囲外まで一気に走り抜けた俺は、そのまま速度を緩めずにバイブレーションベアへと接近していく。
:接近するのが困難なモンスターって話じゃなかったっけ?
:地震を避けながら複数方向から攻めるべき、だっけ?
:しかもできれば遠距離攻撃で、だったな
:遠距離攻撃なんてフードファイターできるの?
:なんで遠距離攻撃? 地震を避けられるならそのまま接近できるでしょ
:まだだ……奴の地震は攻撃手段であると同時に防御手段でもある!
俺が普段から奥羽ダンジョンに潜っているから、視聴者も奥羽ダンジョンの事を予習してきているのかな。
20層と見た目はほとんど同じなのに、地震が起きただけで22層だって気づいたし。
バイブレーションベアまで残り約10m。
そのままスピードを落とさずに横を駆け抜けながら一太刀を浴びせようと踏み込んだ瞬間、バイブレーションの前足が地面から離れる。そして、再び全力で地面へと叩きつけられた。
ドドドッ!
再び足元が大きく揺れた。奴の地震は地割れを引き起こすものと、地割れは起きない代わりに揺れの更に大きなものがあるそうだ。そして、前者は主に攻撃用途で、後者は防御用途で使われる。
それが最上さんのパーティーが度重なる戦闘を通じて獲得した情報あった。
俺を襲った揺れはさっきよりも強く、バランスを崩してその場に左手をついて立てなくなる。
:揺れがヤバ!
:緊急地震速報鳴ってないぞ!
:緊急地震速報仕事しろ!
:フードファイター!
:立て!
:攻撃来る!
前を見ると、バイブレーションベアが私へと飛びかかり、鋭い前足を振り下ろそうとしていた。
まだ地面が大きく揺れているというのに、どうしてこいつは普通に動けるのか。
そんな事を考えながらも、俺は左手を地面についたまま、右手に握りしめた剣を振り上げた。
キィンッ!
サシュッ!
ギィンッ!
バイブレーションベアの両前足が迫ってきていたが、振り上げた剣がそれを迎え撃った。
剣はその勢いを削がれる事なく前足を弾き返し、そのままの勢いで剣先が顔面を浅く斬り裂いた。そして左側から迫っていたもう片方の前足が私へと直撃するより早く、その鋭い爪を左へと力強く弾き飛ばした。
剣圧によってバイブレーションベアの身体も僅かに左へと逸れていき、俺も左肩を引く事で正面衝突を避ける事ができた。
そして、振り抜いた剣に左手を添えて切り返して、左横をすれ違うように通り過ぎるバイブレーションベアの分厚い胴体へと刃を滑り込ませた。
左後ろへと持っていかれないように力を込め、一気に正面へと振り抜くと、剣はバイブレーションベアの胴体を一刀両断するように深く斬り裂いていった。
ズシャーッ、とバイブレーションベアが後方へと地面を滑っていく。
揺れも収まり、素早く体勢を立て直して後方へと剣を構えるが、奴が起き上がってくる事は無かった。
:うぉぉーー!
:倒したー!
:ヒヤヒヤしたよ……
:ヤバかったな
:よくあそこから弾き返せたな
:どんだけ腕力あるんだよ……
:300kgオーバーのモンスターを剣圧で逸らせるものなの?
「ふぅー。なんとかなった。大丈夫だとは思ってたけど、あの揺れに初見で対応するのはキツイな。遠距離攻撃を推奨される理由が分かったよ」
:ん?
:いまサラッと何て言った?
:初見?
:初見って言った?
:初見って言ったな
:初見で配信したの?
:そんな……初見配信?
:本当に初見?
:正気?
「初見配信だぞ。証明する方法は無いけど、協会に俺が22層のモンスターを持ち帰ってきてない事を確認してもらって、それについてリリースでも出してもらうしかないけどな。配信前に21層で戦って問題なかったから、どうせそのうち22層には来るんだしって事で挑戦してみた。
そろそろドラフトホースを食べ終えるし、紀伊ダンジョンで強化してきたからその力試しも兼ねてな。どうせだから配信したら面白いだろって考えもあったけど」
:いや証明はしないでいいぞ
:初見配信って事を重要視してないし
:初見で配信すんな、怖いわ!
:どうせそのうちってタイミングってもんがあるでしょ
:ドラフトホース終わってもまだまだ22層モンスターの肉は先でしょ……何日で食べるつもりよ……
:力試しで挑む階層じゃないんだよ
:もっと慎重にやってもらっていいですか?
:配信者としては間違ってないんだろうけどさ
:面白かったしドキドキしたけど、それを聞いたら振り返って怖くなってきた
「確かにAbsorbスキルを考えるともう少し後でもいいんだけど、レベル上げに適した階層を探したいって目的もあるんだよな。22層も20層よりはいいけど、もっといい階層を早く見つけたい」
:レベル上げってパーティーメンバーのためだよな?
:深層、というか最前線でレベル上げ……
:深層はそんな事に使っていい階層じゃないです
:19層で非戦闘系メンバーのレベル上げしてるのもおかしいんだけどな
:レベル上げに適した階層か
:遠距離攻撃がなくて、パーティーメンバーの安全を確保できそうな階層?
:地震に巻き込まれても、地割れを回避できれば……
:地割れに巻き込まれても怪我しなければいけるか
:地割れの程度によるよな
この配信中には試せないけど、どこかのタイミングで地割れにわざと巻き込まれてみるしかないかな。巻き込まれても怪我をしない程度なら、もしかおりんが巻き込まれてもその間に俺がバイブレーションベアを倒せば問題ない。ただ、それだとかおりんに経験値が入らないか。うーん、難しい。
ある程度確認してから、かおりんと相談かな。
「そんじゃ、解体して持って帰るか。質問返しの前に、戦闘を見ていて気になった事とかあったら教えてくれるか? 協会でも22層の戦闘は珍しいから映像を見て色々と調べてるけど、見逃してる事とかあるかもしれないから」
これからは22層を中心に配信して、これから22層に挑戦しようとする冒険者たちの助けにならなきゃな。
解体したら配信終わらせて、ハツ刺し食ーべよ。また一段と深い階層のモンスターだし、どこまで美味くなるんだろうな。




