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フードファイト・ダンジョン ~最高の食材とまだ見ぬ絶景を求めて最下層を目指します~  作者: 祐祐
第6章:上級配信者

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105/117

105話:紀伊ダンジョン

 年末年始休暇を終え、1月4日からかおりんと共にダンジョンに潜っていると、あっという間に冬休みが終わりを告げた。

 他の地域より長いとはいえ、やっぱり冬休みは短いよな。






「じゃあ行ってくる」


「はい、行ってらっしゃい」


「お土産よろしく」


「分かってる。いつも通り肉を送るよ」


「鹿肉とウサギ肉の両方よろしく」


「そこそこの階層のやつを送るよ」


 母と瀬奈に見送られて、俺は家を出た。


 今回の遠征で向かうのは紀伊ダンジョン。

 紀伊山地を中心に、高見山地と金剛山地という山地にもダンジョン協会の管理している入口が存在している。ただ、かなり奥まった所に入口があるため、冒険者から人気があるのは、アクセスがいい金剛山の大阪側と、奈良の吉野の2つだ。こだわりのある人は、熊野本宮大社まで足を運ぶそうだが、どこから入ってもダンジョン内に差は無い。そうなれば、交通の便がいい場所が選ばれるのは仕方のない事だろう。

 俺も短期間の遠征であり、仙台からの行きやすさで金剛山を選択した。仙台空港から関西空港へと向かって、そこからバスで一本だ。

 これで遠征は4箇所目。旅慣れてきた感があるな。


 そんな紀伊ダンジョンに生息しているのは、鹿系とウサギ系のモンスター。

 鹿といえば奈良公園だし、ウサギといえば神の使いとか因幡の白兎ってイメージがある。そして、紀伊山地といえば、世界遺産である熊野古道がある。

 そう考えると、やっぱりダンジョンのある場所と、そこに生息しているモンスターには何かしら関係があるんだろう。


 北海道の魚介と羊モンスターなら海の幸とジンギスカン。

 富士山の鳥と亀は、霊峰富士と鶴は千年、亀は万年という関係。もしくは一富士二鷹三茄子で、鷹が鳥って説。

 飛騨の牛と猪は、飛騨牛とジビエ文化。

 九州の豚とヤギは、養豚と沖縄・奄美の山羊食文化。

 奥羽の熊と馬は、ツキノワグマの本州での最大の生息地であり、古くからの名馬の産地。


 ただ奥羽については、熊も馬も北海道の方がイメージが強いから、なんとなく北海道で使われなかったから奥羽に配置されたんじゃないか、と思ってる。

 まぁ誰にも真実は分からないんだが。







 今回は飛行機の乗り換えも無かったから、昼すぎに紀伊ダンジョンへと到着した。

 金剛入口というのが正式名称だが、ほとんど大阪入口と呼ばれている。


「いらっしゃいませ。ご用件をお伺い致します」


 いつも思うが、入口は違っても受付での対応はどこも同じだ。さすがにちゃんとしたマニュアルがあるんだろう。


「ロッカーのレンタルをお願いします」


「はい、では冒険者カードの提示をお願いします」


 仙台入口では借りっぱなしだが、新しい入口に来た時には改めて借り直す必要があるのは面倒だ。だが、仕方ない。


「あと、撮影用のドローンの貸出もお願いします」


 今回の遠征は紀伊ダンジョンの10層までのモンスターをAbsorbスキルで吸収するのが目的だ。だからドローンで撮影すべきものは無いんだが、それだと暇すぎるので、肉を食べる間に腹ごなしと金稼ぎのために中層に潜る予定だ。


『どうせ行くなら、紀伊ダンジョンの中層や深層で戦っている映像を撮ってきて欲しいわ。金剛入口には話を通しておくから』


 昨日武器防具を取りに行った時に伊達さんにお願いされたのだ。強いモンスターの方がステータスの向上度合いも分かりやすいし、一石二鳥だろう。

 さすがに今日明日はそんな時間無いと思うけど。




 ヒソヒソ……


「おいっ、あれってあの配信者だよな?」

「フードファイターやん!」

「なんで紀伊ダンジョンにおるんや?」

「定期的に奥羽ダンジョン以外にも行っとるって、掲示板に書いてあったで」

「遂に紀伊ダンジョンにも来たんか!」

「紀伊ダンジョンのモンスターを食いに来たんやろな」

「またどんどん強なっていくんやろか」

「ドローン借りとるって事は配信してくれるんかな」

「声かける?」

「触らん方がええって」


 受付で手続きをしていると、後ろから冒険者たちの会話が聞こえてきた。

 配信の影響で、すっかり俺の顔も知られたみたいだな。ただ、別に声をかけるくらいなら問題ないぞ? パーティー勧誘はNGだけど。


「お待たせしました。ロッカーの設定が完了しました。それと、こちらがドローンになります」


 ロッカーもドローンも借りた。今日は2層だけの予定だけど、食べながら質問返しでもするか。







「どうも、皆さんこんにちはこんばんわ」


 昨日、チャンネルの投稿ページで今日の昼配信は無いとは伝えていたが、夕方に配信をする事は伝えていなかった。



:突然のゲリラ配信!

:こんにちは

:こんばんわ

:夕方配信とか珍しい

:紀伊ダンジョンなの!?

:さっきのは本当にフードファイターだったか!

:紀伊ダンジョンの深層も見せてくれ!



 それでも、配信開始してすぐにこれだけコメントが来るのか。

 配信タイトルでここが紀伊ダンジョンだというのはバラしているので、『ここはどこ?』みたいなコメントは無い。


「タイトル通り、今日からしばらくは紀伊ダンジョンから配信していきます。配信頻度は……まぁ毎日かな。最初はご飯配信、そのうち中層か深層の戦闘配信になるかも」



:紀伊ダンジョンのどこ?

:大阪入口だおー

:ご飯配信

:雑談配信じゃなくてご飯配信なのか

:飯テロの時間だぁ!

:大食い配信?

:というか、どうして紀伊ダンジョンに?

:深層配信お待ちしてます

:そのまま到達階層更新してもらっていいですよ



 階層更新をするつもりは無いんだよな。


「それじゃあご飯配信をしていくぞ。では、さっき配信前に狩ってきたミニディアーとミニラビットがこちらになります」


 配信前にサクッと狩ってきた。2層のモンスターとの戦闘なんて見ても面白くないだろうからな。



:狩り済みかい

:早速ご飯か

:3分クッキングの調理行程みたいに飛ばしたな

:既に肉に解体済みか

:1体ずつって所か?

:ミニラビットって、小学校で飼ってたウサギより大きくない?

:どこがミニなんだろうな……



 ミニラビットについては俺も思った。普通のウサギの倍どころか3倍くらいの大きさはありそうだ。

 とりあえず1体ずつ狩ってきたが、解体して肉にしたら合わせて10kgちょっとある。これだけあれば明日の朝食分までは持つだろう。

 ……もう1体狩っておけば良かったか?

 まぁ30分あれば狩って戻ってこれるから気にしないでいいか。


 早速手際よくミニラビットの肉を一口サイズに切り分けていく。そして切った端から、用意しておいたカセットコンロの上にセットした網の上へと乗せていく。


 ジューッ!



:慣れた手つきで切っていくな

:もう始まったよ!

:これは焼肉か?

:シンプルイズベスト!

:タレに漬け込みたい所だな

:全く熟成させなくても美味しいの?



「熟成させない肉には、また違った良さがあるぞ」


 網に乗せた肉をひっくり返していき、その間にもさらに肉を切り進めていく。そして肉にちゃんと火が通った所で網から引き上げ、そこへ瀬奈特製のニンニクタレをかけて、口へと運ぶ。

 うん、これこれ。遠征でしか味わえない、シンプルな焼肉。普段は瀬奈が料理したいからって、焼肉はほとんど出てこないんだよな。



:あああっ!

:いいなー

:美味しそう!

:酒持ってこなきゃ!

:ビールが合う配信だな

:マジで飯テロ

:そのタレ、市販品ではないよね?

:自家製タレ?

:料理人の妹さん作?



「タレは妹の作ったニンニクと果物を使ったタレだな。ずっとだと飽きるから、次はシンプルに塩にするか」


 味変を挟みながら、どんどん食べ進めていく。普段の馬肉や熊肉と違う味の鹿肉とウサギ肉は新鮮で、手が止まらない。



:なぁ、フードファイターの手が止まらないんだけど

:もう30分は食い続けてるぞ

:どんだけ食った?

:3kgは食ってるだろ

:ミニラビットが無くなってる!

:って事はウサギだけで2.5kgは食ったんだな

:ミニディアーも食べてるし、半分くらいになってるように見える

:ってことは既に5kg?



 昼飯は瀬奈の作ったいつものドラフトホースを使った弁当だったが、それでも食べようと思えばこれくらいは食べられる。

 コメント欄は飯テロへの阿鼻叫喚から、俺の食べる量への驚愕のコメントへと徐々に変化していった。





「なんとか食べ切れたな。少し休んだら、夜食と明日の朝ごはん用に狩りに行くか」


 雑談をしながら1時間くらい焼いては食べ、焼いては食べ、狩ってきた2体分の肉を平らげた。

 この調子なら、2日もあれば2層は終わりそうだな。



:これがフードファイターか

:フードファイターっていってもそんなに食えないだろって思ってました

:これだけ食えなきゃ、特別なスキルでも2年でここまで強くはなれないんだな

:見てるだけでお腹いっぱいです……

:夕飯軽めにしよう

:配信をつまみに酒飲んでたら酔いがヤバww

:もしかして、しばらくはこのフードファイト配信が続く?

:フードファイターに食べて欲しいって案件が来そう



 案件来ても食わねぇぞ。モンスターの肉を食べる事に胃袋を使いたいんだから。

 調味料とかならウェルカムだけど、基本的に遠征時以外は瀬奈の料理だからな。


「それじゃあ今日の配信はこれで終わりにするぞ。明日からはいつもの昼配信になる予定だ。

 それじゃあ、また次回の配信で」



:おつ

:お疲れさまー

:胃袋さん、本当にお疲れ様です

:これからしばらく、胃袋さんの激務が始まりますね

:胃袋『少しは休ませてくれ』

:胃袋『肉以外も消化させてくれ』

:胃袋『鹿とウサギには負けねぇぞ』

:小腸大腸『俺らの激務にも気づいてくれ』



 胃袋の限界まで食べると、遠征が始まったなって思う。

 少しずつ胃袋を大きくしていかないとな。


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