104話:年末年始と先の事
瀬奈と悠斗のレベリングから1週間も経たずに、大晦日がやってきた。
去年同様に、年末年始の6日間は父の指示で強制的に休みとなったが、その期間は元日以外はいつもの1.5倍の肉を食べる許可ももらったので、個人的には大きくプラスだ。
ゴーーーーン
「あけましておめでとうございます」
「「「あけましておめでとうございます」」」
年越し蕎麦を食べてから、空いた胃袋にドラフトホースのローストホースを入れていると、いつの間にか年が明けていた。
「今年はもっと有名冒険者になりそうだな」
「無理はしちゃダメよ。特に胃袋」
父からの激励(?)に続いて、ローストホースの山を見て母に嫌味を言われたが、その程度で手を止める事はない。
「美味しく食べられる範囲の量しか食べないよ。無理して苦しんで食べるのは料理に失礼だから」
「料理じゃなくて、作った私に失礼だからね」
分かってるって。美味しく食べるのが最優先だ。
「2人が来たらすぐに出発できるように準備してくるね」
今年も1年前と同じく、悠斗とかおりんと初詣だ。
かおりんのお父さんとは1年ぶりか。去年は浜辺でのバーベキューはしなかったもんな。
ピンポーン
「祐也、瀬奈。あけましておめでとう。あっ、あけましておめでとうございます」
先にやってきたのは悠斗。俺と瀬奈の後ろで、リビングから顔を出した両親へと丁寧に新年の挨拶をしていた。
「悠斗もあけおめ」
「あけおめ。かおりんはまだだから、一旦上がって待ってて」
「オッケー。そうだ、うちの両親から手土産持って行けって言われたから、家族で食べてくれ」
悠斗は靴を脱いでから、手にしていた袋をこちらに渡してきた。
「手土産って、そんなの今まで持ってきた事も無かっただろ。それにもらう理由もない」
「何言ってるんだよ。俺のレベルを上げてくれてるだろ。俺は武器防具の制作依頼を作業費0で受ける形で返してるけど、うちの両親としては何も返せてないからせめて手土産くらい持って行け、ってうるさかったんだよ。そういう理由だからとにかくもらってくれ」
そう言われると断りにくいな。
それ以上は何も言わずに手土産を受け取る。中身を確認して、大丈夫なやつだったら車の中で食べるか。
おっ、一口サイズの和菓子だな。これなら車の中にポロポロこぼす事もなさそうだ。
ピンポーン
しばらくリビングでテレビを見ながらのんびりローストホースを食べていると、かおりんがやってきた。
「あけましておめでとうございますっす。瀬奈ちゃん、祐也さん、悠斗さん。今年もよろしくお願いしますっす」
「かおりん、あけおめ。今年もよろしくね」
「あけおめ、今年もよろしくな」
「香織ちゃんも、今年もよろしく」
「「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。いつも香織がお世話になってます」
大人同士の挨拶を横目に、俺はコートを取りに部屋へと向かった。
部屋から戻ってくると、俺以外のメンバーの姿は玄関には無かった。
「もうみんな先に言ったわよ」
「分かった。じゃあ行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
玄関の扉を開けて、深夜の寒空の下に出た。寒さが身にしみる……事は無い。ステータスが上昇した影響か、冬の寒さも夏の暑さも以前ほどは感じないようになっていた。
ステータスって不思議だよな。
そんな事を考えながら家の前に止まっていた車へと乗り込んだ。
鹽竈神社へと向かって車が走り出すと、さっそく悠斗にもらった和菓子を取り出して、一口でパクリと放り込む。
「あっ、祐也さんだけズルいっす!」
「悠斗からの手土産だぞ。ほら、みんなも食えよ」
和気藹々とした車内で和菓子を分け合いながら、車は目的地へと進んでいく。
(今年もよろしくお願いします。もっと強くなって、もっと美味しい料理を食べて、もっとダンジョンの深い階層に進んで、もっとスゴイ絶景を見たいです)
(今年も祐也さんと一緒にダンジョンで活動していきたいっす。できればずっと……)
(料理の腕を上げたい。ついでにいろんなモンスターの肉を料理したい)
(全国大会優勝。全国大会優勝。全国大会優勝)
鹽竈神社の本殿での初詣を終えて、駐車場へと向かって歩いていく。
「祐也さん、今度の遠征はいつ行くつもりっすか?」
後ろを歩いているかおりんがそんな事を言ってきた。
「まだ決めてないけど、どうして?」
「事前に、早めに、聞いておくべきって思ったっす」
「確かに。いつも突然だもんね」
次の遠征か。まだ行ってないのは富士山と紀伊だな。
行くとしたらいつも通り2ヶ月くらいか。そう考えると、1月中旬から3月中旬に行けば春休みの瀬奈と悠斗のレベリングに間に合うな。全然かおりんのレベリングができないけど。
これから深層を進んでいくにあたって、俺のステータスを上げられるだけ上げておくのは悪い事じゃないし、いつか行くなら早く行った方がいいだろう。
「何を悩んでるんすか?」
「いや、冬休み明けから遠征行くのもありだなって思ってな。ただ、その場合はかおりんのレベル上げが全然できないなーって思って」
「はぁー、そんなの気にしないでいいっすよ」
「でも、その場合は帰ってきたらすぐに春休みだから、かおりんのレベル上げの時間が少ないだろ?」
「もう、何言ってるんすか。私たちは祐也さんのおかげで楽に、安全に、超々効率よくレベル上げしてるっすよ。これ以上欲張ったらバチが当たるっす。祐也さんは祐也さんがやりたいようにやるべきっす」
「そうだよ。それに、もし罪悪感があるなら、19層より効率のいいレベル上げの階層を見つければいいでしょ?」
「確かにな。それで香織ちゃんを放置した分の経験値を取り戻せばいい」
瀬奈と悠斗が賛成するのは分かるけど、当事者のかおりんも賛成か。
「分かった。それに、かおりんが高校卒業する前に遠征しておいた方が良さそうだもんな」
「……どういう事っすか?」
「遠征は長期間のダンジョン生活になるけど、それに付き合わされるのはイヤだろ? それに、10層くらいまでのモンスターを相手にしてもかおりんのレベル上げにとっては非効率だから、いない時に終わらせた方がいいだろ」
今後の事を考えると、かおりんがいない時に遠征しておいて、なるべく多くのモンスターを上限まで吸収しておいた方がいい。
よし、そうなったら春休み後は富士山。夏休み明けは飛騨に行くのがいいかな。
「……へぇー、まっ、その通りだからいいんじゃない?」
「そうだな。俺たちが高校卒業する前に遠征しておけ、しておけ」
そういう瀬奈と悠斗の声は、どこか笑いをこらえているように感じる。
「何か変な事言ったか?」
「いや、気にしないでいいぞ」
「そうだよ、ねぇかおりん!」
「ちょっ、こっちに振らないで欲しいっす、瀬奈ちゃん!」
後ろを歩いている瀬奈とかおりんがわちゃわちゃしてる。本当に仲がいいよな。
そう言って隣を歩く悠斗を見ると、やっぱり悠斗の顔は笑っていた。いや、ニヤニヤしてる感じか?
「何だよ?」
「いやぁ、仲がいいなって思っただけだ」
「まぁ確かに、瀬奈とかおりんは仲いいよな」
「……そうだな」
寒空に白い息が広がっていくのを見ながら、引き続き駐車場に向かって歩いていった。
コソコソッ
「高校卒業後も、パーティー組んでくれるみたいだねぇ、かおりん」
「瀬奈ちゃん!」
「ごめんごめん。まぁ祐也にとっては当然の選択みたいな感じだけどね」
「……そうっすね。いつまで一緒に潜ってくれるのか不安っすけど」
「頑張ろうね。私は料理でしか力になれないけど」
「そんな事を言ったら、私は荷物持ちだけっすよ。瀬奈ちゃんの方が重要っす」
「お互いにもっとレベル上げるしかないかな」
「卒業後は瀬奈ちゃんももっとレベル上げるっすか」
「かおりんのレベル上げの邪魔にならない程度でね」
レベル上げというか、2人の時間を邪魔しない程度にね。




