101話:認定制度
配信を始めて約1ヶ月。バタバタしていた協会は少し落ち着いたようだ。まぁ、そのバタバタは大体俺の配信のせいなんだけどな。
「ようやく制度が決まったから、早速テストに付き合ってもらうよ」
事前に聞いていたが、今日は認定制度の試験をする。正確には、認定制度の試験の運用テストをしたいそうだ。
試験内容は聞いているが、これで問題がないか認定を受ける側としての意見を欲しいと言われている。多分大丈夫だとは思うんだけど。
「今日はよろしくな、伊藤君」
伊達さんの執務室で共に待っていたのは、伊能支部長。
今回のテストの被験者、要するにレベリング対象はこの2人だ。2人とも協会の偉い人ではあるが、ダンジョンが出現した時には既に50歳近かったそうだ。そこから冒険者になってレベル上げをしようとは思わない。
むしろ、この2人は霞ヶ関で官僚としてバリバリ働いていたそうなのだから、レベル上げなんてしている暇は無い。ダンジョンが現れた直後に情報整理をしたり、協会を立ち上げたりと尽力していた人たちだ。
「支部長や所長という立場になって少しは楽になるかと思ったけど、最近は君の影響で忙しくなったからな。こうしてテストにかこつけてレベル上げの恩恵に与かるくらいはいいだろう」
「そうですね。レベルが上がれば仕事のスピードも上がりますから、誰にもデメリットはありません」
いや、俺にはメリットも無いんだけどな。まぁ、協会との友好な関係というのがメリットか?
「じゃあ、早速行きますか。予定通り、まずは9層でハヤテホースを相手に一戦してから、13層に移動してクラッグベアを相手に数戦するという事でいいですね」
「それで頼んだぞ」
「実際にダンジョンに入っても1層までだったから楽しみね」
魔導鋼とジェラルミンの合金で作られたプロテクターを身に纏った2人の顔はとてもニコニコしている。それだけレベリングが楽しみって事でいいんだよな。
2人に加えて、その様子を確認・記録する職員として連れてこられたのは、前回の支部長との対面の時にもいた東北支部の伊達さん。この人はいつも付き合わされてて可哀想だな。
ドローンも飛ばして録画しているんだから、付いてくる必要ないんじゃないかな。
階段を4人で降りていき、9層に到着した。
「じゃあ行きましょう。ハヤテホースの突進を受け止めますんで、合図したら一発ずつ攻撃を当てて下さい」
「分かった」
「近づきすぎないようにするわ」
伊能支部長は口数が少ない人だ。移動中も全然話さないし、俺への返事も必要最低限しかしない。
一方の伊達所長はいつも通りだな。足取りも軽いし。
俺を先頭にして、数m後ろを3人が付いてくる。
相手はハヤテホースだし、後ろに逸らす事はありえない。だから、何かあった時にすぐにカバーできるように近めの配置で進んでいく。
ドドドドッ!
「はい、来ますよー」
「お、おう」
「来るわね……」
遠くから近づいてくる足音に気づいた2人の声からは、緊張感が漂っていた。
俺は剣を持たずに両手をぶらぶらさせて待ち構える。
木の奥から姿を現したハヤテホース。
しっかりと俺をターゲットにして一直線に突っ込んできてくれたので、両手を前に差し出す。
ドン
ハヤテホースの突進を両手で受け止める。
以前は剣を使っていたけど、今では素手でも余裕だ。
「どうぞー」
「お、おう」
「目の前で見るとすごいわね……」
「うへぇ……」
2人だけでなく、記録係の伊達さんも驚いている。伊達さんくらいの年齢ならダンジョンでレベル上げしててもおかしくないけど、やってないんだろうか。それか、9層まで来れるほどのレベルじゃないのか。
俺の言葉を受けて、伊能支部長が駆け寄って、手にした槍をハヤテホースの胴体へと突き刺した。
うん、血すら出てないけど、ちゃんと当たってる。
すぐに後ろに戻った伊能支部長から槍を受け取って、今度は伊達所長が突き刺した。
こっちも血は出てないから、貢献度はほとんど同じくらいだろう。差があったら、2人のレベルの上昇幅にも差が出るだろう。
じゃあ終わらせるか。
受け止めていたハヤテホースの頭を掴み、上へと持ち上げた。そして、そのまま真下へと叩き落とした。
ドゴンッ!
地面に頭から落ちたハヤテホース。これで死んだかもしれないが、それを待って確認するのは時間がもったいないので、地面に刺さったままのハヤテホースの首へと剣を差し込み、頭と胴体は2つに切断された。
「お2人のレベルは上がりましたか?」
「うぉっ!」
「はぁっ!?」
剣についた血を振り払って後ろを振り返ると、2人がほぼ同時に奇声を上げた。何かあったのか聞くためにそのまま待っていると。
「一体倒しただけでレベル5か」
「これがレベルアップなのね! 肩こりと腰の痛みが一瞬で消えたわ! 数年どころか、十年くらい前の身体の感覚よ!」
2人同時だったからレベルの上げ幅は小さめっぽいな。次からは1人ずつにしようか。
「じゃあ次は13層に行きましょうか」
次はクラッグベアだ。石を投げるだけでいいから、もっと安全だろう。
「1日中付き合ってもらって悪かったな」
「おかげでレベル15まで上がったわ」
「私も1体倒させてもらって、ありがとうございます」
認定試験自体は1戦でいいと思う。だが、今回は接待も兼ねているので、夕方までひたすらに13層でクラッグベアを倒していた。
伊能支部長と伊達所長はレベル15まで上がり、2人が休んでいる時に記録係の伊達さんを連れ出して1体倒させた事で、レベル9まで上がった。
「本当にあんな攻撃とも言えない投石でレベルが上がるとは驚きです。しっかりと今後の参考にさせていただきます!」
予定になかった棚ぼたのレベル上げもあり、伊達さんはとても俺に丁寧に接してくれるようになった。まぁこれからも色々とお世話になるだろうからな。
「すぐに認定制度の第一号として発表したいところだけど、この映像と私たち3名のレベル上げ成果をもって、認定会議で正式決定となるわ。会議に出す時のフォーマットなんかも決めないといけないから、公表は早くて年内って所だと思うわ」
「分かりました。タイミング次第では配信でも周知しますので、公表する前に教えてもらっていいですか?」
「分かったわ。まぁ認定されないって事は無いけど、時間がかかったらごめんなさいね」
「別に認定されても、俺には関係無いですからね。レベリングを依頼されても付き合う事はないですし」
「知り合いとか家族とかには依頼されないの?」
「パーティーメンバー以外の知り合いとは連絡取ってませんし、両親には聞きましたけど要らないって言われたんで」
「そうなのね。まぁいいわ。何か困った事があったら、いつでも相談しなさい」
「そうしますよ。紹介してくれた弁護士さんも優秀みたいですし」
「それなら構わないわ。じゃあ、今後も先に進んでいくのを楽しみにしてるわね」
俺は頭を下げて所長室を後にした。
明日は土曜日だから、かおりんとのダンジョンだな。
その前に、今日の夕飯は何かなー。
「本当に、今までの常識が壊れますね」
伊藤さんが出ていった所長室で、私は支部長と母である所長へと話しかけた。
「常識と言っても、たった5年で作られたものでしょ。壊れるのが早くて良かったじゃない」
「たった5年でも常識だったんだよ、母さん。本当に、彼の影響力は大きいです」
「彼はダンジョン関連を大きく変えていってくれそうだね」
支部長はとても満足気に、そして楽しそうにしているけど。
「そのせいで、私たちはとても忙しくなりそうですよ……」
「忙しいけれど、この忙しさは日本が良くなる事に繋がっているよ。霞ヶ関にいた時よりも、国が変わっていくのを目の前で見れていいじゃないか」
確かに霞ヶ関にいた時よりも、自分たちのする事が世の中を変えていっているのを感じる。
それだけ重要な仕事であり、やりがいも最近は感じている。
「彼をどう守っていくか、彼の影響をどう活用していくか。モタモタしていたら、彼はどんどん先に進んでいってしまうよ」
さすが支部長。こういう状況にも慣れているんだろうな。
2人ほどの実力も経験もないけど、自分には若さだけはある。レベルも上げてもらった恩もあるので、その分の働きを彼に返さないといけないな。




