096 ▲(☉) 家族会議+香穂里
私が思っていた以上に、香穂里は冷静さを保っていた。
だから逆に私の方が驚きを隠せないで父親の話しをソワソワしながら聞いてしまっていた。
何だろう …… 今年に入ってから、香穂里は急激に大人になった気がする。
今までだったら、香穂里の父親のことを円達が(冗談で)馬鹿にしただけで本気で怒っていたというのに、何でこんなに冷静で居られるのか不思議なくらいに、香穂里は父親の話しを良く聞いていた。
だけど、納得している訳ではないと思う。それは表情から窺えた。
どちらかと言えば、困惑。
今まで香穂里はずっと父親の言うことを厳格に守って生活を送ってきていた。
その父親を失くして、路頭に迷っているかのような、そんな印象。
「―― ほり、さほり!」
父親にそう言われて我に返れば、その場に居た全員が私を見つめていた。
表情は様々だったものの、それでも私を心配してくれていたのだと思うと溜め息をつく。
香穂里にとっては、大切な親族は父親だけだった。
だけど、私にはこの家族が居た。
私がここに居る理由も知っていたし、家族全員で香穂里を守ってあげようとも話し合って決めていた。
でも、それを香穂里は知らない。家族のこのような形の愛情も香穂里は知らないのだから ―― これからは、私が香穂里を導かなくてはならない。
「香穂里はボクが守るから大丈夫デショ!!」
自信満々にそう答えていたが、姉には思い切り大きな溜め息をつかれていた。両親もほぼ同時に失笑している。
どうやら返答を誤ってしまったらしい。
「そういうことではない? なら、香穂里はここを本当の家族だと思えば良いデショ!」
「お前は何を言っているのだ??」
流石の姉にも呆れられていた。
うーん、ごめんなさい、聞いていませんでした。
「行方不明になった章太郎は今、風見家に居ることを白雲運河から聞かされた」
父親の再三の説明で私はハタと気付かされた。
そして香穂里を見つめれば、香穂里は頷いている。
どうやら香穂里を運んでくれた白雲運河がそんなことを言っていたらしい。
「ただし、この現実を受け入れても尚、香穂里ちゃんに助けに行く気があるのであれば、白雲運河もある程度の情報提供はしてくれるそうだ」
「白雲運河は動かない、と?」
「多分だけど、」
そう切り出したのは母親だった。誰もが母親を見つめる。
「白雲運河と風見家には "不可侵条約" が結ばれているのではないかしら。超能力者が対立した時に、互いが平和を望むならという条件付きで、間に国際が割り入って締結される条約よ。それがもし締結されていたら、白雲運河では手出し出来なくなるわ」
占い師同士でも交わされるのよね、と付け加えて母親は父親を見た。
父親は納得した表情でこめかみを押さえる。
「拘束という犯罪なのか、任意同行なのか、が解らないから白雲運河も手が出せない、と」
「それだけではなさそう」
不意に姉がそう呟いた。
「いや、実は数日前に日本の政府から国際に、風見家の黒い仮面の件で緊急事態宣言が出されたらしい。が、国際はそれを全面拒否。それどころか、世界各国で暴徒が相次いで出没。各国内部の処理で追われていてそれどころでは無い、と突き返されたらしいよ。調べたら、確かに世界中のあちらこちらで日本と同じような黒い仮面による暴徒が起きている」
「国連との伝達が遅れているから白雲運河も動けない、ということか」
「そういう件も絡んでいるかと」
父親の発言に頷いて答えた姉は続ける。
「だから、白雲運河では助けてくれないと思う。だからと言って、風見家の主 ―― 死神相手に普通の超能力者が太刀打ちできるとは思えない」
「じゃぁ姉はボク達が関わることに反対と?」
私は怒りをぶつけるように姉にそう訊ねた。姉は頷く。
「そもそも、風見家は属性神の核を集めて何をしようとしているのか …… それが解らない限り、下手に動かない方が良いとは思う。白雲運河だって、その理由に関しては何も言わなかったのだろう?」
「この世界のバランスを崩すこと」
不意に香穂里の口からそんな言葉が漏れた。
驚いて全員が香穂里を見つめる。
香穂里が、哀愁漂う表情で、金色の目をして私達を見る。
「属性神は、世界の自然に深く関与している。
属性神の核を奪われたら、この地球という環境が全て崩れてしまう。
だから、絶対に守らなきゃいけない。
でも、」
そこまで言った香穂里は、急に唸って頭を抱え込んでいた。
私が慌てて席を立って香穂里の肩を支えるように持ったものの、その魔力の重圧で私が倒れそうになる。
『本物の死神に、会わなければ ……』




