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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
大襲撃からの焦燥感
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088 ▲ 気配を掴む *

 家に帰ってすぐに嫌な予感がした私は、鞄を置くことも忘れて真っ先に書斎の部屋のドアを開けていた。


 私の予感は大当たり。

 香穂里は書斎から姿を消していた。

 布団はしっかりと綺麗に畳まれてある。


 書斎の最奥の机の上にある窓が全開でカーテンを心地よさそうに揺らしている。


「里子さん、里子さん!!」


 私は母親の名前を呼びながら慌てて階段を降りる。

 私の声に驚いたのか、母親は階段下でこちらを覗き込んでいた。


「どうしたの? そんなに慌てて ……」

「香穂里が居ないのだが?!」

「…… え?」


 母親は目を丸くしたまま固まっている。そして、首を傾げた。


「結界から出た感じはしなかったのに …… 家に居た私が気付かなかった何て ……」

「原因探っている場合じゃないだろ! とりあえず探しに行くから、後はお願い!!」


 そう言いながら私が母親の脇を通り抜ける。


 が、通り抜けてからすぐに母親を振り返った。

 母親も同じことを思ったのか、ほぼ同時に目を合わせて声を出す。


「その前に着替えなきゃ」 「着替えてからにしなさい」


 ―― これだから、この家族は面白いのだと思う。



 着替えて飛び出した私は、そのままの勢いであちらこちらを走り廻った。


 だけど、見つからない。


 もっとも、香穂里の ―― もとい、怪盗ホーリーのことだ。

 普通に見つけ出せるとは思っていない。


 だからまた走り出そうとした、その時だった。


『気配を掴め!』


 不意にそんな声が聴こえて来た。

 しかし、その一言だけで他は何も聴こえては来ない。


『…… 気配を掴むって、どういうことですか?』


 思い切って聞いてみた。

 テレパシーを使える人なら誰でも構わなかった。


 立ち止まるような人は居なかったものの、いくつかの返答はあった。


『テレパシー何て何年ぶりかしら。気配は想い。相手を強く想えばオーラが反応するのよ』

『血縁関係がある相手なら容易だが、友達ってだけじゃぁ難しい』

『何? 人探し? それなら万屋に頼んだ方が手っ取り早いよ? まぁ多額高額必須だけどぉ』


 他にも様々な声が返って来たものの、どれもその方法という訳では無かった。


 だから諦めて、私は走り出す。

 とはいえ、人混みには居ないだろうと考えて、一先ずここから離れることにした。


 信号を渡り、()()()裏通りのための路地に入る。

 そのあたりで、独りの小学生くらいの少女が座っていた。


 まるで私を待っていたかのように顔を上げる。


「これが気配を掴むと言うことだよ、お姉ちゃん」

「っ?!」


 驚いて声にならなかった。

 少女が手にしていたモノは、家に来たばかりの香穂里が身に着けていた破れた帽子だった。

 その帽子を抱えていた少女は、それを私に突き出している。


「怪盗ホーリーは悪くないの。だから、怒らないであげて」

「怒ってなんか …… むしろ、助けたくて ……」


 少女の正体よりも、私は香穂里に繋がる手掛かりが欲しかった。

 帽子を受け取ってその想いが通じたのか、少女はニコリと微笑む。


 その少女の目は金色に輝いていた。


「この奥に祠があるの」


 そう言って少女は路地の奥を指す。

 ビルとビルの間に伸びる真っ直ぐな道の先には、確かに小さな祠のようなモノが建っているようだった。


「祠の前でその帽子を持ったまま、祈り続けてみて。きっと、祠の神様が怪盗ホーリーの居場所を教えてくれるから」


 言われた通りに私は歩き出す。

 そして、数歩ほど踏み出してから、我に返って少女を振り返った。


 ところが、先程までそこに居た少女は既に居ない。しかし、手にしていた香穂里の帽子は健在していた。


 ―― もしかして、あの少女が祠の神様だったのではないか?


 不意にそんな気がして祠を見つめた。

 しかし、真実は解らない。


 そんな祠は不思議と光を放っているように思えた。


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