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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
大襲撃からの焦燥感
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087 ⛩(☴) 純と外出

 夏季休業目前。

 自由参加型の特別授業が終わっても、どんなに空が雲ひとつない晴天でも、今日の私の心は曇ったまま晴れることはなかった。


 相談をするにも、円も瞳も休みなら、咲九も花菜子も休んでいるのだからどうしようもなくて。


 何故か今は、美川先生の荷物を運ぶ手伝いをしている。


「悪いわねー」

「あまり気にしていませんから、もうその台詞は良いです」


 こんな気持ちだったからか、普段以上に毒舌になっているのだと自分に言い聞かせた。

 隣を歩く美川先生が失笑している。


「そんなに1人で何を悩んでいるのかしら …… 先生には解らないけど、」


 解って欲しくも無いわ!と心の中でツッコミを入れていたら、


「八つ当たりも程々にしておかないと、他のクラスメイトからも反感を買ってしまうわよ?」


 言われてみれば、確かに今日一日、私はずっとこんな物言いだったかもしれない。


「先生がこんなことを言ったら怒られるかもしれないけど、宮本さんは凄く良い生徒だと思うの。何事にも器用だし、冷静だし、お淑やかだし、勉強も運動能力も芸術面も、非の打ちどころがないくらい完璧で優秀な生徒よ。だけど、何と言うか …… 先生からしてみれば、逆にそれが怖いのよね」

「・・・」

「本音を言わないから理解がしにくいというのかしらね。だから、宮本さんにはお友達が多くても、皆から信用されて頼られていても、宮本さん自身が本心から信用出来る親友はいないのではないかしら?」


 ―― そんなこと、どうでも良い。


 所詮、親友も友達と同じ。人間の上辺と噂で他者を評価するのだから居なくても良い。

 本音は家族に話せばそれで良い。後は家族の皆で考えて一般的な解答を導き出せるのだから。

 家族に話せない内容なら、その道の専門家 ―― 咲九や円に話せば良い。


 だけど、何故かは解らない。

 私は凄く、凄く …… 美川先生のその言葉が気に食わなかった。


「じゃぁ、先生にはそんな親友が居るのですか?」

「居るわよ?」


 あっさりと返答されてしまって、次の言葉を考えてはいなかった私は黙る。


「社会人になるとなかなか会えないけどね。それでも私は無二の親友だと思っているし、相手もそう思ってくれていると思う。同じ教師をやっているし、ね」


 そう嬉しそうに答えられてしまったら、私が返す言葉は無かった。



 家に電話を入れてから学校を出て、最近の日課になりつつあった地下鉄で甘袋駅に出る。

 ここは巨大ターミナル駅、1日あたりの乗降人口が日本一と言われるだけあって、平日の日中だというのに凄く混雑している。


 とはいえ、そんなことにも慣れていた私はぶつかることもなく、待ち合わせ場所に指定した、駅前にこぢんまりと立つ割には有名なキャラ "甘フクロウ" の銅像を覗き込んだ。

 しかしこの銅像、何故か同じ東口に2ヶ所もあるので足早にもう1ヶ所の銅像に向かう。


「ごっ、ごめんなさい ……」


 か弱そうな震えた声がして振り向けば、そこには柄の悪い集団が誰かを囲っていた。集団は平然と会話をしているものの、その間から見えた制服は ―― 間違いなくウチの学校のモノで。

 この時間、許可なくこんな駅を制服でうろつく生徒、何て……


「あ、宮本さん!!」


 その集団の中から純の声がした。そして純が私に手を振っている。

 すると、集団が一気に私を睨みつけてきた。その間を縫って純が集団から飛び出してくる。


「良かった ……! こんなに人が多いところ、歩くの初めてで ……!」

「えっと、」

「いつも送り迎えだったから ……」


 話しが続きそうだったことと、そのヤバそうな集団がこちらに向かって来ることを同時に知って、私は咄嗟に純の手をとった。

 純はただただ目を丸くして驚いている。


「とりあえず!! 遅刻しちゃうからお店に行ってからにしよう?!」


 そう叫んでから、私は一目散に駅前の派出所がある方面に駈け出すことに成功した。



 私達は息を切らしながらも、結局はお店近くの公園まで走って来ていた。

 この公園の傍にも派出所があるためか、流石にあの集団もここまではやって来なかった。


 安堵の溜め息をつきつつも訊ねる。


「で? 何であんな連中に絡まれていた訳?」

「お金持っているかと聞かれたので、交通費としてお借りしたお金を入れたお財布を見せたら奪われてしまって ……」

「…… で?」

「返して下さいとお願いしたら、貰ったモノをどうして返さなくてはいけないのかと訊ねられたので、借りモノだからお返ししなくてはいけないと説明したのに、それなら私のお財布を出せと良く解らないことを言われて ……」


 純が家に来た時も、純が何も持たずに来たことを思い出していた。

 そういえば、修学旅行でもお土産を(家の事情を知っているらしい)円に買ってもらっていた気がする。


 今時には珍しく携帯すら所持していなかったから、何かあったら電話するようにお父さんが説明をして純に持たせているとは思う。

 けど、その使い方が怪しかったから練習をしていた気もする。


 ―― 本当に、今まで良く生きて来られたなぁ。


「お財布 …… どうしよう ……」

「いくらくらい入っていたの?」

「3千円」


 そこは解るのか、何て思いながらも安堵の溜め息をつく。

 お父さんも何かを察したのか、流石にお財布を丸ごと貸した訳ではないらしい。


「そのくらいなら問題無いよ …… お父さんには、私が事情を説明してあげる」

「でも、」

「大丈夫だって。それよりも、少しは落ち着いた?」


 私が走り出してすぐに、純は恐らく能力を使って私よりも速く走ってしまっていた。

 でも、駅前から公園までの人混みを回避出来るほど慣れていないことは、すぐに解った。だからやんわりと注意したものの、極端にしか能力を出すことが出来ないらしく、真っ先に根を上げたのは純だった。


 それでも公園まで頑張らせたのには、きちんと理由がある。


 柄の悪い集団は、全員が揃いも揃って黄色のスカーフを巻いていた。あれは甘袋に屯っている …… 簡単に言えば暴走族のようなモノで、スカーフの色ごとに縄張りが決まっている。その中でも、黄色は最近になって駅前を違う族から超能力で奪い取った集団ということは耳にしていた。

 もしあの駅前で問題になっていたら、私のお世話になっているお店にも影響は少なからず出てしまっていただろう。


 それから、この公園はそれら集団の範囲の外で、この地域一帯は "旧聖地" と呼ばれる非戦闘区域に指定されているため。

 要するに私の神社と同じで、この公園の隅にある祠が放っている結界によって超能力者が能力を上手く使えないように制限されている、ということ。


「そういえば、遅刻 ……」


 純が思い出したかのように呟いたが、


「あぁ、あれは嘘。とりあえずあの場を切り抜ける為に使ったの。だって、純がお店に行くことすら伝えていないし」

「それは大問題だと思うのだけど …… 嘘は良くない」

「でも、嘘でも付かなかったら私まで巻き込まれていたかもしれないでしょ? そうなっていたら、今頃はお金を全て巻き上げられて家に帰れなくなっていたかもしれないじゃない」


 そう答えながらも私は自分の鞄の中の財布を確認した。財布の中には服が3着買えるくらいには常に持ち歩いている。だから純の交通費分を出してあげるくらいは余裕だと思う。

 それに、何かあっても良いように防犯ブザーや催涙ガスを持ち歩く私は偉いと自分を褒めた。


 もっとも、私の顔をあの集団の誰かが気付いたとしても、お店の子だと気付いたとしても、公園の祠を守る馴染みの店長と、その近隣のお店の店主がある程度は守ってくれると思うが。


「さて、行こうか」


 その私の一言に、純は嬉しそうに大きく頷き返してくれた。


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