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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
大襲撃からの焦燥感
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084 ▲ 遠音の家へ (*)

 学校に来ない遠音を心配して、数日前の休憩中に数通ほど遠音にメールを送っていた。

 だけど、返事はまだ無い。


 もっとも、学校を休んでいるのは遠音だけでは無かった。今日も同じ欠席者の席を見て美川先生が溜め息をついている。

 まぁ、この光景もあと1日で夏休みを迎えるが。


「今日も、麻生さん、来生さん、岸間さん、如月さん、永瀬さん、風見さんの6名はお休みです」


 クラスメイトの何人かが学年閉鎖になるのではないかと言っていたくらいに、他のクラスでも数人ずつ欠席を続けているらしい。

 もっとも、円は仕事で、瞳は海外での仕事(という名の夏季留学)で、風見さんは骨折をして休んでいる、とは聞いている。

 香穂里の屋敷の火事のことはニュースに取り上げられていたこともあって噂にはなっているが、私の両親が美川先生に何と言ったのかは知らなかったものの、このことについて私が他言することは無い。


 問題は、千尋ですら事情を知らないという如月さんと遠音のことだった。



 寄り道は校則違反だったものの、流石に友達を心配して訪ねる場合には注意されないとは思う。

 だから午前のみの授業を終えて、私は独りで遠音の家に向かった。


 マンションの最上階まで上がって一番手前の部屋のインターホンを鳴らす。

 だけど、誰も居なさそうだった。


 しばらく待ってみたものの、そもそも人の気配すらしない。


 諦めて帰ろうとエレベーターのボタンを押して待っていたら、ハゲた大柄の男性が大欠伸をして中から現れた。

 私は何となく、訊ねてみる。


「あの、もしかして永瀬さん …… ですか?」

「…… え?」


 男性は振り返り、凄く小さな私を見る。


 しばらくの沈黙の後。


 制服で理解したのか、あぁ、と言って頷いた。


「もしかして、遠音のお友達?」

「はい。同じクラスの本谷と申します。あの、遠音さんは ……」

「あー ……」


 痒いのか、男性は何度も頭を掻きながら、どうしようかという感じで悩んでいた。

 本当に男性は悩んでいるだけなのだろうが、その姿があまりに滑稽で笑いそうになるのを我慢する。


 しばらくして、


「ここで立ち話も何だし …… 家の中を見てもらえば早いかな」


 そう言いながらも、男性はポケットからキーケースを取り出していた。


 遠音の家の中は凄く散らかっていた。

 私は唖然としつつも、平然とそれらを避けながら男性が目の前を真っ直ぐ歩いてリビングに向かっているので、私もそれに続いた。


 そして開け放たれていたリビングは、更に悲惨な光景になっていた。

 窓ガラスの破片も凄くて、一歩もリビングに踏み出せていない。


 リビングは、あちらこちらに血飛沫が飛び散ってしまい、床だけならまだしも、壁にかかっている傾いた絵画にも生々しい痕跡が残っていた。

 しかも、ベランダに続くガラス戸は完全に砕けている。そこから風が吹き込んでいた。


「これは ……」


 誰がどう見ても争った痕だった。しかも、かなり広いリビング全てが使われたと思われる痕跡が生々しく残されている。

 ここまで広範囲になってしまったのなら、誰がどう転んでも超能力者同士の闘争としか考えられない。


「あまり驚かなかったということは、こういう関係にはある程度の耐性があって慣れている …… ということで良いかな?」


 男性は私の返事を待つことなく、そう言って溜め息をついた。


「琴音 …… 妻からある程度の話しは聞かされていたから、何れこうなることは解っていたけどね」

「黒い仮面、ですか?」


 恐る恐る、私は男性に、遠音の父親に訊ねた。

 香穂里の件もあって、事件と言えばその単語しか出て来なかった。


 遠音の父親は頷く。


「風見家の死神が神々の核を狙っていたことは、仕事の長年の経験と、俺の雇い主が情報屋という理由から知っていた。だが、まさか遠音が神の核を持っているということは最後まで見抜けなかったね」

「遠音が?」


 遠音が神様の1人。そして、あの金色のオーラ。

 金色のオーラは発見されている属性の中で1つしか思い当たらない ―― 滅多に居ないと言われている雷の属性で間違いないだろう。


「妻も神様だったらしい。このことを伝えられたのは2週間くらい前のこと。妻に言われたのは、『近い内に風見一族の手の者がやってくるかもしれない、そうなったら私は遠音を連れて避難する』ということだった。事件があったのは丁度1週間前のこと」


 1週間前といえば、香穂里の屋敷が襲撃された日でもある。その時に遠音も襲撃されていたとは、ただの偶然には思えない。

 ただ、それでも事情を知って安堵はしていた。


「逃げる? じゃぁ遠音は無事?」

「無傷では無いだろうが、ね」


 そう答えた遠音の父親は力無く笑った。

 もっとも、それはこの状況を見れば私でもそう思う。


「俺は逃げたのだと信じているが、俺の仕事先の上司の話しだと、拘束されている可能性もあるそうだ。まぁ、どっちにしても命は無事らしい」

「良かった」

「ただし、」


 遠音の父親は表情に影を落とす。


「風見一族の死神は洗脳という術を使うらしい。あの黒い仮面の集団も洗脳によって統率がとれているだけらしい。もし命が無事だったとしても、その洗脳にかかってしまっていたら ……」


 ―― 遠音が敵に回るかもしれない。


 ふと、そんな考えが頭に浮かんだ。

 でも、何でだろう。全く想像出来ない。


 それにしても、死神は洗脳まで出来るのか。

 黒い仮面で他者を操れて、更にその意識まで洗脳出来るなら、黒い仮面の集団はそれこそ最強の超能力者じゃないか。


 不意に、嫌な予感がした。


 死神は風見家の頭領。超能力者の一面を持つ風見さん。

 黒い仮面の集団がニュースで毎日のように報道されるようになったのは、あの火事が起きる前日の、1週間ほど前の話し。

 そしてあの火事の日から欠席している風見さん。


 ―― もしかして、今頃は風見さんも洗脳されているのでは?


 もし洗脳されている可能性があるのであれば、これから先、どこかで戦う可能性も高くなる。

 いや、香穂里は何も言っていないけど、もしかしたら香穂里は既に戦っているのかもしれない。だから未だに何も言えないのかもしれない。

 でも、これらは全て私の憶測。まだ決定打に欠ける。


 私がしばらく悩んでいたことで、遠音の父親は黙って部屋を片付けていた。

 が、不意に私を振り返る。


「そうそう。遠音、携帯を置いて行ったみたいでね」


 こんだけの惨劇中に携帯を掴む余裕何て無かったのでは …… 何て思っている間にも、遠音の父親は自身のポケットから遠音の古びた携帯を取り出しつつ、私の前まで歩いて来た。

 見せられた携帯は確かに遠音のモノだった。何通か未読のメールが届いているらしく光っている。(恐らくは私が送ったメールだろう。)


「(見ても良いかな …… いや、誰からメールが来ているかくらいは、大丈夫だよね!)」


 お借りして、私はメールを一覧表示する。

 すると、それは驚くことに如月さんと遠音の母と私からだった(丁寧にも名前の後に "(母)" と書かれてあったのですぐに解った)。

 7日前の如月さんと私のメールは良いとしても ……。


「(待てよ? 遠音の母親からこの携帯にメールが来ているということは、即ち2人は一緒に居ないということ。しかも昨日も一昨日も来ている何て …… 件名も意味不明だし。暗号にしては違う気もするし …… どう考えても怪し過ぎるだろ、このメール ……!)」


 いつの間にか、遠音の父親はテレビの上の家族写真を立て直していた。

 家族写真には3人と一緒に観覧車が写っている。その写真には、恐らくハゲる前の遠音の父親の姿もあったが、私は携帯の電源を手元の操作だけで黙って消した。

 電池が無かったからというのも1つの理由だったが、それ以上にこの携帯を持っていたらしい遠音の父親にも警戒している。


「貴方は、携帯を覗かなかったのですか?」

「え? あぁ、だって遠音の携帯だからね」


 遠音の父親は平然とそう答えてから私を振り返る。


「それ、君が持っていてくれないか?」

「…… え?」


 警戒していただけに、私は思わず唖然とする。

 その理由はすぐに答えてくれた。


「こう見えても私は記者をやっていてね。だから殆ど家には戻って来ない …… 職場で寝泊まりするくらいに、例の件で今は忙しくてね。ニュースで連日報道されている通り、事件・事故も多いし。だからもし、街中で遠音を見つけるようなことがあれば返してやってほしい。例え洗脳されたとしても …… そのお気に入りの携帯を見たら、何か思い出すかもしれないし、」


 確かに、この携帯は遠音のお気に入りだった。

 ボロボロだから機種変更しないのかと訊ねた時にも、確かそのような返答だった気がする。


「それに何となく、君なら遠音に出会えそうだから」


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