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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
大襲撃からの焦燥感
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082 ☉ 無知からの羞恥心

 家が全焼した。

 でも、黒い仮面の目的は、間違いなく私だろうとは思っていた。


 先に家を出たはずのメイドが攻撃されたものの、それはあくまでも一瞬の話し。

 その後に続いて私が出た時には、そのメイドを襲っていた者も私を振り返っていた。


 標的は、私。

 黒い仮面の誰もが刀を携え、隠遁と変化の術を巧妙に使い、私は何度も騙されて殺されかけた。


 その何度目かの経験のお陰で、信じられる者は居ないのだと思って必死で逃げた。

 途中で何人もの超能力者が助けてくれた ―― だけど、その誰もが黒い仮面の攻撃を受け、傷付いていった。


 その中で垣間見えた、肉付きの良い男性陣と、土壁を扱う赤いシスター。


 男性陣は見事な連携プレーで、追手だった黒い仮面の半数以上の視線を逸らしてくれた。


 その残りの大半から完全に遮ってくれたのは、小さめの赤いシスターだった。

 一瞬しか見えなかったものの、怪盗ホーリーの時の私と同じような赤い面をしていたと思う。


 その2組が居なかったら、少しでもタイミングがズレてしまっていたら、私は助かっていないかもしれない。そう思い出しただけで怖かった。


 それに、今もまだ、紗穂里の家に来てしまったことを後悔している。


 出来る限りオーラを消し、出来る限り気配すら絶っている。

 でも、まだ足りない。もっと、もっと、存在自体を消せるようにならなくては ……。




「前から聞きたかったんだけど、アンタ、私に喧嘩吹っ掛けてんの?」


 始業式から1週間くらい経って、私は目の前の相手にぶっきらぼうに声をかけてみた。

 長い髪の相手は頭を傾げ、それから自分の席に座る私を振り返る。


「今のは私に言ったの?」

「この教室に今、アンタ以外に誰が居るのよ?」


 それは放課後の日直当番の仕事中の話し。

 出席番号順に2名ずつ回って来る日直は、例え嫌な相手だったとしても避けられない係の仕事だった。

 それなのにも関わらず、あの担任は日直の説明すら如月にしていなかった。だからこうして日直の仕事を如月にやらせながらも教えてあげている。


 ちなみに、その最も面倒な1日の授業の流れと、日直だけが書く日記。それを如月に書かせている時に聞いた。

 しかも、その日は永瀬も紗穂里も部活動で居ないどころか、いつもなら教室に残っている生徒まで私の苛立ちを察してか、綺麗に掃けてしまっている。


「喧嘩なんて …… それどころか、結界で気配を薄くしているはずなのだけど」

「私にはそう思えないんだけど。むしろ、その結界って私に対しての当て付けじゃないの?」

「…… あぁ、そういうこと?」


 どういうことだよ!とツッコミを入れようとしてハタと気付く。

 あの如月が、見えていた結界をあっさりと解いていた。


 —— しかし、


「内側にも結界がある、何て……」


 思ってもいなかったことだった。

 そもそも、結界の中に結界を張る何てことは普通の超能力者ではまず無理。だから、結界だけに特化した者だということが良く解った。

 ちなみに、薄くても結界を五重にされたら私の炎はまず通らない。


「…… そこまで私が警戒されている、ということで良い?」

「警戒していたら結界何て解かないわよ」


 呆れた様子で如月は答えていた。言われて、私も気付く。


「それなら、何で結界を?」

「言ったでしょ? 気配を薄くする為よ。…… 超能力者なら解るでしょ? 自分の魔力が表面に流れていることを。その魔力を抑え込む為に自身に結界を張っているの」


 如月から流れ出るオーラは、確かにその強さを示していた。だけど、抑え込む為の内側の結界のはずなのに、何故か私と同じくらいのオーラが今も出ている。

 即ち、如月は私よりも遥かに段違いの相手なのだと思い知らされた。


 ―― それでも、戦いたいと思ってしまう。


「呆れた戦闘本能ね」


 如月はそう答えて面と向かう体勢を取る。


「お姉さんがそれを望むなら相手になっても良いけど、」


 そう言った咲九は私の目を真っ直ぐに見ている。


「…… けど?」

「私の持っているお姉さんの情報と同じくらい、お姉さんが自分のことを知ってから、という条件を付けようかな」

「…… は?」


 私は意味が解らなくて唖然とする。

 しかし、如月は納得した表情で頷いていた。


「訳わかんないんだけど!」

「うん、解らないでしょうね。じゃぁ訊ねるけど、」


 如月は金色の目に変化する。


 ―― 金色の目は、神様の証し。


「お姉さんは自分のこと、全て理解していると思う?」


 瞬時に背筋を凍らせた。


 何度もパパは言っていた ―― 神にだけは喧嘩を売ってはいけない、と。

 そして、今の言葉。


 確かに、私は自分の過去を知らない。だけど、それを知っているのは自分だけだと思っていた。

 が、この如月はそのことを言っているのだと瞬時に悟らされた。


「解釈が若干違うのだけど、まぁそれでも良いか」


 如月はそう言いながらもニッコリと微笑んでいた。



 あの時は、如月が私のことを嫌いなのだと思っていた。だけど、今思えば私が勝手に嫌いだと思い込んでいただけ。

 如月は私に対して何とも思っていなかった、というのが正しいのかもしれない。


 むしろ、勝手に嫌っていたのは私。永瀬を奪われて回りが見えなくなって ―― そう思い込んでいた。

 でも …… 永瀬は追われることが嫌いなのだから、追い駆けてしまっている私のことは嫌いなのかもしれない。気配を薄くしている如月も、もしかしたら永瀬と同じで追われることが嫌いなのかもしれない。

 だから付かず離れずの一定の距離が保てる如月と仲が良いだけかもしれない。


 修学旅行中、不意にそんなことを思ってしまってから、私は自分の愚かさに気付かされていた。

 だから永瀬との距離を学ぼうとして如月とも一緒に居た結果、如月の真の強さを知って愕然とした。


 如月みたいに強くなりたいと願って、怪盗ホーリーとして神器を盗みに入っては、超能力者の警備員と勝負をした。


 でも、弱い。相手が弱すぎた。

 戦っても意味は無いから、強い相手を求めて何度か黒い仮面の一部に喧嘩を吹っ掛けたこともあった。


 だけど、まさか質でも数でも、返り討ちに遭うとは思ってもいなくて。

 しかも、メイドや執事まで巻き込んでしまったし、帰る家も失くしたし。



 如月のように結界を何重にも体に張れば良いのかもしれない。

 だけど、私にそんな技術は無い。


 あの後、悔しくて何度も多重結界に挑戦したけど一度も出来たためしは無い。

 そもそも、血筋的に結界という術が苦手なのだから仕方ないかもしれない。


 代わりに一時的に気配を絶つ隠遁や、結界とはまた趣旨の異なる "エン" という人払いの術を使っていた。ただし、これでは本当に一時凌ぎに過ぎない。

 そもそも隠遁は身を潜めた所に人が居たら意味が無いし、”エン" は術を知っている者なら容易に踏み込んで来られてしまう。

 攻撃や人から完全に遮断し、且つ身を守れる結界とは違う。


 だからあの時も、攻撃から自分を守れなかった。


 ―― 自分すら守れなかった自分が、この世で最も恥ずかしい。


26.3.29改修:香穂里の「遠音→永瀬」呼びへ変更


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