081 ⛩(☴) 厄介事と複雑な感情
純を連れて来た弟子に頼んで人払いをしてもらう。
それから、お父さんと私の向かい側に純が座り、事情を聞いた。
だけど、お父さんも私もただ黙ることしか出来なかった。
死神からの、実の妹に当たる純を派遣しての、自分達一族への脅迫状 ―― お父さんはそう例えて純の話しをまとめた。
「しかしなぁ」
お父さんは溜め息をつく。うん、と私も頷いた。
「属性神のことも、四大神のことも、きっと死神よりも少ない情報しか載っていないと思う。脅迫されても ……」
「兄上は、最初から私に宮本家を抹殺させるつもりで、私を派遣したのだと思う」
純はそう答えて申し訳なさそうに目線を下げる。
「情報があっても無くても、兄上はきっと …… そういう人だから」
「そういう人って言うけど …… お兄さんのこと、本当は信じたいんじゃないの?」
少し間を空けて、
「兄上を、信じたい? 私が?」
純は不思議そうに私を見て答えた。
真っ直ぐで綺麗な瞳。
だから私は、純に対して思ったことを口にすることにした。
「そう。純はお兄さんを信じたい気持ちと、恐怖から逃げたい気持ちを抱えているのだと思う。だからいっぱい悩んだ。この家に来た今でも悩んでいるんじゃない?」
純は目を丸くしていた。
それを黙って聞いていたお父さんが深く溜め息をついている。
「千尋を訪ねてやって来た友達が風見家の頭領の妹とは …… 何とも言えない心境だ。本来ならば、得体の知れない者として追い出したいところ ……」
「お父さん?!」
「だが、悩んでいるなら話しは別だ。そうだろう?
…… 隠れていないで全員、出て来なさい」
「「隠れて何ていませんよ!!」」
答えたのは先程の弟子だった。しかも、つられて何人もぞろぞろと現れる。
ある者は庭の草木から、ある者は軒下から、ある者は襖を挟んで隣の部屋から。
気付かなかった訳では無かったものの、あまりに解りやすかったから敢えて無視していただけで。
しかし、それでも呆れて溜め息をついてしまった。
「むしろ心配で警戒していました!」
―― はぁ。
溜め息をついたのは私だけではなかったのか、何故か純まで溜め息をついていた。
どうやら純も気付いていたらしく、純粋に気張っていたらしい。(純だけに。)
「可哀そうじゃないっすか! 師匠!」
「そうですよ! 俺らだって師匠に拾われなかったら今頃 ……」
「だから、警戒することを止めなさいと私は言っただけだ。受け入れないとは一言も言ってない!」
「…… 追い出したいとは言っていたじゃん」
思わずボソリと呟いた。
お父さんが私を睨み、弟子達がニヤリと笑っている。
嗚呼 ―― この会話、普段と変わりない。
本当は、こういうことが一番の幸せなのかもしれない。
これを知らない純はキョトンとしてしまっている。
本当に、純は何も知らないのだろう ―― ここに流れ着いた数多くの弟子のように。
ここに居るお父さんの弟子は、その大半が超能力者の孤児か、人間の姿に変化出来るようになって人間として生活をしたいと願った妖怪。
純粋にお父さんの弟子入りを懇願した神主見習いは今までに2人だけらしい。その2人も既に私が幼い頃にこの神社から巣立っている。
だから私は総称して "弟子達" と呼ぶものの、実際には小さい頃から一緒に育って来た家族だと思っている。
とはいえ、今は国から未成年の孤児や妖怪に対して支払われていた補助金制度が無くなったことと、家の資産の都合で新しくは受け入れていない。
だから恐らくは、純に対しても同情したのだと思う。
見た目は色んな意味で怖いけど、根は凄く優しい弟子達に興味の視線を送られている。
お父さんも受け入れる体制になっているのか、視界の片隅で私の答えを待っているようだった。
でも、私は皆のように受け入れられていない。
純の言葉を信用していない訳ではなかった。
純の真っ直ぐな目に嘘偽りは感じられなかった。
だけど …… 本音を言えば、嫌だった。
でも嫌な理由が解らない。言い訳も見つからない。
私が黙っていたら、お父さんが溜め息をついて切り出す。
「まぁ、今夜はもう遅い。弟子の明日の修行にも影響が出る。…… お前は見回りの交替の時間じゃないのか?」
お父さんが弟子の1人にそう訊ねたら、弟子はハッと我に返った様子で部屋の掛け時計を見上げ、慌てて部屋を飛び出して行く。
どうやら、夜中の見回りの交替の時間だったらしい。
弟子達や私が笑っていたのに、純はちっとも笑っては居なかった。
黙ってお父さんを申し訳なさそうに見つめている。
―― 申し訳ないと思うなら来なければ良かったのに。
そう思っただけでも苛立った。
ダメだ、この感情が先走りそう。
「純ちゃん、と呼んで良いかな?」
お父さんが純にそう振った。純が目を丸くしている。
「お風呂はまだかな?」
驚きながらも、小さく頷き返す。
それだけでお父さんは微笑み、そして弟子達を見上げる。
「ここに居る者だけで良い。一班と二班は彼女の為にお風呂の準備を、三班と四班は客間を片付けて布団の準備をしてあげなさい。残りの班や班外も不足している個所を手伝うこと」
「「了解です!!」」
一斉に弟子達が答えた。そしてお父さんの1回だけの拍手で一斉に散り散りになる。
それはあっという間の出来事だった。
ちなみに、1班あたり3~5名で構成されていて、能力の特化で分かれているらしい(詳しくは私でも知らない)。
班外は通称、雑用・雑務。私はどちらかと言えば班外と仲が良い。
「今夜は色々あって …… 千尋もまだ、混乱しているんだよ」
不意にお父さんは純にそう言った。
純が小さく、私にごめんなさいと謝っている。
―― 謝るなら来ないでよ。
「千尋も、もう部屋に戻りなさい」
『彼女にはしばらく見張りを付けるから』
お父さんはそう言っていたものの、それで安堵した訳ではない。
でも、私はとりあえず部屋に戻ることにした。




