079 ▲(☉) 逃亡の末の選択肢
私が家に着くと、家の門扉の前に蹲る人が居た。
私が近寄れば、その人がゆっくりとこちらに顔を上げる。
「香穂里?!」
私は思わず小さく叫び、そして香穂里と同じくらいにしゃがみ込む。
「どうした?!」
理由は解らない。
だけど、漫画家さんの手伝いの帰りに怪盗ホーリー姿の香穂里を発見し、黒い仮面の集団に追われていて圧倒的に不利だと直感したから、(本当は能力を使いたくは無かったのだけど)変身して倍増させた魔力で土壁を作って助けた。
いつもなら、そのまま家に帰れて何事も無かったかのように過ごしているはず。
その香穂里が、自分の家の前に居るとは思ってもいなかった。
良く見れば、香穂里は酷く衰弱している。あちらこちら顔にも腕にも擦り傷を付けていた。
「と …… とにかく!」
私は香穂里に肩を貸して立たせる。
「ボクの家に入ろう??」
家に入って早速、私は台所に居るだろう母親に叫ぶ。
すると、母親はゆっくりと出て来て香穂里を見、慌てた様子で居間の父親と2階の姉を呼ぶ。
母親と同じようにゆっくり出て来た父親と降りて来た姉がほぼ同時に硬直し、そして3人が慌てた様子で各々の思い付いたことをしに戻って行く。
唯一、母親だけがすぐに戻って来て香穂里の怪我の手当てをしてくれた。
「一体、何があったの?」
母親が香穂里に訊ねる。
香穂里はしばらく黙っていたものの、こちらが待っていれば口をゆっくりと開く。
「家が、全焼した」
「…… あのお屋敷が?」
私は耳を疑った。
あの屋敷には部屋がいくつも存在する大豪邸。それを全焼させるとは、一体何の意図があったというのか。
あまりに驚いて信じられずに居れば、香穂里は小さく頷いている。
「帰宅した直後、一気に燃えて。驚いて逃げ出した所を、黒い仮面の集団に襲われて。逃げ回ったんだけど、この傷は、相手の数にやられた。ある程度、隠れたり、逃げたりする間に、数が減っていって。何とか家に戻ろうとしたんだけど、家は全焼していたし、周囲には見張りが居たし、警官もわんさか居たし …… 当分、戻れないみたいで。諦めて野宿しようとしたんだけど、追われて、…… 気づいたら紗穂里の家が見えて ……」
「それなら、しばらくはウチに居なさい」
不意に居間から声がした。そこから父親が出て来て更に私を驚かせた。
どうやら居間を掃除していたらしく、明らかに垣間見える場所がまっさらになっている。
「屋敷の様子を見に行って襲撃されても困るだろう?」
「そうね。それに、屋敷が延焼してしまったのなら、それこそ香穂里ちゃんのお父様に連絡を取らないといけないでしょう? ウチはそういう点では、きちんと結界も張ってあるし、信用出来る電話会社と契約しているから、盗み聞きされるような心配も無いし。どうかしら?」
両親の提案に私も賛成だった。
今は香穂里の身を落ち着かせることが最優先。こんな時に私が動揺していてはいけない。
香穂里が私を見たので、私は作り笑顔で頷いて答える。
『それに、この家の住人は全員、能力者だから。いざという時は全力で戦えるよ!』
「それじゃぁ、迷惑が ……」
『入院していた時点で保護者はウチだったのですから、そこは気にしなくて大丈夫ですよ』
姉だった。ほぼ真上の2階から気配がする。
ということは、恐らく私達姉妹が倉庫のように使っている部屋を片付けているのだと思った。
そこは家族共通の書斎のようになっていて、今まで姉が書き溜めた如何わしい同人誌の在庫などを保管してある。
香穂里は悩んでいたのか、驚いているのか。
しばらく複雑な顔をしていたものの、私の笑顔に後押しされるように頷いた。
「それじゃぁ …… すいませんが、しばらくお邪魔させて頂きます」
その発言に、私達は大きく頷いた。




