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077 ☴ 公認の家出 *

 とうとう、この日がやって来た。

 いつもの胸の宝石を着けずに、専属の執事ムラオカに見守られて外に出る。


 放り出された場所は、山上公園の一角の林の中だった。

 夜中だけあって心地良い風が吹いている。


 まだそんな時期なのね、何て思いながらも私は一歩を踏み出した。


 見張りが私から目を離さない。視線は感じる。

 だけど、それも次第に遠くなってゆく。


 それでも私が能力を使わなかったのは、学校に居る時のように外で使わないことが体に染み込んでしまっていた為かもしれない。


 公園から出て、駅に向かってしばらく歩いている途中で、人だかりを見つける。


 何でも、怪盗ホーリーが現れたとか …… 報道陣も凄く多い。

 自然と隠遁の術を使ってしまった。


 が、その時になってやっと、今の私は能力が使えるのだと実感する。


 わざわざ電車に乗る必要も無いのだと改めて思い知らされて ―― それでも駅を目指したのは、単純に人が多かった所為だと思う。

 とにかく、この人だかりから距離をおきたかった。


 駅の反対側にはほとんど人が居なかった。

 メインが公園側だけに、こちら側は寂しく思うほど居ない。


 故に、気配が全く無くなったあたりのビルの隙間に身を潜めた。


 追って来る気配はもちろん無い。

 視線も無い。


 そのことで安堵して振り返り ―― そこに私を見つめる人影に気付く。


 あまりに気付くのが遅れた所為か、私は茫然として立ち尽くす。

 暗くて目視では解りにくいまでも、その独特のオーラを私は良く知っていた。


「岸間さん?」


 思わず声をかけていた。

 すると、岸間さんが大きな溜め息をついて見える位置まで近づいてきてくれる。


「何で風見がこんなところに …… ってか、アンタ、こんな時間に出歩いて …… 家の人、心配とかしないの?」


 逆に変な気遣いをされた。


 むしろ、それは私の台詞。あちらこちら傷だらけの岸間さんに言われても返答に困る。


 しかし、何故かは解らない。

 そんな姿を目の当たりにしていても、異様に冷静な面持ちで居られた。


「今さっき、公認で、家出したところ」

「…… え?」

「これから、宮本さんの家に行こうと思って」

「…… えっと、これから?」

「えぇ。…… 何でそんなに変な顔をしているのかしら?」


 岸間さんは凄く変な顔をしていた。その理由は、すぐに解る。


「もう電車、動いていないけど?」


 なるほど。そう言われて私も納得する。だけど、


「屋根の上を飛んで行くつもりで、この路地に入ったの」


 間違いではない。

 だけど、一般人に見られたら面倒なことになる。それだけは避けたかった。


 それを聞いた岸間さんは納得した表情で頷く。


「なるほどね。それなら、」


 そう言ってやっと笑顔を見せてくれた岸間さんが結界を張ってくれる。

 人払いの結界だとすぐに解った。


「先に行くと良いよ」

「…… ありがとう」


 私はそう答えて足に魔力を溜める。


「そう言えば、岸間さんはどうしてここに?」


 不思議に思って訊ねた。

 が、岸間さんは少し暗い顔をしている。


「…… 言いたく無ければ、」

「風見は、過去を清算したいと思う?」


 急にそんなことを訊ねられて、私が逆に驚いてしまっていた。

 岸間さんが溜め息をつく。


「私は清算したくないの。しちゃったら、過去を忘れてしまうみたいで。その為に、ここに居るんだよね。あはは …… 訳、解んないよね。ごめん、気にしないで」

「…… 過去の清算は、記憶があるから出来ることだと思う」


 正直に思ったことを答えた。

 岸間さんが少しだけ目を丸くする。


「記憶があっても、現実を受け入れられていない人が現実を受け入れることを "清算" と呼ぶのだと思う。だから、記憶がない私では清算は出来ない。でも私は、過去の記憶がないからこそ、現実を受け入れられていないの。そういう意味では、過去の記憶を手に入れて清算したいと思っているわ。例えそれがどんなに辛いことだったとしても、先に進む為には必要なことだと思うから」


 岸間さんが聴き入るように黙り込み、軽く壁に寄り掛かる。

 辛そうだけど、答えなければならない気がした。だから続ける。


「それに …… 清算しても、過去は忘れない。忘れてしまいそうになったら、思い出せば良い。それは記憶としては残るのだから、他者からの忘却の術でも受けない限りは忘れること何て無いわ」


 これは紫の発言から理解し、推理したこと。

 私の記憶は邪魔されている。忘却の術があるならば、摺り込みの術があっても不思議ではない。

 故に、私は過去の記憶を忘却され、摺り込みされ、更に数分間ずつの記憶を奪われている状態なのだと理解出来た。


 その結果、今の私が居る。

 きっと、如月さんからしてみれば、これも私の成長 …… 壁を乗り越える為の一歩なのかもしれない。


「…… 何だか、スッキリした!」


 不意に岸間さんがそう言った。

 どうしてだろう。私まで嬉しく思って素直に微笑む。


「それなら良かった」

「さてと。あまり長居も出来ないみたいだし、」


 と言って岸間さんが見た方向は、私ではなく私の向こう側だった。

 つられて私も振り返ったら、警察の車が何台も通り過ぎてゆくところだった。


 その前を、大きなカメラを抱えた人達が駆け回っている。


「行くなら、お先にどうぞ」


 岸間さんにそう促され、私は先にその場を後にさせてもらうことにした。


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