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076 ☉(▲) 退院後の初登校

 私らが学校に戻ると、真っ先にクラスメイトからの心配の声がかけられていた。

 詳しいことは話さなかったものの、きちんとはっきりと答える。


「大丈夫。心配してくれて、ありがとね」


 そしてふと思えば、こうして皆から心配されて声をかけられることなんて今まで一度も無かったなぁ、なんてしみじみと思っていた。


 いつも怖がられていたのは、"炎の魔術師" の異名を持つパパの所為。

 そして私自身も、強い超能力者と戦って勝ち抜く事が使命だと思って日々、生活を送っていた為かもしれない。


 でも、この学園に来てから考えは変わった。

 特に今年に入ってからというものの、魔力暴走は大会でのあの1度しか起きていないし、あの時の魔力暴走は記憶に残っているし、何より実際の神様 ―― 宮本と如月の2人に出会えたことで、今までの考えが一気に払拭された気がする。

 これもそれも、私自身がアンクと契約して炎神になったことで、落ち着きが出て来たのではないか、何て自分の中では思っている。でも、それを証明するモノは無い。


 ―― モノが無ければ、ヒトに聞くしかない。


 大したことのない政治経済の授業中。

 それも今は成績に響かない内容で、おじいちゃん先生が「ここはぁ~、してからに~」と眠くなりそうな説明をしている。

 寝ている生徒も多い中、私は机の下でメモ帳を1枚破った。


『ちょっと、聞きたい事があるんだけど』


 そう書いたソレを如月に渡す。

 如月は一瞬躊躇っていたものの、受け取ってソレを見たかと思えば、


『こっちで聞けば良いのに』


 何て返答してきた。

 私のテレパシーだと周囲に聴こえてしまうかもしれないから、何て思っていれば、


『お姉さんは最初から使い分け出来ているから問題無いよ』


 何て返って来る。

 …… 流石、音神。完全に心の声が読まれてしまっている。


 私は諦めて、言われた通り、そのまま訊ねることにした。


『核って "見える" モノ?』

『うん。まぁ、"感じ取る" が正しいわね』


 あっさり答えながらも、如月は黒板に書かれたことをノートに書き取っているようだった。

 器用な奴め。私なんかずっと前から如月に話そうか悩んでいてろくにノートを写せていないというのに。


『自分のは解りにくいけど、他人のが良く解るのは、自分の性格を解ろうとしていることに近いのかな。性格は自分より他人の方が解りやすいもの。でも、モノとして取り出したり、使ったり、会話出来たりするあたり、核の方が見えるから解りやすいかもしれない』


 私は如月に言われたことを別のノートにメモる。メモりながらも、疑問が生まれて訊ねる。


『核って球体 …… だよね? それが半分とか …… あり得る?』

『核との契約者が願えば、起こり得ることではあるわね』


 如月はそう答えてから腕を組む。おじいちゃん先生が眠くなる解説をする中、如月は適度に聴いているかのように(タイミング的にフリだと思われるが)頷いている。


『神器の核と違って、神の核の場合は "根付く" というのが正しい表現。根付きが浅ければ丸ごと、その核を譲渡することも可能なの。もっとも、その核に根付かれた!と気付いた時には既に譲渡出来ない状態の場合が大半なのだけど、世襲制の場合は譲渡されるから、最初から何の神であるのかを解った状態で神を担うことが出来る、という訳』

『なるほど ……』


 今の吉村首相を思い出す。

 首相は代々、吉村家。そして首相を継ぐと同時に "智神" の核を受け継いでいるらしい。


『それだと、2つに割れた核だと2人の契約者が生まれることになるような?』

『本来の考えならそれが正しいし、世襲制の場合では、逆にこのことを利用して次世代に神としての自覚を持たせているわね。でも、それ以外の場合は ―― 例えば、神が次世代を見つけられなくて死に絶えた場合は、核は一度、大元の1つの球体に戻るの。それから、いくつもの条件に全て一致する相手を探して勝手に根付く …… らしいわ』

『らしいって』

『私もその瞬間を見たことがある訳じゃないもの。そもそも、その間の記憶は核にも残されないし。あくまでも、そう伝わっているだけ』


 核の記憶にも残らないのであれば、確かに証明のしようがない。如月でも知らないのは当然だった。

 なので私も諦めて溜め息をつく。


『だから、どうしてお姉さんの核が半分しか無いのか、までは私の範疇ではないけど、』


 そう言った如月は何故か紗穂里を見る。

 紗穂里は(おじいちゃん先生の隠れファンだからか)真面目に聴いてノートに控えている。


『その理由を知っているかもしれない人には、心当たりがあるわね』

『…… もしかして、紗穂里? え、何で紗穂里が ……』

『それは私では無く、彼女からきちんと聞いた方が良いと思うわよ? それとも、私から聞いて彼女を問い詰めたいの?』


 ―― 問い詰めるって。


 そこまで考えてもいなかったものの、しかし私が情報屋の如月から聞いてしまったら、そうなってしまうほど重要なことなのかもしれない、とは素直に思えた。


『今のお姉さんなら大丈夫』


 如月は不意にそう言った。思わず首を傾げそうになる。


『彼女は言い出す時期を窺っていたの。お姉さんが魔力暴走を "制御" 出来るようになる時期を』

『 "制御" ……? そうか、これが制御している状態なのか ……!』


 凄く納得する言葉だった。

 制御しているから魔力暴走が起きにくくなっている。つまりは、この魔力暴走の大元の原因を紗穂里も知っているのかもしれない。だから紗穂里は重大な何かを黙っていた、というところだろうか。


 すると、如月が少し頷いたように思えた。


『だからもう少し待ってあげて。必ず、彼女から近いうちに事実を打ち明ける日が来るから』

『…… 如月は、その内容を知っているんだよね?』

『ある程度は聞いたけど、それ以上のことは調べた結果の推測でしか無いけどね』


 まぁ、でしょうね、とは素直な感想。


 何せ紗穂里は口が堅い。秘密主義を掲げているだけあって、その秘密の多さに後から知った私が呆れてしまうほど、その堅さは学年一だと思う。

 私には言ってこないけど、本当は漫画家の手伝いをしていることや、紗穂里のママが有名な占い師であることは、紗穂里と同じ漫研の凪や伊吹から聞いて知ってはいる。


 それでも、最初くらいは紗穂里の口からそういう話しを聞きたかった。


『それがお姉さんの答えなら、今はまだ待ってあげて』


 如月に念を押されるまでも無い。

 私はもうしばらく我慢することにした。


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