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075 ⛩(☴) 悪霊騒ぎ④ *

 試験が全て終わった後、市原先生に呼び出しを受けた私と純は、理事長室に呼び出されていた。


「数日前に、白雲運河が例の処理をしてくれたよ」

「引き受けて頂けたのですね」


 純のやけに冷静な言葉にも動じずに理事長が頷く。


「条件付きで、だがね」

「条件?」

「『君達が自力で学園の結界の守護神を見つけること』だそうだ」


 思わず私は純と目を合わせていた。

 いや、条件にしては、意味が解らない。


「え? だって …… 断りを入れて処理をしてくれたってことじゃないの?」

「いや、これが私にも解らん。白雲運河に依頼の一報を入れたら、やはり根に持たれていたらしい学園の調査と、さっきの内容を飲んでくれたらやる、という返答だったから、素直にどちらも可だと応じたら即日処理をしてくれたらしい。しかも、その時についでに調査まで行ったらしく、後はこの条件を君達が対処してくれたら全て完了する、ということだったのだよ」


 そう言いながら理事長は私達に1通の手紙を渡してきた。しかし、それが英文で書かれていたために、英語の苦手な私には読む気すらおきなかった。

 が、純はじっくりと読み始める。


 そしてしばらくして読み終えたのか、丁寧に手紙を理事長に返した。


「意味が解りません ……」

「その通り。だからこうして2人を呼び出した、ということだよ」

「断りを入れずに手を出したことを謝りに行けということ? …… にしては、咲九すらも断った "土地守神に報告するほどの大事" を良く無視させることが出来たよね? って話だし …… うーん??」


 私の呟きに理事長も純も悩み込む。

 しかし、答えは出ない。でも、やることは解っている。


「兎にも角にも。守護神探しは私達がやらなきゃいけないことは、間違えない事実なのよね?」


 純に訊ねれば、純は頷いて答えてくれた。


「そうみたい。頑張りましょう!」

「あまり無理はしないでおくれよ?」

「だいじょ~ぶ! 純が居れば千人力だから!!」

「えっ?! そ、そんなことは ……」


 何て会話をしながらも、一体どこからどのように守護神に繋がる調査をすればいいのか、何て悩んでいる私だった。




 教室に戻ると、何故か咲九が席に座って私達を待っていたようだった。私達が教室に入るなり、座ったままの咲九が声をかけて来る。


「原因が処理されて良かったわね」


 思わず小さく舌打ちした私は、しかし咲九に近付きながらも怒りの言葉で答えようとした。

 が、それを純が私の制服を掴んで止める。


「結界の守護神は校内に居るわよ」


 咲九の一言に私は目を丸くしてしまった。


「というか、校内に居なかったら結界の管理なんて出来ないでしょう? それから、中央大聖堂に行くと新しい情報が得られるはずよ」


 そう言った咲九は立ち上がって鞄を手にする。


「遠音が待っているから私はもう帰るわ。行く・行かないはお姉さん達次第」

「何それ? ちょっとそんな言い方っ」


 と言いかけたあたりで私の声は出なくなっていた。


 咲九の裏ワザ、声止め。全ての声を強制的に遮断する術。

 私の怒りはその時点で頂点だったが、それを何故か純が頑張って止めようとしていた。


「別にどう思われようと私は気にしないけど」


 咲九は一言、そう言い残して術を置いて教室を出て行った。


 しばらくして咲九の術が弱まったあたりで私が術を解除し、ムカツクとばかりに地団太を踏んだ。

 それを見ていた純が私の制服の端を引っ張る。


「何っ?!」


 思わず怒りながら訊ねれば、純は恐る恐る、私を見て答える。


「中央大聖堂に、行きたい」


 その一言で私は更に腹立ったが、


「実は今日、あの猫達に餌をあげに行ったら、既にそこには居なかったの」


 猫のことか、と適当に流そうとしたものの、何故かあの猫を思い出し、私の怒りは多少なりとも納まる。


「…… で?」

「そこに、如月さんの気配のような余韻が残っていたの」

「まさか …… 咲九が猫を殺したとか?」


 純は頭を必死に横に振っていた。


「違うわ。多分、猫を安全な場所に連れて行ったのだと思う」

「何でそんなこと、解るのよ?」

「猫が1匹だけ残っていて、その猫が、鳴きながら中央塔の方角を見ていたから ……」


 中央塔の方角は、あの高台からならギリギリ見えるか、見えないかの場所にある。

 そのすぐ隣に中央大聖堂があることは、この間の大会の開会式で知ったことだった。


「そう言えば ……」


 不意に思い出し、私は口にする。


「咲九って、動物には昔から優しいんだよね」



 中央大聖堂に入れば、中にはシスターすらも居ないのか、気配すら感じられなかった。

 しかし、普段からこの建物だけは解放されている、昔からある建物の1つらしいとは聞いている。


「ここに来れば何か解ると思ったけど ……」


 私が中央の通路を進み出せば、不意に真後ろの扉がバタンと閉められた。


 あまりの急な出来事に純と2人で振り返る。

 純は頭を横に振った。純が閉めたのではないとしたら …… 一体誰が閉めたというのか。


「バレてはいけないと思って人払いをしておいたのですよ」


 ふと誰かの声が響く。

 私が大聖堂の奥を見れば、隅の方に1人の男子が立っていた。


「お初にお目にかかります。しかし、姉さんから話しは聞いているのではないでしょうか」

「蓮、君?」

「はい」


 私ではなく、何故か純が答えていた。


 そう言えば、前に咲九の弟が純の弟と同じクラスとか言っていた気がしなくもない。つまりは、純もその弟を通して名を耳にしていたということになる。


「この子達を救って頂いたようなので、僕が知りうる限りの情報を提供させては頂けないでしょうか」


 蓮の抱えていた子猫は、あの時、私の足元にやってきていた子猫だとすぐに解った。

 この子達、というからには他の子達もどこかに居るのだろうと思う。だから私は第一に口を開いていた。


「その子達 …… 助かったの? 悪霊は?」

「全員では無いですよ。でも、貴方がたのお陰で姉さんが早急に動いたことは事実です」

「咲九が …… 動いた?」


 驚いて目を丸くした。

 蓮が抱いていた子猫を床に置いてあげている。


「えぇ。貴方がたが姉さんに話しかけた帰りに、姉さんが直接、この子達を除霊して個々に結界を張り、また同じ穴に戻らないように違う穴を用意したんです。既に堕転していた一部は除霊によって死んでしまいましたが、最後は安らかな顔をしていました。もしもあの日、貴方がたが姉さんに言わなかったら、この子達の半数以上は死んでいたと思います」


 蓮の説明で私は納得した ―― 同時に、壮大な勘違いをしていた、とも。


 個々に結界をかけ続けることは容易ではない。ましてやそれが数日と続けば尚更、魔力の消費だって日に日に激しくなる。

 確かに咲九だからこそ出来そうではあったものの、それだってかなりの魔力が必要だったはず。


「あの後すぐに、貴方がたが直接、理事長に掛け合ってくれたお陰で、白雲運河が迅速に結界を張るという応急処置をしてくれました。しかし、それは一時的な施しです。学園の守護神を見つけ出して最終的な施しをしなければ、完全な処理にはなりません。ですが、その処理をしてくれるかどうかは、その守護神次第なので僕にも解りかねますが」

「なるほど。その守護神を私達に見つけ出させたいのは、それが理由?」

「いいえ。僕でもその理由は解りかねます。しかも、元は猫が気に入って住んでいた穴倉。戻らないという保証はどこにもありません」

「守護神の捜索 …… それをしたら、その子達は穴倉に戻っても大丈夫、ということであっているかしら?」


 純の一言に蓮が頷き返した。


「もっとも、守護神はなかなかに強敵だと思いますよ。姉さんならヒントくらいは知っているかもしれませんが、その姉さんでも足取りだけではなく気配すら追えないと嘆いていましたから。本当に "かくれんぼ" がお得意なのだと思います」

「そんな相手を探すなんて …… 私達で出来るか心配だわ」

「でもまぁ、少なからず、事情は解っていると思いますけどね」


 純の言葉に蓮は答えて失笑する。


「守護神は決して正体を現さない。でもそれは、他に理由があるからだと姉さんは言っていました。その理由は教えてもらえませんでしたが、相手が属性神であれば、少なからず反応はあるだろう、とも。姉さんがそれを言わなかったのは、情報があまり無かったから言えなかったことに加えて、この内容を属性神に直接言わないよう、その守護神に例の手紙で念押しされていた所為です」

「やっぱり、如月さんは優しいわね」


 純はそう言いながら私を見た。私は赤面する。


 いつだって咲九は味方をしてくれた。なのに、どうして咲九にあんなことを言ってしまったのだろう。


「…… 姉さんは気にしていませんよ」


 不意に蓮がそう呟いた。

 私達は蓮を見る。


「他の子達はここの地下に居ます。地下、と言ってもそこの奥ではなく、側面の穴倉ですが」


 そう言って蓮が指した先には、人1人が通れるくらいの幅の階段が用意されてあった。確かに下に繋がっているようだ。

 ただし、その下は暗いのか灯りは一切感じ取れない。その側面ということは建物と地面との間に隙間でもあるのだろうか。


「大聖堂は悪霊すら寄り憑かない聖域。先にある結界も乱闘になった時点で追い出されるようです …… この子達ですら。だから、安心してもらって大丈夫です」


 蓮はそう言って子猫を撫でていた。子猫は嬉しそうに鳴いている。


「複雑なんですよ」


 ふと、蓮は悲しそうな表情をしてそう言った。

 そして私達にゆっくりと近づいて来る。


「守護神も、僕達も。大きな目標があるのに、何をしたら良いのか解らない。漠然としたモヤモヤ。幸福なのに、これじゃない感。…… 皆、同じモヤモヤを抱えて生きているのだと思いますよ」


 ビクッと反応したのは純だった。

 私は解らずに首を傾げる。


 つい数メートル前まで来た蓮は立ち止り、どこか悲しそうな金色の目で私達を見つめる。


「一部の守護神には、過去の記憶が無いと姉さんが言っていました。故に、能力はあるのに守護神ではないみたいに感じているのだと、僕は勝手な想像をしています。それは誰かに似ていませんか?」


 私は気づいて、純を見た。

 純は目を丸くしたまま固まっている。


 その脇を、蓮が通り抜けた。

 そして振り返った私と蓮がほぼ同時に目を合わす。


「言っておきますが、僕は姉さんとは違って相手の思考を読むことは出来ませんよ。あくまでも、姉さんから教えてもらった情報を元に推測しているだけです。でも、僕にはそれで十分です。必要以上の情報を得たら、何れ要・不要の選別をしなくてはいけませんからね。では」


 蓮は言い切って前を向き、そのまま扉から出て行ってしまった。


 私は茫然としつつも純を見る。

 純はただただ、悲しそうに大きな溜め息をついていた。


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