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074 ⛩(☴) 千尋の夢(閑話)

 話しは逸れてしまったが、私の兄は過去にその栗原病院に入院していたことがある。


 兄はただの自動車事故で、ただの両足骨折だったのにも関わらず、超能力者という理由だけで近くの病院に断られた。

 そのため、その頃から既に不審な噂が耳に入っていた栗原病院に入院するしか無かった。


 入院した時から兄は次第に思考を変えて行ったらしく、退院時には私の知っている兄の思考では無くなっていた。

 それでも、私にとっては優しい兄であることに変わりはなかった。


 しかし、その退院からの帰り道。


 兄の我儘で土手沿いを祖父と兄と私で歩いていたその道中で、私達は不運にも悪鬼に遭遇してしまった。

 最初に気付いた祖父は真っ先に結界で守ってくれたものの、大怪我を負ってその場から動けなくなる。


 当時は本当に、その悪鬼という言葉も知らなかった私はただただ狼狽したが、それを兄が落ち着かせ、私にネックレスを渡して、子供の足でもあと10分もあれば着くだろう神社に助けを求めに行くよう促した。

 足止めは兄がやる、と言って私を押し出した。


 悪鬼は瞬時に私を睨んだが、その前に兄が立ちはだかり、今まで見たことも無いような動きで悪鬼を翻弄させていた。

 その間にも兄は何度も私に行けと叫んでいた。


 我に返った私は走り出す。

 でも、やっぱり心配で振り向いてしまった。


 その瞬間、兄は悪鬼の巨大な黒い鎌に心臓を突き刺されていた。

 血があちらこちらに噴き出す中、悪鬼が私を標的にしたことが解った。


 あまりの出来事に混乱した私は、そのネックレスを握りしめたまま走り出す。

 すると、不思議なことにネックレスが魔力をくれたらしく、一瞬の間に私は神社の前までやって来ていた。


 ―― ()()()()()()()()()、私には未だに解らない。


 それでも、廃病院という単語を聞いて、そのことを思い出してしまっていた。




 私はそのネックレスを取り出し、見る。


 あの時の私は知らなかったが、兄のネックレスには水神の半分の核が納まっていたらしい。

 そしてあの時、この水神の核は必死で逃げる私を選んだ。


 どうして兄が水神の核を持っていたのか、どうして修業に否定的で野球に逃げ出していたような兄が術を扱えたのか、どうして水神は兄を選ばなかったのか、このことは未だに解らない。


 でも、亡き祖父の属性神のことを知りたいという夢と、兄の『大きくなったら雷神を探す』という夢を受け継ごうと思って私は生きている。


 ―― 巨大な黒い鎌を神器にしている死神への復讐心と一緒に。



 結局は学園の結界の守護神と連絡は取れなかったものの(違う人にかかってしまったらしい)、この件については理事長である叔父に任せることになった。

 原因らしき場所が解った以上、放課後の慈善活動を一時停止する為の緊急会議をこれから開くらしい。


 だから今、私は風見さんと一緒に駅に向かって歩いていた。


 風見さんの実の兄が死神という情報は私の耳にも入って来ている。

 だからこれは、風見さんに近付く千載一遇のチャンスなのではないか、とどこかで思っていた。


「ねぇ、風見さん」

「純で良いわ」


 不意に風見さんから返答があった。

 一瞬、何のことを言われているのか解らなくて頭を傾げる。


「 風見 純 が私の名前。下の名前で呼んで欲しいの。…… 変、かしら?」

「ううん! むしろ喜んで!!」


 風見さん、否、純の発言に私は狂喜乱舞している。

 が、ここで本題を逸らされても困る。


「純のお兄さんは死神なんだよね?」

「…… えぇ」


 若干、返答に間があった気はしたが、気にせず続けることにする。


「今度会わせて欲しいなぁ …… 何て、」

『嫌よ!』


 こちらはほぼ即答だった。

 私が驚いて純を見ていると、純はハッと我に返ったのか、唖然とする私を丸くさせた目で見つめて来る。


 しばしの沈黙の後で、純が大きな溜め息をついていた。


「最近 …… おかしいの、私」

「おかしい?」


 純の言葉を反復させれば、純は小さく頷いてから話し始めた。


「今までは心の中で思っていても口にしないことは多かったの。それが、最近は自然と …… 今みたいに、まるで心の中の言葉が溢れてきて何故か伝えてしまうの。変 …… よね ……」

「でもさ、それが本音なんでしょ? 別に変じゃないよ?」


 私は迷うことなく答えていた。

 純が不思議そうに私の返答を待つ。


「確かに大人になって社会に出たら必要なことだと思う。でも、私達ってまだ中学生だよ? それにさ、本音を相手にぶつけることって凄く大事なことだと思う。本音を言わなかったら相手に失礼だよ! 例えばだけど、んー …… モデルでも不細工な子が居るとするでしょ? 不細工だと思っていてもその子に『可愛い』と伝えて、その一言で不細工な子が本気で自分を『可愛い』と思い込んでしまったら、そしてモデルとして活躍するようなことになってしまったら、社会に出てから恥を知ることになるでしょ? まぁ、そんなにアホな子はモデルに居ないと思いたいけど、それでも今の私達は子供なのだから、社会何て知らなくても ―― つまり! 本音で生きても良いと思うんだよね」


 ―― 言っていた自分で解らなくなった、なんて言わない。


 それでも純は理解してくれたようで。


「本音で …… 生きていいの?」

「…… じゃぁ聞くけど、何で純はお兄さんに私を会わせたくないと思うの?」

「何で …… って、え? 答えて良いのかしら?」


 純は首を傾げていた。

 だけど私は頷いて真剣に純を見つめた。


 純は首を頻りに傾げながらも言葉を呟く。


「兄上は、宮本さんを、偽物の水神だから、殺せと …… でも、私には、宮本さんが偽物には、全然思えなくて …… それに、宮本さんを、失いたくないと、思うから …… 兄上には、会わせられない」


 あまりにも非現実的な発言に私は言葉を失った。


 これは純の妄想にしては壮大過ぎる。

 しかし、死神が私を殺したい理由には心当たりがある。



 兄と祖父が死神によって殺されたことは、あの後すぐに私の家で議題に上がっていた。

 というのも、兄と祖父を殺す理由が解らなかったのだから無理も無い。


 そして最終的には、兄が私に預けたネックレスに水神の核があったことから、水神の核を狙っていたのではないかということで議論は集結した。


 それから何度も神社に襲撃が遭った。

 それはどれも神社の守護神である母の結界のお陰で収拾している。


 結界の外に出ても私個人が襲撃されることが無かった故に、議論は何度か再発しそうになっていたものの、もしかしたらネックレスに留まっていた水神の核を狙っていただけで、人間の中の水神の核には興味が無いのではないか、と私の中では思っていた。


 しかし、本当は私が偽物だと死神は考えているからこそ、私を放置していたのだとしたら。


「でも、私は水神に間違いないよ」


 私は純にそう返答した。あの白雲運河も認めたのだから間違いないだろう。

 純は解っていたかのように頷く。


「考えられるとしたら、欠けた水神の核を所持しているもう1人が、何らかの事情で水神と名乗っているのかもしれない。その欠けた方の核では、"神様としての変身" は出来ないし、そもそも "水神" でもないから核が心臓と融合することもない …… ただ所持しているだけ。死神は、その人に騙されているよ!」

「…… でも、兄上には言えない …… そう言ったら殺されるから」


 どこか悲しそうな純の発言に私は気付かされる ―― 純が死神に脅されているのだと。


 一応、宮本家の本家から情報は貰っている。

 その中には確か、風見一族が独裁主義を築いているという情報があった気がする。逆らう者は容赦なく切り捨てる。ましてや逃亡する者はどこまでも。

 そして、一族は死神の為なら自殺も厭わないらしい。


 どうして死神の為にそこまで、と思う。


 だけど思えば、純の慕う兄というのが死神。

 つまり、私と同じ ―― 死んだ兄を救う為に死神に復讐心を燃やすことと同じに、いや、もしかしたらそれ以上に、純は兄を慕っているのではないのか。

 独裁を築く兄の為に良き手足となって働く傍ら、本音をぶつけたいと思っても殺されることが怖くて黙るしかないのではないか。


 ―― それでも、兄の為に何かしたい。矛盾と葛藤。


こちらの次の更新は10日です。


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