073 ⛩ ある廃病院について(閑話)
廃病院 ―― それは私にとっては凄く嫌な思い出だった。
大昔、と言ったら凄く前のように思うかもしれない。
しかし、私が生まれる5年くらい前から11歳くらいまでの、約20年間にあった現実の話。
当時、超能力者を受け入れてくれる病院は日本にはまだ存在しなかった。
むしろ、超能力者と解られた時点で研究施設に回されるほどに、超能力者は忌み嫌われていた。
何せ最も神に近い存在と謳われて世間に広まってしまった挙句、悪森の悪鬼による凶悪な事件も相まって、超能力者は一般的に受け入れられる存在では無かった。
そのため、大半の超能力者はそれを受け入れてくれる地域 ―― 例えばそれは、私の住む宮本神社の結界の敷地内であったり、妖怪に人権を与える美島市内であったり —— そのような一部地域にしか住めないようにされていたらしい。
言うなれば、アンチ神、アンチ宗教、という時代の流れだった。
そんな時期に出来たのが、今でこそ悪名高い栗原病院だった。
当時は超能力者を一般人と同じように受け入れてくれる唯一の病院だったので、あっという間にその名は広がったらしい。
しかし、その頃から超能力者の中に、記憶障害を抱える患者が全国で増え始めた。
栗原病院にも何人かの入院患者が現れた頃に、初代の院長が死去した。
しばらくしても、記憶障害を抱える入院患者の謎は解消されなかった。
故に栗原病院でも入院患者は増え続けるばかり。
病院に受け入れられなくなったあたりで、二代目の院長はとうとう、入院患者を救う為に入院患者を研究に使うことにした。
しかし、記憶障害は脳の中で起きている ―― 当然ながら脳を弄繰り回すことになった。
何人もの死者を出してようやく薬を作り上げたものの、その薬の副作用までは考えられていなかった。
―― 薬の副作用は、人間の吸血鬼化だった。
悪霊や悪鬼に憑依された訳でも無く、無意識に他人を殺害したいという衝動に駆られる。そして他人を殺害して血を舐め尽した後で我に返り、自分のそのあまりにも異様な行為に気付く。
薬を打たれてすぐに発症する者はまだ良かった。
が、このことを知らずに退院した者は家族を皆殺しにしてしまうという悲劇が相次いだ。
それでも大きなニュースに至らなかったのは、その家族も超能力者である可能性が高かったために、超能力者を減らしてくれるその吸血鬼の存在自体が、一般人にとっては神のように思えていたかららしい。
しかも、その薬で意識障害は無くなる ―― というよりは、意識障害になったとしても後から "きちんと思い出せる"。このことは、意識障害を抱えた超能力者にとっては涙を流すほど嬉しいことだったらしい。
そのために悲劇は更に広がった。
だが、やがて家族以外を殺し始めた超能力者によって、両親を目の前で奪われた子供が現れる。
その子供たちは、当然ながら病院を恨んだ。
そしてあろうことか、子供たちにも超能力の発現があったという。
そんな子供が集団になって病院に火を放ち、瞬く間に延焼。
院長だけではなく医者、入院患者諸共、全てを焼き殺した。
ところが、その薬に使われていた成分の1つは世界的に禁忌と言われていた毒薬だったらしい。
その毒薬の影響で、5年が経った今でも、その廃病院の周辺には毒が蔓延している。
例え体に強固な結界を張っていたとしても近付くことさえ出来なくされている、と聞いている。
現状、その毒を除染する方法は更なる毒薬を使うしか方法が無いらしい。無論、その毒薬も人間に害があるとか。
故に、中に入って検分することは難しく、今はただ、時間が経って毒の成分が薄くなるのを待つしかないらしい。
なお、数年ほど前から、超能力者は唐突に受け入れられるようになっていった。
特に先端的な人として上げられるのは 岸間 章太郎 という香穂里の父親で、別名は炎の魔術師。
岸間家は元々、海外の貴族という身分だったらしい。故にその地位を利用して、超能力者も普通の人間である、という証明をしてくれたからこそ今がある。
また、日本でも今の吉村首相が "智神" …… 昔から地界に住んでいる神様で、就任と同時に世間に公表し、今もその頭脳で海外の首脳陣と調和を図ってくれている。
あと、麻生 和美 というママドル …… 円の母親の影響もあっただろう。
今ではごく自然に受け入れられるようになっている。




