071 ☈ 悪霊騒ぎ②
放課後、咲九と一緒に帰ろうとしていたら、荷物をまとめる咲九の所に宮本と風見がやって来ていた。何か話しを持ちかけているらしい。
咲九は困惑した表情で渋っている。
「どうかしたのか?」
「大会の後から増え始めた悪霊の原因が解ったのよ」
私を見て宮本はそう答え、また咲九を見た。
何故か咲九は唸っている。
「それを私に祓えと言って来ているのよ」
咲九はそう答えて私を見上げた。
「個人的には帰りたいし、関わりたくないのだけど」
「…… 頼んで来ているってことは、2人じゃ難しそうな話しなのか?」
私は咲九の気持ちを汲んで訊ねた。これには風見が頷く。
「暴けたところで、私達の結界では耐えられないと思う」
「何が出て来るか解らないし ……」
『そんなに何を悩んでいるんだ?』
思わず咲九に訊ねた。咲九は溜め息をついてから答える。
『大事になるからよ』
『…… どういうことだ?』
『私の予想が正しければ、2人が言っている穴は間違いなく原因の1つなのでしょうけど、その穴を塞ぐとしても、根絶やしにするとしても、そのどちらにしても大事に発展するわね』
『そんな穴があるなんて ……』
私がそう呟く間にも、咲九は2人に返答をする。
「この件は私では無く、学園側から白雲運河に依頼をした方が良いと思うわよ」
その一言で宮本が悟ったらしい。
顔を真っ青にさせて咲九の机を叩いていた。
「そんな大事なの?!」
あまりの大声にクラスメイトが全員揃ってこちらを向いた。
それを宮本は気にも留めずに続ける。
「咲九がちょっと手伝ってくれるだけで ――」
「私は超人ではないもの」
イラッとしたのか険悪な表情で咲九は答え、宮本を見る。
宮本が口を噤んだ。
「それに、もしものことがあったら、この学園は誰にも入れない地域と化す ―― あの廃病院のように。
この意味、貴方達なら解るでしょう?」
ビクリと反応したのは宮本だけでは無かった。何故か風見まで反応している。
咲九の金色の目がそんな2人を睨んだ。
「それとも、私に死ねと言っているの? 冗談じゃないわ」
「そ、そんなつもりじゃぁ ……」
「解ったなら、白雲運河に依頼した後は首を突っ込まないことね」
咲九は冷たく言い放って席を立つ。
「帰ろう、遠音」
「お、おう ……」
私には、咲九の表情に気圧されてそう答えることしか出来なかった。
『私が怒っていたのは、』
そう咲九が話し始めたのは校門を出てからだった。
駅までの長い下り坂を足早に歩む。
『2人では危険という判断をしたのに私に依頼をしてきたということ』
私は黙って咲九の話しを聞く。
確かに、危険と判断したなら咲九に頼むべきではない。
だけど、それだけ咲九が頼りにされているということではないのか。
『そこじゃないのよ』
あっさりと私の答えを言った咲九はふっと笑っていた。
『あの2人が危険と判断したのは正しいことよ。そして2人では無く私の手を借りようとしていたことも、決して間違いではないの。
でもね、あの2人は命を賭けて挑まなくてはならないとどこかで解っていた。千尋は解らないけど、風見さんは薄々、私が怒っていた理由に気付いていたと思う』
『命を賭けて …… いやいや、そんな大事だとは思っていなかったんじゃないか?』
『そう。そこが2人の浅はかさ』
咲九はそう答えて階段をタンタンとリズム良く先に降りて行く。
『これだから無知は怖いのよ。そもそも、危険だと判断したのであれば、私では無くまずは理事長に相談するべきなのに、あの2人は私に話しを持って来た。急いては事を仕損じる、よ。それに、私ではあの穴をどうすることも出来ないわ。むしろ増長させることになるかもしれない』
『増長って』
『…… 正直言えば、あの穴の存在はかなり前から気付いていたの』
私が咲九の隣に到着するなり、咲九はそう言い放ってまたも先に進んで行く。
『でも私は放置していたわ。悪霊が出て来たのは、魔力暴走の影響。それまでは出て来ることは無かったし、問題も無かったから』
『放置していたのは、それだけじゃないんだろ?』
と、下まで降り切った咲九が驚いた様子でワザとらしく私を見上げている。
私は思わず失笑した。
『お前のことだから利用していた …… とか、そんなあたりだろ?』
『まぁ、流石に利用まではしていないけど』
咲九は意外にもあっさり白状し、失笑する。
『気付いているなら早い話し、あの穴の先には扉があるの。その扉が壊れちゃっているから、いくらあの穴を埋めても無駄ってこと。その扉を壊したのは転入してきたばかりの私』
『ちょっと待った! じゃぁお前が学園の悪霊の除霊を頑なに手伝わないのは、』
『悪者みたいに思われるのは嫌だからねー』
あまりにもあっさり答えた咲九に私は唖然とする。
私が降り切ったあたりで咲九は私を覗き込んでいた。
『さて、ここで問題です! 私はどうして扉を壊したのでしょう?』
「はぁ?!」
思わず生の声で驚けば、周囲にいた全ての通行人が私らを振り返っていた。
私は恥ずかしくなって、知らないフリをする。
もっとも、今下って来た階段の途中の電柱裏でハグし合っている生徒よりは目立っていない、と思いたい。
—— というか、おい。ここは公衆の場だぞ。
咲九は嬉しそうな笑顔で私を見つめている。
「それが解けたら、あの学園の秘密を教えてあげる」
「何を馬鹿なことを …… そもそも、学園の秘密何て別に知らなくても良いし!」
「あっそう? 遠音はおばあさんの秘密を知らなくても良いってことなの?」
―― 何でそこで私のばあちゃんが出て来るんだよ。
ツッコミの気力も失せた私はさっさと歩き出す。
咲九はそんな私の後ろから付いて来るものの、少し不貞腐れているように思えた。
ふと、咲九は顔を道の反対側へ向ける。
「ねぇ、ごめん。今から寄り道したいんだけど。付き合ってくれる?」




