066 ⛩ 能力大会・後半3戦目の異変③ *
2人の白雲運河の執り計らいで、何とか2人の魔力暴走は収束された。
いつの間にか香穂里の元にやって来ていた紗穂里まで気を失っていたが、香穂里の体から離れそうにもないということで、白雲運河が2人がかりで香穂里と紗穂里を運び、私と紫で黄のことを運んだ。
その運び先の選手控室で、白雲運河の片方が言う。
『もう大丈夫だろう。後は皆が目覚めたら委員会に報告を頼む』
どうやらそれが私に言われているのだと気付き、思わず目を丸くさせる。
「えっ?! 私が ……?」
『私が2人来たと言えばすぐに理解するだろう』
『そうだな …… 我々は帰るとするか』
「最後まで居ないとは …… 流石、白狐様」
名前が違うまでも紫は何かしら事情を知っているらしく、白雲運河に対してそう言っていた。
すると、もう片方が鼻で笑った。
『終息が我々の役目。それ以後の判断は運営団体や責任者に任せることになっている』
『もっとも、こういう時は必ず他の神の手を借りることにはなっている』
『ここでの後のことは水神に頼む。故に我々は帰る』
そう答えた白雲運河は、2人揃って部屋から一瞬にして …… そう、本当に煙になってしまったかのように消えて行った。
私達が唖然としていると、その向こう側の出入り口から遠音と咲九がやって来る。
「咲九!!」
「2人 …… じゃない、3人の様態は?」
事情を既に把握しているらしい咲九が、そんなことを私達に訊ねてきていた。
これには紫が返答する。
「もう大丈夫だって、白狐様が」
「…… ねぇ、白狐って、もしかして白雲運河のこと?」
思わず私が訊ねれば、紫はキョトンとした表情で私を見ている。
「しらくもうんが?」
「それが正式名称よ」
咲九がそう答えつつも、真っ先に黄の体に触れている。
「 "空に浮かぶ白い雲が夜空の星の運河のように流れる旅人" という意味らしいわ。私も詳しくは知らないけど」
そう答えた咲九は顔を上げて紫を見る。
「どちらももう大丈夫そうね」
「白狐様 …… じゃなくて、白雲運河って2人も居たの?」
「何で私に聞くのよ」
咲九が呆れて訊ね返しても、紫は断固として質問を取りやめそうにも無い。
大きな溜め息をついた咲九は立ち上がりながら答える。
「日本には全部で3人。国外含めると12人で結成されているという情報はあるわ」
「その内の2人?」
「聞かれても私は直接会っていないから解らないわよ。そもそも、姿だけ真似しようとすればいくらでも真似出来るし、そういう違法菓子が海外では出回っているくらいだから」
咲九はそう答えながらも移動して、今度は軽く腰を屈めただけで香穂里と紗穂里に手を当てた。
「こっちも問題無し、と。はい、」
そう言って咲九は紫に手を伸ばす。
訝しげに紫が咲九を見つめた。
「…… 何?」
「良いから、早く手を出しなさいよ」
そう言われた紫は、咲九を睨みながらも手を伸ばす。
警戒しているのか、ゆっくりと動かしていた。
それを咲九が伸ばせる範囲まで着たあたりで、咲九が掴んで一気に引っ張る。
すると、今まで紫が溜め込んでいたらしい悪のオーラが一気に変換されたことが、紫のオーラの違いからすぐに解った。
紫があまりに驚き過ぎて、咲九に手を握られたまま唖然としている。
「なっ!?」
「借りる固有能力を応用して彼女の悪の魔力を全て奪ったのでしょうけど、そのままだとお姉さんが堕転していたと思うわ」
説明をした後で咲九は紫を真面目な表情で見つめる。その目は金色に輝いていた。
そして、紫も金色の目に変化する。
「貴様っ!!」
慌てて紫が咲九の手を振り解いた。途端に紫の目は普段の茶色に戻る。
その目の色を見て、ふと咲九の目を見た。
咲九もまた、同じような薄い茶色の目に戻っている。
「今! ウチの力を調べようとしたやろ?!」
「それがどうかしたの?」
咲九は平然と答える。
「真実を知りたいと思っている割には、お姉さんは真実を知ろうとしていないように思えるけど」
「何を根拠に ――」
「真実を知ることが怖いから、過去の事実を他人に知られることが怖いから、お姉さんは前に進もうとしていない。だから今、私が何の神なのか調べようとして拒否をした。違う?」
「っ ……」
「ほら、何も言えない」
私から見ても恐ろしいくらいに咲九は凄く冷静だった。
そして同時に、今の言葉は私にも突き付けられている気がしてならなかった。
私にも、事実を知ることが怖いと思っている過去がある。
そしてこのことは、誰にも知られたくは無いとも思っている。
恐らくは、紫も私と同じような過去を抱えてしまっているのだろう。
「過去の事実を自分の中で許さない限り先には進めないわ。過去ばかり夢見ていても仕方ないの。私達は今、どこに居るの? 今という未来に居るのでしょう? 確かに過去が必要な人もいる。でもお姉さんの場合は未来が欲しいのでしょう? 違う?」
「違わない ……」
恐らく …… 紫も、私と同じ。
過去に過ちを犯している。
それを認められないまま、許せないまま、私達は生きている。
咲九はそれを清算しろと言っている事は理解した。
しかし、そう簡単に清算出来たら葛藤はしない。
「その方法は、私でも他人でも解らないわ」
咲九はそう答えて私を見た。
「それを知っているのは自分だけ。解っていてもなかなか一歩を踏み出せない気持ちも解るわ。…… 私にも経験はあるから」
「「・・・」」
「でも、進まなくてはいけない時が来たの。もしそういう日がやってきたら、嫌でも覚悟を決めて進まなければならない。はっきり言って、覚悟を決めておいたとしても凄く辛かったわ。傷を癒す時間も無かった。だからね、出来たら2人には自分のタイミングで踏み出して欲しいの」
重みがある言葉に私達は口を噤んだ。
と、遠音が何かを言おうとして咲九に止められる。
「まぁ、そんなことよりも。今は先に理事長に連絡するべきじゃない?」
不意に咲九の言葉が私に投げられたことで現実に引き戻されていた。
そう言えば、叔父さん …… ではなく、理事長はこの会場には居ない。
代わりに校長は居たけど、恐らく眠ってしまっているだろうと思えた。
私は慌てて携帯をポケットから取り出す。
「それから、魔力暴走の後は必ず体を温めること」
これは紫に振られていた。
紫は一瞬驚いた表情をした後、慌てた様子で駆けだしてゆく。
「それと、恐らくどっかで花菜子が妖精の力を借りているだろうから、遠音はそこに行ってコレを渡して来て頂戴」
そう言って咲九が遠音に渡したのは、凄く小さな緑色の小包だった。
まるで昔話に登場しそうな葉っぱで包まれている。
しばらくそれを眺めていた遠音が咲九を見れば、咲九がそれを解っていたかのように答える。
「花菜子のことだから、説明しなくても渡せば解るわ」




