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063 ⛩ 能力大会・後半3戦目の異変① *

 紗穂里が戻って来たのかと思って斜め上を向けば、何故かポップコーンを手にした紫が立っていた。

 平然と私の隣、紗穂里が座っていたところに座り、ポップコーンを食べ始める。


「えっと ……」

「喧嘩でもしたの?」


 紫がそう私に訊ねてきた。


 試合会場は既に完成されていて、後は審判が隅々までチェックをすれば、次の試合は早めに開始されるだろうと思われた。

 会場の修復、女子側の決勝戦の初戦での術の残留の処理、などで休憩になっていた20分間はとうに過ぎ、時間はかなり押している。


「喧嘩というか …… ちょっと考え方が合わなかっただけ」


 紫の所為だけど、とは流石に言えなかった。

 紫もそれ以上には聞く気がないらしく、ふーんと言いながら流している。


「そう言えば、如月さんは?」

「え? あぁ、用事があるって言って席を立ったままだよ。咲九はいつも通りだからともかく、永瀬さんの置いて行っちゃった荷物もあるから、下手に席から立てなくて」

「お手洗いくらい行って来ても良いよ?」

「終わるまでは平気。でも喉渇いたから、ちょっと買って来ても良い?」


 私の質問には、紫はもう片方の手でバイバイとやってくれていた。

 だから安堵して腰を上げる。

 と、その途中で紫が言う。


「ついでに缶のコーラ」


 そしてポケットからワンコインを取り出して渡してきた。

 ポケットから一発で良く出せたものだ、何て思って失笑しつつも受け取る。




 戻ると試合は始まったばかりだった。


 紫が真剣な表情で香穂里と黄を見ている。

 試合を見入っていた私だったが、しばらくして立っていたことに気付き、座る。


 歓声が丁度静まったあたりで、ふと紫の異変に気付く。


「その目……」


 紫は驚いて私を見た。

 が、目の色はどう見ても金色だった。


 ややっと気付いたらしい紫が目を擦って直す。

 そして失笑した。


「今の …… 黙っといてくれる? 円にも言ってないから」

「黙っといてって …… え、じゃぁ紫も ……」

「何のかはウチにも解らんけど、そうみたい」


 そう答えた時に、背後から一気に歓声が上がっていた。


 香穂里が押していたと思っていたのだが、どうやらそれは黄が大きな一撃をお見舞いする為の溜めだったらしい。

 素早く体勢を整えた香穂里を見て、紫とほぼ同時にその異変に気付く。


「ああ! やっぱりあかん!!」 「何? この変なオーラはっ?!」


 それは対決中の2人から感じられたモノだった。

 2人のオーラが混じり合って、凄く黒いオーラに変化している。

 それがまるで煙のように2人を取り巻き始めていた。


「黄はな、」


 不意に紫が妙に静かな声で話し始める。


「花菜子と同じで、悪の属性を扱えるらしいんよ」


 その属性は特殊だと言われている、唯一の憑依質の属性。

 悪霊や悪鬼は大元の人間の属性によって変化するが、悪の属性は超能力者である以上、染まりやすいことは解っている。

 その悪の属性を扱える超能力者も少なからず存在してはいたが、詳細はまだ明らかになっていない。


 解っていることは、その悪の属性が、悪魔の部屋と同様に他人を堕転させることに長けていること。

 つまりは、魔力暴走を引き起こしやすいということ。


「その自分の悪の属性を制御出来んから、その為に家を出て修業をしとるんだって。せやから、ウチの実の妹という訳やない」


 香穂里も過去に何度も魔力暴走を起こしていることは知っていた。

 ということは、連鎖反応を起こして香穂里も今、魔力暴走をし始めている可能性は高い。


「それは、かなりヤバイよね」

「うん」


 紫はそう言いながら立ち上がり、悪の属性のオーラの所為でうつらうつらと眠り始めている周囲を見回している。

 耐性が無いと眠ってしまう、とは花菜子が教えてくれたこと。


「さっき如月さんがどこにいるのか訊ねたのは、そのため」

「なるほどね」

「黄だけならウチでもどうにか出来るかもしれないけど、流石に2人の相手は難しいと思って」


『それには及ばない』


 不意に上空から声がしたかと思えば、真っ白い獣のお面が、ほぼ誰も居ない3階席から私達を覗き込んでいた。

 それを見た紫とほぼ同時に答える。


「白狐様?!」 「白雲運河……?」


 そして互いに顔を見合わせた。

 どうやら紫の知人でもあったらしい。が、叫んだ名前が違う。


 しかし当の白雲運河は全く気にも留めていなかったらしく、平然と視線を会場に向けている。


『こうなることは十分に予想していた。だから、先に色々と仕込んである』

『その仕込みは3段階』


 そう答えたのは、白雲運河と同じような声色の相手だった。

 反対側にでも居るのか、黒いオーラで見えない方向から気配と雰囲気だけは感じ取れる。


『この試合は中止にして双方負けとする』

『悪に耐えられないとは、何と情けないことか』

『我々が登場したあたりで、神の者以外には記憶が残らないよう、被害が出ないよう、睡魔に誘う術を客席と控室にかけてあった』

『しかし何重に結界も施してある。問題はあの2人の体力だけ』


 交互に答えたかと思えば、上に居た白雲運河がヒョイと手すりに乗っかった。


『もっとも、まさか私より先手で動いている者が居るとは思わなかったが』

『それは私の台詞だ。貴方が見に来ていると知っていたら動かなかったのに』

『しかしこの状況から察するに、逆に居てくれて助かったと思うべきだろうか?』

『同意する』


 状況が悪化していることは、悪のオーラを見ても良く解る。オーラは結界の内側で大きな渦を作っていた。

 それがこちらに来ないのは、恐らくは咲九の結界のお陰だと思う。


『さて、問題はどうやって彼女達を封じたものか』

『手伝いましょうか?』


 見上げた紫がそう声をかけていた。

 白雲運河が鼻で笑う。


『対策でもあるのか?』

『黄のオーラを私が吸収することで止めることは出来ます。私の場合は耐性があるので問題にはなりません』

『…… 悪を浄化することは、出来ます』


 私は仕方がなくそう答えた。

 紫が驚いて私を振り向いている。


『ただし、あれだけ濃いオーラを全て浄化出来るのか …… やったことは無いので解りません』

『還元なら私も出来る。助っ人が居るのなら会場を治めることは出来よう』


 私達を近くで見ていた白雲運河は、そう答えて私のすぐ傍に舞い降りてきた。


『問題はもう1人だ』

『私が引き受けよう』


 そう答えたのは、少し前に白雲運河と討論を交わしていた方だった。


 その声が先程までと違い、何となくで後ろに居るような気がして紫と共に振り返る。

 すると、そこにももう1人、白雲運河が立っていた。


 目を丸くする私達に対して、隣の白雲運河は鼻で笑っている。


『安全な封印もろくに出来ない若造が何を言うかと思えば ……』

『条件が整っている今なら、封印何て朝飯前だろう』


 そう答えたもう1人の白雲運河が声を上げて笑っている。

 それを聞いていた隣の白雲運河が舌打ちしていた。


『気配はしないが …… まさか、どこかに "相方" が居るのか?』

『そんなことは後回しで良いでしょう?』


 ピシャリと答えたもう1人の白雲運河がこちらに歩いて来る。


『今は彼女達を封じることが最優先。違うか?』

『いや、違いない』


 仕方なさそうに隣の白雲運河が答えていた。


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